雪解けとともに

雪が降ってからしばらくは晴天に恵まれたので、雪はほぼ無くなっていた。

晴天なら、もっと開店ぎりぎりまで絵を描かないといけない。とは言え20枚を超えたので、これでいいかと開店準備を始める。一旦外へ出ると、噴水周りに沢山露店が増えていた。ちかづいて見てみると、みんな絵描きさんじゃないですか!

私の噂がたってたって事なのかな?なぞである。

さらっと見てみたが、風景画が多い。こういっちゃなんだけど画風が古い。私は前世では流行に乗っかってきた女だ。これはべつにいいだろうと感じた私は、そのままお店のシャッターを開いた。


「いらっしゃ~い」

早速お客さんがきた。

「今日のお宝はあるかな?」

常連なのかな?記憶に自信ない私はダメダメだ。

「あ、これいいな。女戦士が敵と格闘している絵」

時間がちょっとかかった絵だ。

「これ下さい」

「4万5千ウーロンです~」

紙袋を持って帰っていった。

そう言えば新デザインの紙袋を業者にまだ渡してなかった。そろそろ発注かけないとやばかった。

そんなことを考えてると、2人の男女が来た。手を握りあってるから相思相愛なのかな?

[あの~]

「はい?」

「僕ら今度結婚するんですよ」

「それはおめでとうございます!」

「なので、2人の似顔絵を描いてくれませんか?」

参ったな。似顔絵がどうも苦手分野なのだ。

「あの…かなり盛ってもいいですか?」

「ぜんぜん構いません」

「では今描きますね。ちょっと待ってください」

初めての依頼に緊張感を覚えていた。でも盛ればいける…?

タカミはサラサラと描いていった。

「あの、一発描きなんですか?」

「あ、はい」

「すごいなぁ」

それからしばしの沈黙がながれたあと、

「もう少しですからね~花をかいてますので」

背景に少し花を飾った。

「これでどうでしょう!?」

「わぁ」

「特徴をとらえてるから盛ってても不自然じゃない!」

「ありがとうございます~」

「何ウーロンですか?」

似顔絵は初めてなのでお金を設定してなかった…。

「似顔絵は初めてなので、1万ウーロンでいいですよ」

「そんな!倍はするはずです!それと1は不吉な数字なので2万ウーロンわたします」

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて」

2人のカップルはドアに向かった。

「いい絵を有難うございます!」

2人は満足げに外へと出ていった。いい気分だ。

それからはまたアトリエに戻って作業を続けた。が、またお客さんが来たので、レジの横に座る。

「いらっしゃ~いま~せ~」

今度はこの寒さでアロハシャツを着た2人組の男が現れた。

「いらっしゃ~いま~せ~」

「いらっしゃいじゃねぇよこの野郎、ショバ代払ってるのか?払ってないなら…」

言った瞬間、タカミはデリンジャーを突きつける。

「あんたみたいなザコが来る場所じゃないわよ」

「モ、モデルガンだろ?」

「試してみる?」

半グレ野郎どもは慌ててドアから出ていった。

「もし私が冒険に出かけるなら、やっぱりガンナーね♪」

そう言ってる間にもお客さんが数名きたので、しばらくレジから動かなかった。

似顔絵と風景画は2万ウーロンでいいわね。明日ポスター作っておこう。

「これ下さい!」

「は~い!」

それから少年少女の絵はその日も全部売り切れた。

しかし最近のタカミの頭にはマンネリ感という名の電撃が頭に直下する。

「ロボットでも描こうかな、あとモノクロでドラゴンとか…」

かっこいいのも描けるんだぜ、みたいなものも描こうかなと真剣に悩んでいた。

カッコいい少年のモノクロをとりあえず1、2枚描いてみよう。

「あのー金庫届けに来た者ですけど、4人で持ち上げるので場所指定いいですか」

もう来た!まだ小さい金庫を移動していなかった。

「すいません先に小さい金庫を移動してもらっていいですか?」

「はい」

4人がかりで持ち上げ移動する。

「古いのはいりませんよね?」

「ええ引き取って下さい」

それから4人は大きい方の金庫を持ち、指定位置に置いて行った。

「じゃあこれで。どもです~」

お金を入れるのは、店じまいした時間でいっか!

というかほぼ完売に近いので看板をクローズドにした。

そして新しい金庫にお金を入れていく。まとめるとちょっとリアルな金額にちょっと引く。こんなに持ってたんだ…なにより私の物欲の無さが結果として出ているのではないのかな?ある物欲は食事だけ!

早くロンドンに行きたいわ~。でも雨も多いのとご飯がおいしくないと聞いてちょっと嫌にはなった。基本的に味付けされてないので、調味料を自分でかけるらしい。

それでも出版技術があるだけすごい街だ。そんな事を考えながらパジャマになって眠りこけた。


早朝、気持ちよく起きた私は、早速今日飾る絵を描いた。11時までには14枚くらいできるだろう。お水を飲みながら黙って書き続けた。結局12枚になったが、皆少年&少女絵なので完売するだろう。

私はすぐに配置して、値札も付けていった。客は行列ができている。なんだか『ラーメン◎郎』みたいな店になってきている。


オープンすると数人がどっと入り、品定めをしてツボにはまった絵を次々と取って行った。

「3枚」

「8万ウーロンですけど大丈夫ですか?」

「OK」

「ありがとうございま~す」

「今日の絵も良かったよ。またね」

ふくよかな男性が去っていく。そして次々と行列ができて、絵がはけてゆく。

看板前に行って、

「すみませんもう完売です~」

「えーもうかよ!」

「1人1枚にしろよ」

「1人1枚…そうします」

そう言ってきびすを返し、ドアを閉じた。

私一人でさばく量の限界を感じていた。せめて1人、万引きしないかわいい女性がいれば…。そう考えると私は店を後にし、ギルドへと向かった。

ギルドというのは冒険者たちがマッチングしてパーティーを作る場所だ。兼業でバーになってる事も多い。でもハブられている女の子だっているはず。

ギルドはちょっと徒歩では辛い場所にある。雪は降ってはいないが寒いのがいただけない。ちょっと駆け足してみたら転んだ。利き手は大丈夫だ。

私はギルドの部屋を開け、叫んだ。

「イラスト屋で働ける女子いませんか!?コスプレ好きならなお歓迎!」

一瞬静かになるが、笑いがもれる。

「ここはパーティー探す場所だぜ、わっはは!」

それでも叫び続けた!

「1日2万ウーロン」

再びギルドが静かになる。その中1人震えながら手を挙げる人が現れた。

「あの…私じゃだめでしょうか?」

「テーブルで話しましょう。バーテン、肉とダイエットコーラ2つ!」

テーブルに座って一息つく。

「どうしてパーティーに入らないの?」

「ちょっとコミュニケーション能力に難有りといわれまして」

「ウチは『いらっしゃいませ』と『◎万ウーロンになります』と『ありがとうございました』の3つだけ!簡単でしょ?」

「はぁ…」

「それと不定期でコスプレして欲しいんだけど」

「コスプレ経験ないんですけど」

タカミは上から下まで眺めながら、

「全然問題なし…ヘヘッ」

タカミのオスのような態度がどうしても出てしまう。

「万引きしないわよね?そういう経験あったから」

「私がそんな性格だと思いますか…?もちろんしませんよ。お約束します。」

これで私はアトリエに集中できる。

「日給2万ウーロン、早上がり確率90%!どうよ」

「これ以上ない待遇で感謝してもしきれないほどです」

「よし決めた!明日の朝、この地図の場所まで来てね」

「噴水前じゃないですか…!平気でしょうか」

「忙しいのは前編だけだから、それに慌てなくて大丈夫!」

新しいメンバーが増えた。いい環境に整ってきて満足したタカミであった。


「ちなみに何の職?」

「ビショップです」

「死にそうな時、かけてくれる?」

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