つかのまの休息
「いやー食べ過ぎたわー」
ただでさえ体重は気にしてるのだけれど、段々足取りが重くなってきているような気がする。外はすっかり夜である。紳士が、馬車で送ろうか的な事を投げかけてくれたけど、歩いてエネルギーを消費しますと言って断ってしまった。
しかし歩いて行くとそれが後悔に変わった。結構距離があるのだ。スニーカータイプの安全靴のおかげで、まだ足にはきてないけど、もう少ししたらやばそうだ。
やっとの事でモーテルに戻ってきた。食事分のエネルギーを消費した気がするけど、残念ながら歩くだけではエネルギーはほとんど消費しない。
宿主さんが心配そうにやってきた。
「大丈夫かい?こんな夜おそくまで…」
「いやぁー食事しただけですから~」
「そう?平気ならいいけど…」
部屋に戻った私は着替えもせずにまたベッドにうつ伏せに倒れ、そのまま時間が過ぎ去った。
12時間後――――
私はハっと目を覚ました。またやってしまった。疲れた後の半日寝。
私は宿主にお駄賃を渡して、ダイナーでホットドックとオニオンリングとダイエットコークを頼んで買ってもらった。オニオンリングは神の味だ。
早速絵を描く準備にとりかかる。このインクとペンは初めて使うものだ。大丈夫だろうか。特にペン。
1枚試し描きをしてみる。
うん、悪くない。インクも紙に
それからは昼から次の朝まで絵を夢中で絵を描いていた。
24枚。悪くない出来だ。でもここでは売れるのだろうか?紳士はどこでもやっていける力があるような事をおっしゃってくれていたのだけど…。
このモーテルにはモーニングがないので、すぐ隣のダイナーでコーヒーとベーコンと炒り卵とソーセージを眠気と戦いながら口に運ぶ。
「元気なさそうだね?」
主人が気を使ってくれる。
「徹夜したんで…でももう今日は寝ようと思います…」
「また…次の朝まで?」
「ふぁい」
22時半後――――
ゆっくり寝すぎたため、朝から早く衣装に着替えてから大きなバッグを2つ持ち、ダイナーでコーヒーを飲んだ。
「今日は平気かい?」
「寝すぎなくらい寝たのでバッチリエビチリです!」
「それは面白くない。何一つ面白くねぇ」
居心地が悪くなったので、コーヒー代とチップを渡して早々と噴水まで駆けていった。
さすが繁栄している町だけあって、皆活気に満ちている。噴水前にも子供たちがはしゃいでいた。私は噴水前に棒を立てたりして、絵を次々と展示していく。もちろん値札もだ。
早くも民衆が近寄って来る。
「ほお…肉筆絵かぁ、すごいなぁ」
「なるほどねぇ」
「さあ皆さん世界で一つしかない肉筆絵をよろしくお願いいたします~!」
とたんに周りを取り囲んだ。
「この2万ウーロンのやつをくれ」
「ありがとうございまーす」
「俺この1万5千ウーロンのやつを!」
「はいはい袋にお入れいたしま~す!」
予想していた通りの盛況ぶりだ。
そこへ兄ちゃんが言ってきた。
「森の中にいるエルフみたいな絵はないかい?」
「すみませんそれは…え、ちょっとまって」
高美に再び電撃が走った。
「値段を1.5倍でいいならリクエスト受け付けます!」
「へぇ…リクエストか。じゃあさっき言ったエルフかいてくれよな。明日またくるから」
「俺もリクエストいいですか?」
「僕も!」
「待って下さい今メモをとりますからお名前を…」
もう売り上げがウナギ上りである。
「あー楽しい!いいなぁこんな世界。夢のようだわ」
早くも全部売れて、店じまいをしていた。
「あ、そういえば白紳士さん今日きてないな…でも完売したし、いっか」
帰りも馬車を使ってモーテルまで向かった。ちょっとあそこのモーテルは噴水までちょっと遠いと感じ始めていた。もうあのモーテルは7日泊まってから、噴水前のホテルに
モーテルに着いた高美は先にダイナーでハンバーグステーキをがっついた。何しろ今日は何も食べてなかったからだ。そしてモーテルの自室にこもり、ベッドにそのまま伏せ、眠りに入っていた。
ハッと気づくと時計を見た。良かったまだ夜だ。皆からもらったリクエスト絵を描かないといけない。
そのままベッドから机に向かい、静かな中ペンの音だけが部屋に響いている。
翌日――――
なんとかリクエスト絵を描き終えた私は、また馬車に乗りいつもの噴水前までやってきた。ベレー帽を被り直すと、もう行列ができている…と思っていたら。
「俺の魂の絵を見てってくれ!損はしないぞ!?」
なんとライバルが突然現れた。
「何だよ、このアメコミを描いた小学生みたいな絵」
「俺は中学生だ!」
「論外だろこれは」
「だから安くしてるだろ?」
「私の描いたリクエストを売りますよ~!」
「お!来た来た」
「待ってました!」
行列は少年から高美の方へ流れていった。
「このエルフ、最高っす!」
「すごい…この虎のセンスすごいなあ…」
「ありがとうございます!」
隣の少年はいらつきながらこちらを睨んでる。
「リクエストいいですか?褐色の少女が裸で…」
「あー18禁の絵は描けません!」
「そっすか…」
でもリクエストもこなし、普段の絵も完売で喜びに満ち溢れていた。
今日は27万ウーロンも稼いだ。最高値更新である。
少年がこちらに駆けてくる。
「いずれ皆分かる!カッコよさが全てってことを」
「それは別に否定しないわよ。私も描こうと思えば描けますし。ただ現実は直視しなさいね。5ウーロンあげるから好きな物食べなさい」
跳ね返すと思いきや、素直に受け取った。
「あー若いっていいわねぇ。あ、馬車さんこちら!」
そう言って高美は荷馬車にゆられながら森の中へ消えて行った。
「まだだ…まだパワーが足りねぇ…クソーっ!!」
夕方の空に少年の咆哮が響き、つられるようにカラスがアーと鳴いた。
私は部屋に帰って、ベッドの下に隠しておいたウーロン箱を開けた。
もうかなりの額になっている。
「小さめのお店を作ったら、売れるかなぁ」
高美は出店を計画していた。
「裏に仕事場を作って売るなんてどうかなぁ…えへへ」
空のお店がないか、お休みを取って行ってみる事にするが予定は未定。とにかく今はこのモーテルから出ないといけない。でもお店を見つかるまでは、ずっとここにいないといけなかった。
「あーもう!いい物件あってくれぇ~」
ベッドで左右に揺れながら悶絶する。
それから左右の揺れがゆっくりになり、自然と眠りに入った。
次の日、高美は棒と看板を持ち、荷馬車へ乗った。
本日休業の看板だ。今日はさんぽがてら、噴水近くの物件を見に行くべく噴水前まで向かっていたのだった。最終的には不動産屋に頼むけど、できれば実物を自分の手で見ておきたかったのもあった。
今日も寒く、温かい衣装を着てきたが、やはり白い息が出るほどの寒さ。
馬車のおじさんにいつもの金額を渡すと、噴水の前の土のあたりに棒を突き刺した。
本日は休業します!
「え、今日休みなの?」
「すいません…でもお店作ろうと思ってて」
「へぇお店かあ。本格的でいいね!」
「なので今日はお休みします」
「いい物件があるといいね」
いいお兄さんである。まずは噴水前をグルっとひと回りしてみた。2件ほど空いてそうな元店舗がある。OX不動産とXO不動産と描いてある。別にあまり広くても逆に困るので、小さい方にしたい。でもOX不動産はどこなんだろう。地図も乗ってなかった。携帯なんてないだろうし、困ったあげく休業中の棒の前に立って、来た人に聞こうと思った。寒いので辛いケバブを買って体を温めた。
と、昨日来ていた例の中学生の少年が手ぶらでやってきた。
「なんだお前、今日は絵売らないのか?」
「うん、今日はお店を探してるんだ」
「ちくしょう!なんなんだよこの差は!」
「中学生にしては絵は上手いとは思うけど…」
「病気の母ちゃんのために必死なんだよ!」
「えっ…」
実情を聞いて同情心が芽生えた。そうか…。
「じゃあ1万ウーロンあげるから、OX不動産の場所教えてくれるかな?」
少年はピンと1万ウーロンを取り、
「こっちだぜ!」
と走っていってしまう。まって!早すぎるから!
「ここだぜ!」
高美はただただゼイゼイいっている。確かにOX不動産だ。
「じゃあなウーロンもらってゆくぜ!」
少年はどこかに行ってしまった。薬でも買うのだろうか。
ゆっくりドアを開けると、ふくよかな男性が新聞を読んでいた。
「あぁいらっしゃい」
「おじゃまします」
古びた建物だ。本当にOX不動産なんだろうか。
「物件をお探しで?」
「あの…噴水前にあるお店ってあいてますでしょうか?」
「あ…あああそこね。ちょっと長い間売れて無かったから埃があるかもしれないけどいいかな?改装はご自由に」
おじさんは見積りを取りに行く。ここにきて私は緊張してしまう。
大丈夫なのだろうか。ちゃんとやっていける?」
「見積り持ってきましたよ」
高美は物件をマジマジと見つめる。
「これ縦に長いですよね?奥で布団おいて眠ったり絵を描いたりできますよね?」
「ほお。君絵描きなの。布団で寝れるけど、風呂ないよ?」
「それは問題ですね…」
「まあ近所にスーパー銭湯があるから、そこに行ったらいい。そんな事より」
おじさんは見積り書に目を配った。
「最初の1か月分の家賃と3か月分の敷金、30万ウーロンだけど払えるのかな?」
「結構安いんですね!」
大きなバックからお金を取り出し、おじさんに渡す。
「ほお…契約成立!今日からでもどうぞ」
「ありがとうございます」
「でも最初は掃除したり改装を手伝ってくれる人を雇うといいよ。ギルドの場所教えるから…あとスーパー銭湯の場所もね」
「助かります!」
「ちょっーと待っててねぇ」
早く絵を描きたくて仕方なかった。
「あの、今日って何年の何日でしょうか?」
「1870年14月24日だけども?」
「14月…?」
「どしたの?」
「いえ何でもないです」
そういえばモーテルの時計も12時以上あった気がした。
「はいじゃあこの書類渡すから
「こうですか?」
「ちがう、もっとグリグリと回しながら…はいOK。以後店舗のレンタル代は直接持参するか郵便屋にまかせてね」
そう言われて挨拶も終わり、私は現実味を感じなかったがお店の店長になった!
早速今日からギルドでお手伝いさんを呼んで、明日から改装を1日で終わらせよう!
嬉しくて気持ちが上向き、足が軽くなるってことあるんだなぁ。
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