出版のため、いざロンドンへ

「タカミさん、準備はできてるかな?」

白い紳士がお出迎えしてくれた。

「バッグが2つになってしまいました…」

白い息を吐きながら、私は心底疲れた様子で言った。

「帰りの本は宅配便で送るから安心したまい」

2人は馬車に乗って船着き場まで急いだ。

「とうとう来たかという感じで私も感慨深いよ」

「はい!」

荷馬車にゆられて1時間は経っただろうか。やっと

「着きましたぜ」

という言葉で眠気が覚める。

そこには大きい船が沢山停泊していた。すごい!こんなに大きいなんて知らなかった。初めて船を見たのだからしょうがないとしても、とにかくスケールが違う。

「私達が乗る船はあれだよ、青い船」

片手をひさしにして目を細めると、何とか青い船が見えた。やっぱり大きい。

「大きいですね~」

「初めて見たのだから、そうだろうね」

いよいよもって現実感が沸いてきた。船でも絵を描こう。極端に傾いたりしなければだけど。

青い船に近づくと、やはり青い階段のようなタラップがある。そこを歩いて船の中に入るのだ。中は意外と広く、食事場、寝室、エントランス全てが揃っていた。

「わぁ…」

「どうだい良い船だろう。ここからロンドンまで2日かけていくんだよ」

2日か…あっという間だろうなぁ。

とりあえず私は外の甲板に出て海を眺める。実際見ると壮観だ。圧倒されてしまう。

「船酔いはしないかね?」

「多分平気です!」

「それは良かった。じゃあ自由行動で行こう」

甲板から降りたら、お腹がぐぅと鳴ったので、食堂へ行ってみた。船ではどんなものが出て来るんだろう。行ってみると、ちらほら客がいる。私は座ってメニューを見た。パンと、サラダ、肉料理、スープとこんな感じだ。

私は店員を呼んで、スープと肉料理を伝える。

食べてみると…うん、まあまあだった。とりあえず暖かい物を食べたので体は温まった。それから私の寝室に戻る。

バッグが2つ、ベッド、小さめの机が備えてある。とりあえず机に座って、絵が描けそうかどうかを見極める。まぁ問題ないだろう。大事なのは、船が傾いてインクがこぼれないかどうかだ。だからしばらくは机に座って下描きをしていた。

何も問題なさそうなので、インクを取り出し作業をした。1つしかない大事なインクだ。こぼしたらそれで終わり。

いやロンドンなら売ってるかもしれないな。そんな事を考えながら1枚の絵に集中する。

しばらく描いてると、

「1枚あがり!」

俯瞰から見た少女の絵を描き上げた。何事にも需要と供給がある。女の子が好きなら、それを沢山本にちりばめないといけない。要するにそれは私自身が考える事ではないと言う事だ。まあ紳士もいるし、よくチョイスしてくれるだろう。

そんな時、ノックがした。白い紳士だった。

「言い忘れたけど、本の表紙をかいてね。大事だよ。女の子を希望する」

「分かりました。」

それだけ言って紳士は去って行った。まだ名前すら分からない白い紳士。

「表紙を描いちゃいますか!」

気合いをいれて時間をかけて1枚の絵にとりかかった。


ベッドで目がさめる。あれ?私描いてたんじゃなかったっけ?

机には描きかけの表紙がある。どうやら眠気がして途中で寝てしまっていたようだ。何時間寝たかはわからない。あわててベッドを出ると、再び絵の作業に移った。

数時間描いてると、またお腹がなった。これは有名なフィッシュ&チップスを食べにいきますかぁ。

そう思いまた食堂に入り、例のメニューを頼む。テーブルには様々な調味料が置いてある。つまりはこれで自分で味を付けてね、と言う事らしい。

ほどなく料理はやってきた。イギリスでは有名なベイクドビーンズまで入ってて困ってしまう。ビーンズを少し食べてみる。味はしない。チップスを食べても味はしない。素揚げというわけだ。どの調味料にするか迷ったがビネガーをとりあえずまんべんなくかける。少しはまともになった。ベイクドビーンズはもうどうしようもない。

何とか食べ切ったが、これをロンドン市民が普通に食べてると思うと悲しい気持ちになった…。

私の部屋に戻り、表紙作業の続きを描く。今回は簡単に色も付けようかと思い、水彩用の道具も取り出す。

作業は何時間にも及んだ。

「これでいいかな、うん!」

私は描いた絵をかかえて上に向けた。

シンプルな構図だが、少女が生き生きとしてる…かなぁ。そればっかりはお客にしか分からない。

眠くてしょうがなかったので、あとはベッドで何時間も寝て過ごした。


ノック音がする。白い紳士がゆっくりと入って来る。

「タカミ君!」

「ふぁい?」

すっかり眠りこけていた私は一瞬何事かと思った。

「もうすぐロンドンに着くよ。支度しておきたまえ」

「もう着いたんですか?早かったなぁ」

ほとんど寝ていた私には時が早く感じた。

「これ表紙絵だね?」

テーブルの絵を見て紳士が言った。

「はいそうです」

「良い絵だね。採用。」

続けて紳士は言った。

「私は部屋の中でどの絵を採用するのか、絵の順番をずっと考えていた。おかげ様でいい出来になったよ」

「そうだったんですか~」


ロンドンに着いた私達船を降り、霧の立ち込める場所へと移動した。

「ロンドンは雨と霧が多いので気を付けたまえ」

バッグを2つ持った私は、霧の中でも汗が止まらない。

「出版社は遠いんですか?」

「馬車で行くよ」

そうして開いている荷馬車に乗り込み、印刷所へと向かった。荷物が多いので正直助かる。

「15分前後で着くよ」

辿り着くと私は重い荷物を2つ持ちながら必死に動いていた。紳士が

「片方持とう」

とやさしい言葉をかけてくれたので嬉しさがあふれた。

印刷所は大きく、中に入ると機械が紙をすごいスピードで印刷している場面に出くわした。

「らっしゃい」

インクまみれの主任が挨拶した。

「久しぶりですね」

紳士は顔見知りのようだ。

さっそく事務所の中に通された。

「あんたが来るってことは、よっぽどの逸材だな?」

「どうかな?とりあえずこれが原稿、順番通りに並んでいる。これを1万部刷って、イギリス中の書店に配送して欲しい。増刷する可能性があるので、原稿はここに置いておく」

「勉強しても120万ウーロンはかかるぜ」

持っていたケースを取り出し、120万ウーロンだけ取り出した。

「ほう…」

「どうかな?」

「相分かった!彼女が作者かな?」

「あ、はい…」

「こんな絵柄見た事ねぇぜ。こりゃ売れるな。俺の予感は当たる」

「宜しく頼むよ。また来るから」

「あいよ」

そう言って早々に商談は成立し、すぐに印刷所を離れた。

外の風が心地いい。

「どうだい簡単だったろう?」

紳士は笑みを浮かべながら言った。

「私はただ見てるだけだったので…」

「イギリスなんて出発点にしかすぎない。いづれヨーロッパ中で売るつもりだ。」

「ええっ!?」

「怖いかね?」

「怖いと言うか…いややっぱり怖いです」

さあすぐ乗って来た船に乗り込もう。

階段を駆け上がって船に入る。外は結構寒かったが、変なテンションで寒さを感じなかった。

船はまもなくして汽笛を鳴らし出帆した。今日は絵を描かず、自由に食べたり寝たりしよう。

「シャワー室はないんですか」

「それが無いんだ。もう少し我慢してくれたまえ。まあ食事でも取ろう」

食堂にはほとんど客はいなかった。

「私はスープを。君は?」

「肉料理とスープおねがいします」

肉料理だけには味付けされていた。これがすごく助かる。

「フィッシュ&チップス食べたけど最悪でしたよ…」

「言いたい事はわかるが、最近ロンドンでも良いお店はいっぱいあるんだよ」

そりゃそうだろうなぁ…あれで我慢できる人なんていないでしょう。

「またいつもの店でお絵描きかね」

「そのつもりです」

「店にも本を送るから、存分に売ってくれたえ。なくなったらもう一度送る」

それから部屋に戻った私は、シャワーを浴びることがかなわず、仕方なく寝ることにした。イベントがすし詰めだったので、疲れていた。

それからは特に何もイベントは起きず、ただただ出版を待つ身になった。

起きると船は故郷に着きかけていた。かなり眠ってしまったようだ。

原稿を置いて来たのでバッグは1つになっていた。

タラップを降りると、うーん、と伸びをした。

「じゃあ私はここで失礼する。馬車で帰ってくれたまえ」

そう言うとどこかに消えてしまった。

言われるがまま、荷馬車を見つけて場所を伝達した。

また1時間か…早くスーパー銭湯に行きたい。紳士さんが作った本の見本を読んでるうちにもう、店前に到着した。

料金とチップを払いお店前まで来た。

「うーん何とも言えない旅だったわ。良かったんだか悪かったんだか」

と、1人の人影がこちらに寄って来る。

ヨーコだった。

「今帰ってきたんですか?」

「そうそう。明日からまた頼んだわよ?」

「はい~もう私も充電完了です!でもバニーだけはもう勘弁してください…」

「明日新着が届くから、それで行ってもらうわ」

明日から通常営業!でもその前にヨーコを誘ってスーパー銭湯に行くのであった。

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