パーティ結成!
「土日を休みにして、冒険にいきましょうか!」
ヨーコは笑顔で言った。
「急すぎるよ…」
「大丈夫です、装備は買いそろえておくので、戦士になって下さい。それにパーティになると誰が倒しても経験値が平等に入るので、タカミさんは何もしなくていいんです」
「本当に?何もしなくていいの?」
「はい。スキルポイントがたまってきますから、お好きなところに割り振って下さい」
「…何もしなくていいのは助かるわ」
「ただ攻撃対象にはなりますから、うまく逃げてくださいね」
「怖そう…」
「平気ですってば。私もビショップ用の装備着ていきますから」
「私もいこう」
いつの間にか後ろにいた紳士さんに驚く。いつもこうだ。
「忍者装備はある。この3人で充分だ。あと遠い場所に行く時間がないからダンジョンだ」
紳士さんまでやる気満々じゃないですか…
「分かった分かりましたから、今は仕事に集中しよ?」
「じゃあ土曜日早朝、待っているぞ」
紳士さんは消えて行った。
「久々の冒険なんでワクワクしますね」
「はいはい私は逃げ回りますからね」
私はアトリエに入り、ヨーコはレジでお客さんを待っていた。
相変わらず画集は売れている。2刷が売り切れ、ただいま3刷中。印税もそのたびもらっていた。好調だ。
通常の絵もコンスタントに売れている。やはり肉筆の効果は高かった。画集を買ってから肉筆絵を買ってくれた方もいた。
「だけど相変わらず構図がマンネリ化してるのよねー」
思わず独り言をつぶやくタカミ。
ロンドンで他の人の画集を買っておけばよかったと後悔する。
あー他の人の画集が欲しい!欲しくてたまんない。
ストックを充分上げた私は、レジをヨーコにまかせ、上着を着て荷馬車を呼んだ。
船着き場の近くに書店があって、そこはロンドンで出版された画集があると噂で聞いた。そこなら買えるはず。いや買えてくれ!
40分くらい揺られた頃、
「つきやしたぜ」
馬車乗りにチップ込の料金を払い、早速書店に入ってみる。予想より大きいのでニヤリとしてしまう。
「えっと画集は…」
どこだろう。色々見て回る。小説なんかもいいわね。実に色んな小説が目白押しである。
店員さんらしき人が通り過ぎたので、訊ねてみる。
「あの…画集みたいなコーナーありますか?」
「画集はあっちです、ご案内しますよ」
店員に連れられ着いた場所には沢山の画集が並んでいた。
「ありがとうございます!」
早速他の人の画集を手に取る。いいぞこれ~。これもいい。
宝箱のようなコーナーである。ちなみに私の画集も売っていた。
しばらくはずっと興奮しながら画集に見入っていた。10冊ほど手に取り、なんとかレジまで持ってゆく。
「宅配便でおねがいします」
届けば天国が待っている。お代を支払いして店を出た。
また荷馬車に乗り、しばらく揺られていた。退屈な時間だったが画集を見たので満足感はある。
店まで戻るとヨーコがお客さんと揉めているのを見て駆けつける。
「どうしました?」
「画集の落丁があったみたいで…」
「ああそれなら新しいのをどうぞ」
「ったくふざけた態度とりやがってよお」
その客は帰って行った。
「気にしないで良いからね、落丁は珍しくないらしいから」
「はい…」
「ついに明日土曜日になっちゃうわね…」
「楽しみですね!しかもダンジョンなんて」
「平気…かな、はは」
「基礎体力が目に見えて向上しますよ~」
正直それだけが目的だと言ってもよかった。体力と素早さ。その2つがどうしても欲しい。
「はあ…今は絵を描こう」
「いってらっしゃい」
そうこうしてる内に肉筆絵は背景画をのぞいて完売した。
「クローズドしちゃおうか!肉食いにいこ肉!」
「またですか~?」
「明日は冒険するのよ?肉食わないでどうするのよ?」
そんなわけで2人は焼肉をたらふく食い、明日に備えた。
「明日起きれるかな~」
「大丈夫です起こしにゆきますので!」
お店で解散と思ったら、宅配業者がウロウロしていた。
「なんかありました?」
「タカミさんですか?宅配です」
もう本が届いたかと思って開けると、戦士の装備一式だった。
「私が頼んだものです。これを着て冒険にいくんですよ」
「戦士になるってことね…はぁ」
明日は朝から新たな冒険だ。とりあえず早めに寝る事にする。
翌朝――――――
「朝ですよ~タカミさん!」
「うう…もう朝か」
「装備に着替えましょう」
ヨーコはすでにビショップ用の装備をしている。店の中に行くと装備があるので装着する。何だかコスプレしている人っていう感じだ。
「準備は終わったかな?」
白い紳士が真っ黒な装束を着ていた。やはり忍者だ。
「それではダンジョン前まで行こう。遠くは無い」
ダンジョン前まで来た。今までアトリエで絵を描いていた自分が、急にダンジョンの前にいる。
「敵が来たら盾で受けるか、逃げてください」
「階層はどこにしましょうね」
「真ん中くらいがいいぞ」
「じゃあ5階ですね、マップは全部持ってますので」
「タカミさん5階で私達が敵を
ヨーコが呪文を唱えると、下に魔法陣が現れる。
「この中へ」
3人とも入って行く。
私達は5階にやってきた。早速人型の敵が数人やってくる。忍者紳士があっという間に首を跳ねる。するとタカミのレベルとスキルポイントが15もあがる。
「どんどん行くよ」
そういって3人はどんどん先に進み、大きなヤモリや人型の魔法使いなどをドンドン斬っていく。ビショップヨーコは何か玉のようなものを出して戦っている。私のレベルとスキルレベルはどんどん上がっていった。3時間ほど経った時、
「さすがに疲れたので1階に戻ろう」
と、忍者紳士が提案したので1階に戻る。
「さあヨーコ君、ゆっくりスキルを振り分けたまえ」
「いろんなスキルがあるね…」
しかし迷わずここは体力と素早さの2つを上げた。私の体からオーラが発せられる。
「大分あがったね。じゃあ今日はここまでにしよう。明日の朝もここにくるよ」
そう言って忍者は消えるようにいなくなった。
私の冒険は、ただ見てるだけのあっけない物語だった。
力がみなぎって来るのがわかる。ペンを描く素早さも上がって来るだろう。
結局は参加してよかった、という事になった。今日は深夜食堂で何か食べよう。
店内に戻ると、装備一式を脱ぎ捨てた。
「ぷはぁっ!」
ダンジョン内は寒かったが、今は暑くて汗が出る。タオルで拭いて私服になり、食事するお店まで徒歩で移動した。
「おひさしぶり」
「お邪魔しま~す」
お茶漬けやちょっとした肉料理、漬物にご飯と、最高の料理を今日も堪能した。
お店に戻ると、
「じゃあ私はストックを描くからこれで!」
といって解散した。
アトリエに戻ると早速頭を切り替えて、絵を描き始める。すばやさが上がったので速攻で1枚仕上がってしまった。これはすごい…我ながら感心する。結局は冒険に出てよかった。明日も戦闘を見守ろう。
この速さならすぐに眠れるなと感じたタカミはベッドに横になり、これもまた速攻で眠りに入った。
翌朝――――――
「タカミさん~あ、もう準備できてますね」
私は早く寝たおかげで早く起きれた。装備もしっかり装着している。
「本当はもっといい装備を渡したい所なんですが、タカミさんは傍観者なのでそのままでお願いします。」
「私も来たよ」
いつのまにか店に入ってきて後ろでささやく。
「もーいつもそれ、やめてくださいよー」
「私は忍者だからね」
「今日はどの階にしましょうか?」
「…実質2人だから5階以上はきついぞ」
「じゃあ6階に行ってみましょうか」
「…うーむ。うむ!了解した」
何やら相談が終わったようで、
「今日は6階で敵を倒していきますね」
「は~い」
あとは昨日と同じ魔法陣の中に入り、敵をばっさばっさと斬り下ろしていくのをただ見ていた。
しかし、知らない内に最後列にいる私の後ろからゴーストが近づいてきていることに誰も気づかなかった。私は後ろを振り向くと同時に盾で攻撃をかわした。
「タカミさん!」
ヨーコは光の玉を出しぶつけると、そのまま消えていなくなった」
「危ない所だったな」
「こういう事があるのがダンジョンです」
「もうだいぶスキルポイント貯まっただろう?」
「そうね」
「じゃあ今日はこの辺でお開きにしよう。魔法陣を」
言われたヨーコは魔法陣を出す。3人入ると自然に消えた。
1階に戻ったパーティー一行は、スキルポイントを振り分けながら夕日に照らされていた。
「冒険はもういいよ」
タカミはスキルを振り分けてから言った。
「もう充分すぎるほどスキル増えたし、2人もしんどいだろうから、今日でもう終わり。ありがとうね」
「そうですか…残念です」
「君がそう言うなら仕方ない」
3人は店前で解散した。
「はーっ今日は2人でスーパー銭湯にいかない?」
「いいですよ」
新しい仕事場には風呂が付いていたが、やはりスーパー銭湯にはかなわない。
2人でスーパー銭湯を堪能して、店前で解散した。私はまだまだストックを描く仕事がある。でも素早さを手に入れた私の手は満ち溢れんばかりにかがやいている。
タカミは店を開け、中に入るとシャッターを閉めた。
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