大きい街での挑戦

高美は話すべきかどうか悩んでいた。今日は数十万のお金になり、民衆もとりこになっている。

「あのキクさん」

「分かってるわよ。引っ越したいんでしょ」

人の心を読めるの!?

「大体心は読めるものよ。一通り段ボールにいれておいたけど、のこりはおねがいね」

「えー引っ越すのかよ」

「早すぎでしょう?」

子供からも大ブーイングだ。

「これはお別れじゃないのよ、必ず時々会いにいくから」

「本当?」

クレヨンで絵を描いている子が一番泣いていた。

そっと抱きしめる。

「あなたがいないと、私は破滅していたわ」

「えっ」

「ありがとうと言いきれないわ」

涙腺が緩んできた。外に出ると、キタさんと少年が皆集まっていた。

「キクさん、これを差し上げます」

キクがそれを目にすると、今このような状態を前もって想定させて描いたものだった。

「うっうくう…」

キクは涙を流しながらうずくまった。そして、

「ぐす。あなたはどこでも通用するものがあるわ。こんな小さい街なんかより大きい街に行きなさい。一番近い大きな街フォークスに行ったらいいわ。」

馬車に乗った高美はフォークスを目指して進んでいった。

「タカミ~いつでも困ったらここへ来なさい!貴方のおうちなんだからね~!」

高美はさすがに涙がとまらなかった。

「キクさん有難う~!!」


馬車でも1日だけでは到着できなかった。夜はキャンプをする。

焚火に何かさしてあった。

「これ、なんですか」

「うさぎだよきまってるだろ」

「え?ウサギ?ウサギを食べちゃうの」

「大繁殖しててな、砂漠化の一端をになってる害獣だ。一本だけやるから食ってみな」

思い切って

ひと口頬張る。あっつ!…でも悲しい事に美味しかった。

「皮をはいで内臓を取って焼くだけだからな。」

そう言われると食欲が無くなってしまう。でもここはひとつウサギ1匹食べ切って寝てしまおう。テントが2つ出来ている。

「私はこっちですか?」

「ああ。俺はこっちだ」

外は暖かくも寒くもなかった。今朝みたいに寒くなくてホント助かった。

それからテントに入り、12時間爆睡ばくすいしてしまっていた。

「…い」

「…おい!」

「ハイ!」

上半身を起こした。

「いつまで寝てんだよ、遅れるぞ!早く荷物もって荷馬車に乗ってくれ」

荷物を両手に持ち、馬車の後ろに荷物を2つ置いて、馬車に乗った。


「馬車さんは何年やっているんですか?このお仕事」

「15年くらいにはなるな。」

「やっぱりやりがいはあるんですか?今の仕事」

「は?食ってく為だけにやってるだけさ。子供になかなか会えないのは残念だが」

「そうですか…」

「でもそういうの、うらやましいなぁ」

「こんな馬車生活でもか?」

「馬車はここがゴール!っていう正解があるじゃないですか。私の場合絵を描いてるので正解がなくって日々、悶々としているのですよ」

「そうか…正解のない世界か。俺にはかんがられねぇ」

馬車を幾分早く走らせたせいで、もうフォークスが見えて来た。

「門の前でいいわ」

「おつかれさんっと。2万ウーロンだ」

「3万あげるから、子供とおいしいもの食べてね」

「まじかよありがてぇ!また馬車使いたい時は指名してくれよな!」


馬車から降りたのもつかの間、門番に問いただされた。

「みない顔だな。どこの者だ」

「いや~私はただの絵描きですよ」

そう言って門番に絵を見せた。

「こ、これは…」

「上手い…これペンとインクだけでか!?」

「はい」

「検討を祈る。門番ードア開けー!」

「ドア開けー!」一人分入れる場所を超えて、大きく手を振った。


それにしても大きな街である。中央にデカい幅の通路はあって、やはり中央には噴水がある。これは中心街に置かなければいけない何かの決まりでもあるのか?

こんな時間でも、いくつか店の明かりが灯っている。スパゲティーが無性に食べたかったが、はたしてあるだろうか。

普通にあった。早速入店、ミートスパゲティを注文した。

「こんな遅くまでやってるんですね?」

「今日はこんなだけど、時々数名でいらっしゃるので開けてるんです」

早速食べてみる、頬っぺたが落ちそうになるくらい美味しい!ミートボールまで入っているのか憎い。

あっという間に平らげた。

「お勘定おねがしま~す」

「はい700ウーロン」

「1000ウーロンにさせてください!おいしかったので」

「ありがとうね、また来なさいよ」

今日は宿屋でゆっくり眠りたい。そうだ!

「お姉さん、ここでいい宿ありますか?」


危なかった。地図を書いてもらえなければ、辿り着けない所だった。

宿は裏に土砂がある危険なモーテルだった。でも今は寝たい、そして描きたかった。

「すいません、泊まりたいのですが」

「1泊3千ウーロンだよ」

「じゃあ10日分渡しますから部屋に入って来ないでくださいね」

宿主はびっくりしながら金勘定をしている。

高美は自分の部屋に入ると、荷物を置くとベッドにうつ伏せに落ちて時間が止まったようだった。目が覚めると昼だった。まずい寝過ごした。お腹もペコリングだ。

いや食べ物より絵だ!しまったインクが無くなりそうだ!

私は宿主の元まで行って訊ねた。

「こういう黒い液体が入ってる瓶はありませんか?それとペン」

「ああ、それなら帳簿を付ける時に使っていた大きな瓶があるよ」

高美はキラキラしながら眺めていた。

「ペンもありますか?」

「ほい」

「1万ウーロンを対価として宿主に渡した」

(しかし…あの女金持ちだし、どこか怪しい)

宿主は折をみて、彼女の部屋を覗いてみる事にした。

高美はデリンジャーを持って宿屋の主人に構えた。

「な、何するんだい」

「私は敵は容赦なく撃つ。変な事考えないでね」

「は、はいぃ…」


噴水近くには沢山の人でごったがえしていた。

露店もポツポツとあり、雰囲気は最高だった。

私はいつもの通り、絵と値段に石を置いて、絵を置いていく。

準備万端!今日も行くぞ。

「私の肉筆絵です~良かったら見てください~」

早速お兄さんが見に来る。

「すごいなぁ…これ肉筆?」

「全部肉筆です!」

「これ欲しいなぁ1万5千ウ―ロンか」

財布からウーロンを出し、

「これね」

「ありがとうございます!」

出足は好調だ。と、さっきとは違うお兄さんがコーヒーの差し入れを持ってきた。

「まあ深い意味はないから飲んでよ」

「ありがとうございます!」

「こんな技術、どうやって身に付けたんだい?特に女の子がかわいいねぇ」

「そうですか?少年の絵も修行中です」

「これ買いたいんだけど、勉強価格でお願いします!」

値札には1万8千ウーロンと描いてある。

「1万5千ウーロンなら…」

「も…もう一声」

「うーん、じゃあ1万2千でどうです!」

「いただきます!」

絵が入った紙袋を持ってコーヒーお兄さんは去っていった。

「あのこれ、風呂にいれたらダメっすよね?」

別のお兄さんに唐突に訊ねられる。

「だめです!しかもなぜ風呂場なんです?」

「じゃあどこに飾ればいいんすか?」

「額に入れて、リビングや通路にでもあれば幸いです」

「ふーん、じゃあこのライオンとタイガーの絵下さい」

「まいどありでしたー!」


しばらく幸福感をひしひし感じていた。

前世では編集者におこられる日々だった。ただ締め付けられる人生。

その点、今はアーティストで、人気も出てきてる。今日の売り上げは17万ウーロン。

充分満足だった。家賃も10日分入ってるし、この調子でがんばれば…


その時であった。杖を持った白色紳士の姿が現れた。

「来てくれたんですか?」

「孤児院から連絡先を聞いて、ドラゴンに乗ってやってきたんだぞ!絵はどうなってる」

「もう3枚しか…」

「10万ウーロン受け取り給え」

紙袋に入れている間に言った。

「どこかへ引っ越すなら私に言え、おわかりか?」

「あ、はい分かりました。でも当分ここで暮らしますよ?」

「そうかい。今度そこらで飯でもいかがかな?」

「もちろん行きますよ」

白紳士はヨロヨロとどこかへ消えていった。

一体何者なんだろう。それを一緒に食事する事であばくのが目的だった。

もちろん相手が1枚も2枚も上手だと思っている。でも絵を売ってくれる意味があるはずだ。だから私も負けじと頑張るつもりだった。


食事の日。

白い紳士は今日も白いスーツと帽子で現れた。

「こんばんわ、さぁいきましょう」

レストランは中心街から離れた場所にあった。

「ここがね、おいしんですよ」

馬車屋にお金を払った白い紳士はレストランへといざなった。

「あらお久しぶりです」

どうやらちょくちょくこちらで食事を取っていたらしい。

「私のおすすめはラザニアあたりか…。あとワインかな?」

「あっあの私お酒飲めないんです!」

「じゃあ私が頂こう」

ウェイターが注文を取りに来た。なにやら長い会話をしている。

「おまたせ。いやぁ緊張させてしまったかな?」

私は顔が真っ赤になった。見透かされてるような気分になったからだ。

「君が聞きたいことは、おおよそ分かっている。」

「…」

「私はね、『画商』なんだよ。安く譲り受けて高く売る、それが画商だ」

「どこか別の所で高く売ってるんですか?」

「いや、まだ寝かせている状態だ。いいかよく聞いてくれ…」

私も耳を近づける。

「イギリスだけで出版が出来る」

電撃を食らったような衝動でしばらく高美は動けなかった。

「本になればバカみたいに売れる。そこまで寝かせておいてるんだ。もちろん君にも印税がはいるよ?」

「夢みたいな話ですね!」

「しかし甘い世界じゃない。もっともっと上手くなってもらいたいんだ。1枚のイラストで心が持ってかれるような凄いやつをさ」

「確かにまだ満足してません。もっと向上心があれば…」

話の途中で食事が並んできた。こんなに頼んだの?

「どんどん食べたまえ。エビチリは最高だ、食べてみるといい」

美味しい!色んな食事をとっては食べて悶絶していた。

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