第8話 お泊り旅行(後編の後半)

「ふうーっ」

 と私は少し大きく深呼吸をした。


 帆地槍さんは先にお風呂に入っている。

 私も服を脱いで一緒にお風呂に入るつもりだ。


 ここに来るまでに沢山の勇気を振り絞って来た。


 会社でもそうだったし、タクシーでもそうだった。


 あのタクシードライバーのいやらしい視線には鳥肌が立ったけど、帆地槍さんは見透かした様に「大丈夫だよ」と言ってくれた。


 帆地槍さんがタクシードライバーの視線に気付いたとは思わないけど、私が不安を感じている事を即座に感じ取ってくれた。


 私の心が弱りそうな時には、帆地槍さんは必ず気付いてくれる。


 ずっとちゃんと私を見てくれている帆地槍さん。


 これが他の男の人の視線だと恐怖で縮こまってしまう私の心が、見ているのが帆地槍さんだというだけで、こんなにも大胆になれる。


 さすがにイキナリ全裸はやり過ぎだったかも知れないけど、さっきのキスの後からは帆地槍さんが私を女として意識しているのが解った。


 帆地槍さんは、まるで自分の身体の変化を申し訳なさそうに恐縮していた。


 違う。ここで私が帆地槍さんを拒絶したり恐怖を感じるなんて無い。


 私は帆地槍さんに見ていて欲しいのだ。


 私の心までを見透かす様な、あの純粋に私を思い遣ってくれる帆地槍さんの目に、私という存在を焼き付けたいのだと言ってもいい。


 だって帆地槍さんは私の全てを受け入れてくれる。


 父親は論外としても、その他大勢の男達と帆地槍さんは、全くの別ものだ。


 私の気持ちなど見ようともせずに、上辺だけの薄っぺらく厭らしい視線を浴びせる他の男達とは、全くの別次元の存在と言ってもいい。


 そして私が帆地槍さんに喜んで欲しくてする事の全てを、帆地槍さんは私の思う以上に感動してくれる。


 全てが帆地槍さんの思いやりなんだと思う。


 だから私も帆地槍さんにもっと沢山の感動を与えたいと思う。


 だから、私はこの身体全部を捧げようと心に決めた。


 背中まである長い髪を頭の上でまとめて、バスタオルを身体に巻いた私は、私の中に帆地槍さんへの恐怖心が湧かない事を信じて浴室の扉を引いて、湯気でけむる浴室の中へと足を踏み入れた。


 薄暗い浴室内で、壁際の洗い場で座っている帆地槍さんの背中を見つけ、私は歩み寄る。


 ぽっちゃりした大きな白い背中。


 夏の外回りの影響か、もう冬になろうとしているのに、日焼けした腕と背中の白さのコントラストがすごい。


 だけど、これが帆地槍さんなんだ。

 ありのまま、正直に生きてきた証。


 表面ばかり取り繕いながら生きてきた私とは大違いだ。


 私に気付いた帆地槍さんがこちらを見る視線を感じて少し恥ずかしかったけど、まるで神々しいものでも見るかの様な目をした帆地槍さんの前で、いつまでも表面ばかり取り繕っていたくなくて、私は身体に巻いていたタオルを外し、掛け湯を浴びた。


 帆地槍さんの視線は不愉快などでは無く、嬉しくもあるが、だけどやっぱり恥ずかしくて、私はすぐに帆地槍さんの背中に回り込んで身体を押し付け、帆地槍さんの視線の外へと逃げてしまった。


 帆地槍さんも恥ずかしいのかタオルを膝にかけているけど、タオルはまるでテントの様に中心部分が盛り上がっていて、帆地槍さんが私を本能的に求めているのが分かる。


「じゃ、身体を洗いましょうね」

 と私は努めて冷静に振舞いながら、だけど帆地槍さんへと意識を向けながら、部屋から持ってきたフェイスタオルに、壁面にあるボディソープと書かれたボトルのポンプを押してタオルを泡立てた。


 帆地槍さんは少し緊張しているみたいだ。

 私も本当は緊張して心臓がバクバクと激しく鳴っている。


 だけど努めて平静を装いながら、私は帆地槍さんの背中を泡立てたタオルで最初は優しく、そしてゴシゴシと洗いだした。


 帆地槍さんの肌は年齢を感じさせない程に白くスベスベしていて、左肩から右肩に向かってゴシゴシとタオルでこすり、徐々に肩甲骨まで下げ、やがて腰までを洗う。


 そして、左の脇腹を洗い、右の脇腹も洗い、私はまた自分の胸を帆地槍さんの背中に押し付けて自分の胸を泡だらけにしながら、両手を帆地槍さんの両脇の下から胸元に回して、首元から胸に向かってタオルを擦る様にした。


 タオルはボディソープの泡のおかげでよく滑る。


 帆地槍さんの出っ張ったお腹までをゴシゴシ擦っていると、私の手の甲に帆地槍さんの固く大きくなった物が当たる。


 想像以上に固く大きくなっている帆地槍さんのものを感じ、

「あっ」

 と私は声を出してしまった。


 私の心臓が高鳴る。

 帆地槍さんの背中に密着させている自分の胸から、その鼓動が聞かれているかも知れない。


「あ、ご、ごめんなさい」

 と帆地槍さんが謝まった。


 私は、恐怖心を感じない様に、何度も深呼吸をした。


「大丈夫・・・、大丈夫なはずです・・・」


 と私は言いながら、帆地槍さんのお腹を洗っていたタオルの泡を手ですくい取り、帆地槍さんが腰に掛けていたタオルをそっと取り外して、帆地槍さんの股間の物を泡だらけの両手で軽く握った。


 すると帆地槍さんの身体がビクっと跳ねたかと思うと、

「ああ!」

 と帆地槍さんは声を出した。


 帆地槍さんの太ももがブルブルと大きく震えている。だけど私の手を嫌がったりはしていない。

 私は帆地槍さんの物を軽く握ってゆっくり上下させ、その度に震える帆地槍さんの腰に、中腰になった自分の下腹部を押し付けて、帆地槍さんが感じているであろう感覚を、私も感じ取ろうとしていた。


 と思った途端、私の手の中で帆地槍さんの反り返った物がビクンと跳ね上がり、先端からドロっとした帆地槍さんの白い塊が飛び出した。


 それは私が腕に掛けていたタオルに向かって飛び出し、何度かビクンビクンと跳ね上がる帆地槍さんの動きに合わせて飛び出すのを感じた。


 帆地槍さんが射精した・・・!


 私はそれを感じ、恍惚の表情を浮かべている帆地槍さんの横顔を見ながら、帆地槍さんの身体を思い切り抱きしめ、耳元に顔を寄せて、


「ちょっとビックリしましたね・・・。でも、良かったです」


 と帆地槍さんの耳元でそう言った。


 帆地槍さんは自分の身体の変化に驚いているかも知れない。


 だから、「それは悪い事じゃないですよ」と教えてあげたかった。

 それは「私にとっても嬉しい事なんですよ」と伝えたかった。


 だけど私も緊張していたのだと思う。

 思う様に言葉に出来ず、ただ「良かったです」と繰り返したのだった。


 そう言った私の下腹部にも、不思議な疼きを感じていた。


 私は知っている。この感覚を。


 思春期の頃に好きだったジャニーズのアイドルがテレビで画面に向かって「好きだよ」などと言っていた時に感じた疼きと同じだ。


 今はもう、アイドルでそんな気分になったりはしない。


 そして、2年前の父親の蛮行以来、全ての男性に対してそのような気分になった事は無かった。


 帆地槍さんに対しても、母性が溢れ出る事は何度もあったが、こうした疼きは無かった。


 だけど、これはきっと帆地槍さんの精の放出を両手で感じ、そこに「私がそうしたんだ」という私の心の中での関連付けが行われ、そして、私はそれを不快に感じてなどおらず、むしろ求めているのだという事なのだと思った。


 そうだ。


 私は、帆地槍さんの精を受け入れられたんだ。


 いや、むしろ、求めているんだと思う。


 私のこの下腹部の疼きは、私が腰をくねらせると、その動きに連動して甘美な痺れとなって全身に広がった。


 私はそっと左手を自分の足の付け根の茂みに運び、その奥に潜むクレバスの奥へ、そっと左手の中指を沈みこませた。


 すると、そこは熱いヌメリが溢れていて、指は滑る様に私の奥へと入り込みそうになった。


 そしてそこには甘美な痺れに似た快感の波が、私の身体の奥から脳天に向けて電気の様に広がった。


「ああ・・・」

 と私は、少し声を漏らしてしまった。


 だけど、不快な感じは全くない。


「本当によかったです・・・」

 と私は、まだ固く大きいままの穂地槍さんの物を右手でやんわりと上下に滑らせながら、そう声に出した。

 

 そう。これは、帆地槍さんに向けた、不安を取り除く魔法の言葉でもあり、そして、自分自身に向けた、自分の心が帆地槍さんを受け入れられた事への賛美の言葉でもあったのだった。


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 それから私たちはお互いの身体を全身くまなく洗い合い、シャワーを浴びた後に、二人で湯舟に浸かって身体を温めた。


 温泉はとてもいいお湯だった。


 湯舟の中で、肌が少しヌメヌメとしているようにも感じた。

 肩こりにもいいらしいし、美肌にも効果のある温泉に違いない。

 額に汗が浮かぶまでお湯に浸かり、私がのぼせる直前で、

「のぼせちゃいそうだ」

 という帆地槍さんの言葉を合図にして湯舟を出る事にした。


 その後浴室を出てバスタオルでお互いの身体を拭き、浴衣を着た私たちは、ようやく自分達の部屋へと戻ったのだった。


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 部屋に戻ると、部屋には布団が二つ敷かれていた。


「今日は一緒に寝ましょうね」

 と私が言うと、帆地槍さんは少し驚いた様に私を見たけど、

「う、うん。僕もそうしたいと思った」

 と言って、二つの布団に置かれた枕の片方をもう片方に寄せてくれた。


 帆地槍さんの事だから、きっと深い意味など無いのだろう。


 だけど、私には帆地槍さんが私を求めてくれているのだと感じた。


「お先にどうぞ」

 と私が言うと、帆地槍さんは布団の中に入る。

「か、風邪をひくと良くないから、花頼さんもここに、ね?」

 と帆地槍さんは一生懸命に私を気遣ってくれる。


 私は頷きながら、部屋の電気を豆球だけにして、帆地槍さんが入った布団と同じ布団に潜り込み、帆地槍さんの右側に寝そべった。


 温泉で温められた身体が、暖房をつけていない部屋の冷気で冷まされていくのが心地良かった。


 けれど、私が寝そべった途端に帆地槍さんが私にも布団を掛けてくれる。


 嬉しい。


 こういう、ちょっとした気配りだけなのに、それが帆地槍さんの優しさがしている事だという事が分かり、それがとても嬉しい。


 そして私の心は帆地槍さんのその優しさにもっと甘えてみたくなる。


 そして、先ほど快感を知ったばかりの少年の様な心を持った帆地槍さんに、もっと色々な事を知って欲しいとも思った。


 その両方を叶える方法を私は知っている。


 帆地槍さんと繋がればいいんだ。


 大丈夫、怖くない。


 帆地槍さんとなら大丈夫。


 私の心も身体も、きっと帆地槍さんを受け入れられる。


「花頼さん、すごくいい匂いがするね」

 という穂地槍さんの声を聞いた途端、私の中で何かのスイッチが入ったかの様に、私は帆地槍さんを求めた。


 帆地槍さんの浴衣の帯を解き、そして私も自分の浴衣の帯を解く。


 帆地槍さんの下腹部を下着の上から右手で擦ると、

「ああ・・・」

 と切なそうな声を上げた帆地槍さんの身体がビクンと震える。


 それを見た私の身体が火照りだすのを感じた。

 私自身の下腹部にも、また甘い疼きが生まれだす。


 それはジクジクと何かを分泌しているかの様でもあり、それは私が帆地槍さんを求めているのだという事を私は分かっていた。


 私が帆地槍さんの固く大きくなったものを下着の脇から取り出し、跳ね上がる様にビクンと震えたそれを私が軽く握ると、帆地槍さんは「うう・・・」と小さな呻きを漏らして応える。


 私はその声を甘美な響きの様に受け止め、それに応えようと身体を起こして、帆地槍さんの腰の上に跨る様にして馬乗りになる。


「な、何を・・・」

 と驚いた様な顔で私を見る帆地槍さんに

「私に任せて下さい・・・」

 と小さな声で言った私の声は、少し震えていたかも知れない。


 だけど、私の足の付け根に、ショーツ超しに感じる帆地槍さんの固くなったものは熱く脈打っていて、私を求めて震えているのが分かると、私の心はもう何もわからなくなる程に溶けていき、私は自分でショーツを横にズラして帆地槍さんを自分の密林の奥に潜む熱い泉の湧いたクレバスへと誘う。


 暗い部屋の中でそれはうまく泉に導く事は難しかった。


「ああ・・・」

 と帆地槍さんがまた呻き声を上げたけど、それは未知の快感に少しの恐れを抱きつつも、その感覚の正体を知ろうと足掻いている様でもあった。


 そんな帆地槍さんの一つ一つの仕草に私の心は更に溶かされていく。


 私は自分がどれほどはしたない事をしているのかと考える事もしなかった。


 ただ求めていた。


 私の全てを受け入れてくれる帆地槍さんの、その全てを受け入れたいと心からそう思っていた。


 私は自分で腰を動かしながら、帆地槍さんの固くなったものが自分の下腹部に潜むクレバスの泉から溢れた蜜で滑らかにスライドするのを感じていた。


 私のクレバスの上端にある突起を、帆地槍さんの固いものの先端が逆撫でするのを感じて、私の身体もビクンと跳ねる。


「あっ・・・」

 と私の口からも甘い声が漏れ、そんな自分の声に私自身が驚いている。


 だけどもう止められない。


 私の頭の中はもうハチミツの様に溶けていて、帆地槍さんを求めて止まないのだ。


 そうして何度か腰を動かしているうちに、ヌルリとそれは、私の泉に充てがわれた。


「そのまま、じっとしてて下さいね・・・」

 と私は言ったつもりだったが、うまく声になったかは定かではない。


 そう言って私がゆっくりと腰を下ろしていくと、帆地槍さんのものが、私の動きに合わせてゆっくりと私のクレバスの泉の中に飲み込まれていくのが分かった。


「ああ・・・」

 という帆地槍さんの声と私の声が重なった。


 帆地槍さんのものは、私の中でビクンと大きく跳ねる様に動き、それに合わせて私の中に甘美な疼きが広がっていく。


 それでも私は更に腰を落としてゆき、徐々に自分の中が帆地槍さんで満たされていくのを感じていた。


 頭の中が痺れる様な快感。


 帆地槍さんは自分からは動かない。


 私はその痺れる様な快感をもっと感じようと、自分で腰を上下に揺らし始める。


 その度に押し寄せる快感の波が、私の腰から下の力を奪っていく。


 もう思う様に力が入らなくなった足をそのままに、それでも全身を揺すって下腹部から全身に広がる甘美な痺れを貪る様に感じようとした。


「ああ・・・、すごい・・・」

 と帆地槍さんが声を漏らす。


 本当にすごいのは帆地槍さんだ。


 さっきお風呂場であんなに沢山の精を放出したのに、まだこんなにも熱く、堅く、大きくして私を感じてくれている。


 それが何者にも代えがたい私へのご褒美であるかの様に、私も快感の渦に溺れていく。


 やがて私の頭の中は、腰の動きに合わせて真っ白な波紋が広がり始め、その波紋はどんどんと大きく、強く広がっていく。


 そして数えきれない程に何度も腰を上下に揺するうちに、もう私の頭の中は真っ白になって何も考えられなくなっていた。


 なのに私の腰はいつまでも動きを止める事が出来ずに上下に揺すり続けた。


 そしてついに私の頭の中で大きな白波が押し寄せるが如く強い波が広がり、私の視界を真っ白にした。


 その瞬間、私の全身が激しく跳ね上がり、腰が震え、膝が笑い、下腹部に全ての快感が集約して、そして弾けた。


 その後、ようやく私の視界は部屋の薄闇を感じる事が出来た。


 私の下腹部は、まるで別の生き物がいるかの様に、帆地槍さんのものを何度も咥えこんで、全てのものを搾り取ろうとでもするかの様に収縮を繰り返していた。


 その収縮に合わせて私の身体にも甘美な余韻が広がる。


 私の中では帆地槍さんのものがビクンビクンと定期的に大きく跳ねていて、私の中に帆地槍さんの精が放出されたのだと感じた。


 私はそれを逃がすまいと身体の中でそれを受け止め、肩で激しく息をしながら、私の心が満たされていくのを感じていた。


「はあっ、はあっ・・・」

 と私は荒い息を止められずにいたが、それでも大きく深呼吸をして、「帆地槍さん、私たち、本当の恋人になれましたね」

 とそう言った。


 帆地槍さんは、それを聞いてしばらく何かを言おうとしていたが、やがて嗚咽を漏らし始め、子供の様に涙を流して泣き出した。


 そしてしばらく泣いた後、帆地槍さんは一言、

「ありがとう・・・、とても嬉しいです」

 とそう言ったのだった。


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