画集到着!

アトリエが新しくなって効率はあがってきたが、やはり心もとない感じがしてソワソワする。落ち着かないというわけだ。それでもモチベーションは上がってるので、ガシガシ描いてゆく。

レジはメイド服姿のヨーコが担当している。もう慣れた風で優秀だ。

「お荷物で~す」

宅配便の人が来て、

「画集か?」

とざわついたが、以前作った新しい紙袋だった。

でもまあシンプルなデザインでとても良い。そのまま作業に戻った。

もう来るお客さんが判別できるまでになっていた。あの人は写真の人だろう。


絵の上にはライトがひかえめに光っている。美術館みたいだ。

ヨーコは写真をとりつつ順調にさばいていった。

こちらはまだ3枚だ。圧倒的に追いついてない。

タカミはアトリエから出てきて、

「今日から1時間お昼休みを取る制度にしましょう。というわけで着替えずにレッツゴー!」

「え、でも汚しちゃったら…」

「神ナプキンでもかければいいわ。それよりいい店見つけたから!」

タカミはもう準備していた。ヨーコも慌ててついてゆく。


「ここよ!」

噴水前から少し横に入った所にあるお店、焼き肉店である!

「お昼から重くありませんか~?」

「いやむしろお昼に食べないと。さあいくわよ」

そこで色んな肉を試し食いし、満足する。

「ムぐ…ヨーコはどこでビショップやってやってたの?」

「ダンジョンです」

「ダンジョン!?」

「そうです」

「あんな狭苦しい所でよくまあやれたわね」

「冒険自体は良かったんですけど、意見が割れてから仲がドンドン悪くなって…」

「それ以上は聞くまい!さあ肉たべよ。ホルモンもあるのね」

早速店員にホルモンを注文するタカミ。

「ご飯に合うわ~」

ひたすら焼いて汗が出始めている。そんなこんなで満腹になり、お会計を済ませて店に戻っていった。ヨーコが休憩中の看板を裏返し、オープン中の看板にするとすぐお客さんがやってくる。

「まだけっこうあるな」

「どれ買おっかなぁ」

友だち同士だろうか。

そこへ白い紳士が訪れた。一気に緊張してしまう。

「先日はお疲れ様でした!」

「お疲れ。それより悪い情報を掴んだ」

バッドニュース?何だろう。

「別の街で君の絵を転売してるやつがいるそうだ」

「なんですって!」

「ここに来るお客は5割が転売屋、1割が画商、残りは一般客だとおもった方がいい」

「むむー!」

「有名税とは言え胸糞悪い情報だ。だが気にせず描いて欲しい。本は多分明日来る。それでは」

白い紳士は要点だけを丁寧に喋り、消えてゆく。

「やっと画集がだせますね!」

「大きくスペースを取るわよ!」

「転売屋の存在を知ったからには、画集は1人1冊までにするわ」

「はい!」

そうしてタカミはいつものアトリエに戻っていった。

それからしばらくはコンスタントに絵を上げていった。焼肉の力だ。

風景画を描く余裕までできた。老夫婦またきてくれるかなぁ。

そんなこんなで夜。ヨーコは2万ウーロンもらって帰宅した。

今日はもう何する事もないのだけれど、眠れないので深夜食堂で少しお腹にご飯を入れてから、寝ないで乗除絵と背景画を描いていた。


翌朝―――


いつのまにかアトリエで寝ていたタカミは、早朝に寒さで目が覚めた。

コーヒ―を飲みながら、更に少女絵を何枚か仕上げる。

ヨーコが、

「おはようございま~す」

と、元気よく現れる。

「メイド以外の服がわからないわ。リクエストある?」

「露出度が多いのはちょっと…」

「うーん…まあしばらくメイドでいっか」

ヨーコが看板をオープン!に切り替える。お客がどっと流れ込む。

良い少女絵を掴むには朝から並んで買わないといけない。いつも夕方に来る客は少女絵をしらない可能性もあった。だから夕方は別にして、少女絵のストックを持っておくことにした。

そんな中、

「宅配便でーす4箱あります!」

来た。ついに画集が来た!

「カウンター前に置いておいてください」

興奮気味に箱を上げる。1冊が重たい。ちゃんと刷り上がってる!表紙も時間をかけたのでいい出来になっていた。

パラパラとページをめくる内に、最初の頃、石を置いて露店で売っていた頃を思い出し涙がこぼれる。問題無しの出来なので、さっそく本を並べる作業に移る。

「ちょっとづつで良いから積んでいって。私もやるから」

どんどん本を積み上げていく。4箱分なのでインパクトがハンパない。

お客も様子を伺っている。いつ買っていいのかわからないからだ。

「さあ画集が届きました!お一人様1冊まで!どうぞよろしく!」

言った途端画集が売れていく。私もカウンターを一緒に手伝った。

「20冊くらい一気に売れましたね~」

「ちょっと画集発売の告知ポスター描いてくる」

タカミはアトリエに入った。ヨーコは画集を売り続けた。

「おまたせー」

タカミは店前のウィンドウにぺたりと貼った。

「タカミさん~手伝ってください~」

行列ができている。

「おっけー!」

そうして2人は画集を売りまくった。


2時間後―――


半分の画集が売れた頃、2人はもうフラフラだった。

「やっとおちつきましたね…」

「あと夕方組が来て、それでおわりかな」

2人は冷たい飲み物を飲む。

「座っていよう…ただひたすら座っていよう」

「画集発売おめでとう」

急に白い紳士が現れた。

「もうこんなに売れてるのかい。増刷が必要だね。あとこれ」

紳士は札束を渡した。

「印税だ。売れればもっともらえるよ」

「わあ!ありがとうございます!」

「じゃ健闘を祈るよ」

ワープしたように紳士は消えてしまった。

「不思議な人ですねえ」

「でも夢への案内人だよ」

「ほえ~」

いつもの夜になった。ヨーコは退勤し1人だ。

今夜は「何腹」だろう。昼は肉をたべたので、深夜食堂でさらさらしたものを食べよう。今回はさすがにマフラーをまきつけた。

お茶漬けとたくあんを食べてほっとする。

帰りはいつも風が強い。そういう土地なのかな?

それからはレジから基本金以外のお金を差し引き、アトリエに戻ってお金を金庫に入れた。画集は10万ウーロンなので、今日の売り上げは大金だ。

満足しながら仕事にかかる。いろんな恰好の少年少女を描き上げてゆく。

風景画は1作だけ描いた。まだ老夫婦は来てないみたいだった。

今日は水彩を使う余裕すらあった。やっぱり食事は万能だなぁ。力の源だ。


翌朝――――――


また画集を買う人だかりができていた。嘆息する。

絵のストックは充分あるが、レジは本当に大変だ。ヨーコはよくやってくれている。

開店すると、客は小走りで画集を手に取る。

「10万ウーロンです♪」

「ありがとうございました~」

この繰り返しである。

さすがにタカミがふらついてきたころ、ヨーコが

「もう1人で大丈夫ですから、アトリエで作業続けて下さい」

と優しさを見せつけてくれた。ありがてぇ。

「じゃあちょっと90分だけ寝るわ…」

そう言ってタカミはアトリエへ消えて行った。

時々後ろから「ぎゃおおおう」「ぎゃあああっ」と声が聞こえる。

悪夢でもみてるのかな…?

タカミが再び暖簾のれんをくぐりながら言った。

「焼肉行こう」

「太りますよ?」

「牛肉は太らない!!」

そう言って2人は2日連続焼肉店に向かった。

「あー食った食った」

「段々と親父化してきてません?」

「そう?」

下らないトークをしながら店に戻ると、宅配便のお兄さんがきていた。

「また荷物3個きてますけど」

「カウンター前まではこんで」

「ういす」

また画集がきたよ…。

めまいがしてきた。ここ最近、明らかに体調がおかしくなってきている。

「基礎体力が落ちてるんじゃないですか?」

「その通り」

白い紳士が真後ろにいた。

「ぎゃあ!紳士!」

「基礎体力を上げる方法がある」

「まさか…」

「日にちを決めてになる事だ」

「冒険!?」

「だって私そんな体力ないし」

「じゃあ体力スキルに振り分ければ良い」

「絵もそんな早いってわけでもないし…」

「じゃあ素早さにスキルを振れば良い」

突然の出来事で混乱している。

「私も前まで忍者だった。白色が好きだったが恰好はいつも黒。素早く敵に近づくテクも忍者時代に覚えたものだ」

「私も元ビショップですから、手伝えますよ」

「んん~~~~~考えさせて」

「やっとけば損はしませんよ!」

自分を強くしたいのは山々だが…。まず本当にそんな体力ないし…。

その日は夜になっても悶々として過ごした。コーヒーを飲みながらゆっくり考えてみる。無理。やっぱり無理。素直に絵に集中した。





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