626 それぞれの大好きの日。

 ここに帰ってくることは期待したけど、来ないだろうというのは予想していた。

 前に言っていた「距離感」ってヤツでバランスを取っているんだろうというのは聞いていた。学校の講義で「パーソナルスペース」っていうのを受講したときの講師がアノ子で、人には親しさによって近づける距離があるって話。

 サッと触れられる距離はとても親しい人で、逆にそうでない人は不快になる。

 親しい知人なら一歩踏み込めば届くくらいなら許容する。

 ただの仕事上ってならその3倍離れて、知らない人ならそれより外。


 村ではその倍離れていた。とても目が良いというのは私たちの仲間を発見した時のことを聞いたから。

「見つけた」って時は点だったらしい。近づいて行って着水して見えなくなって、かなり近づかないと、人って判別ができなかったって。

 同じ頃に向こうも気が付いて、こっちに顔を向けたっていうのが何となくで、その少し後に「名前を呼ばれたの♡」からの一字一句は知ってる。

 何度も何度も聞かされたからだ。

 招待してしっかりした地を得て、食事をしてからの相手はぐにゃぐにゃだったらしい。不安定な島では寝る時にも緊張を解くことはなく、きしみで目が覚める。

 遊びをして、美味しいものを食べた。あの時の味は覚えてはいないけれど、深い安心があったことは決して忘れない、そう言っていたって。

 

 帰ろうというという言葉に中々うなづかなかった。

 ほとんどの人達がここで生まれて育った。先祖のいた所にはかれるけれど、この海を離れたくない気持ちも理解できる。

 グループを細かく作って関わらないようにしていたアソコには魅力はなくて、落ち着かないし退屈で苦しかったけれど、ひとつの繋がりが心地よかったって。

 ハッキリと帰るって声は意外にも少ない。


 朝起きた時には昨日のようにバ〜ンとは開けずにいて、あかりだけなのを誰も変には思わなかった。それより目の前の食べ物に興味があって、それが嬉しいだと。

 食後のお茶を飲みながら「どうするかの選択なんだけど、造っちゃった」って。

 段々と開いていくのに海がなくて、全部が開いて遠くに海が見えた。反対側は浅瀬?のようで、色が薄い。

「「「きゃ〜」」」子どもが飛び出していく。子どもの声に呼ばれてノロノロと進んで地面を踏み締めた。

 私も同じようにびっくりしたの〜!!って、毎回ここで声が大きくなる。


 移住の選択肢の斜め上の答えが、移動する島。もごもごしていた人達をさらって、連れ出してくれた。

 あのまま選べなくて、残る人は結構いたと思うし、ムリヤリなら反発して、出発してもウジウジするだろう。だから最善で最良。気持ちに寄り添ってくれるし、名前を新たにもらった。じゃあ「ファル」だろうって。

 で、ここでいつも泣くの。そういうのが今はちょっとだけ分かる。


 村にお手伝いで行った時に必要な時に近づいて、それ以外は一定以上には誰とも近づかないようにしていたのは知ってる。

 それで私たちも距離があったけどけていたわけではない。

 私はもうルミナリエではなくて、シオーネだし。友達の大切な人繋がりだけど、名前もらったもの。

 何かマネッコばかりで、結局二つ名の方も言うから逆に長くなっていてイヤ。

 嫌がらせみたいな名で無視してるとしつこく言うし。ほんとムカつく。

 付けてもらったのは、私のイメージからだって、いい子ね。

 ニックネームならコレとかコレとかって親切だもの、すごく好き。


 連邦では多い「イワン(イヴァン)」という名前の愛称はヴァーニア、ヴァニーシャ、イヴァーンコ、イビチャとかあるんだって。

 場所が変わると名前も変化して、ヨハネ、ヨハネス、イオアン、ジョン、ジャン、ファン、ジョアン、ヤノーシュ、ジョバンニ、ヤン、ボウハンネス、イオアンニス、ヨアニス、アイバンってなる。

 男性名が女性名にってなってジョアンがジョアンヌってこともある。

 特にあの子の講座のメモはちゃんと取ってあるのよ。


 これは地域変化ってヤツで砂の国でヤスミンが共通語ではジャスミン、同じようにミハエルがマイクになったり、ミシェルになったりするんだよって聞いた。

 そういうことで名前はいっぱいある。同じだけど同じに聞こえないものにすればいいんだよってとこで、うんうん。

 それであんまりファミリーネームは必要ない感じだったけど、こっちもいっぱい。兄弟とか、カップルさんは同じにしてて、まだ複数な組み合わせはないかな。

 何か男って弱っちくて、好きとかにはならない。どうせ弱いならあの子みたいな優しいのがいいな。


 それから子どもに同じ名前を付けたいとか出てくるかもだから、その時はジュニアってして、親の方はシニアってしてねだけど、必要?

 エライ人は二世とかずっとカウントしたり、名前を受け継いだりするって。そういえば芸の人とかもか、称号みたいなものなのかな。

 こんな風にチラチラとノートを読んでいて、もらった時にちゃんとありがとうをいえば良かったのにぃとかモヤモヤしてる。

 ぎゅっとされて「スキ♡」の言葉にゾクゾクしちゃって、ポ〜だったもん。

 やっぱり当分はムリだなあ。


「大好きの日だからコレと名前を贈るよ」

 う〜んって、ちょっと考えて理由を言って、こうなろうとか、がんばって、それはねって聞こえる。

 ぎゅってされた後にカミを抱えて、ニヤニヤしているのが自分でも気持ち悪い。

 自分の番の時に「勉強がんばってすごいね」とか「青と赤と緑で一番は?」「クジラの好きなとこ」「この次の人のいい所をみっつ」とかパッパと聞いてから、サラサラと書いてハイって渡される。

 耳元で「ステファニー大好き」チュッて。ビビビってきた。ホオがゆるむ。


 グレーだった生活に色を付けてくれた同胞は「かわいい」って説明した。

 島を創造して、想いにも応えて、活きるために色々な事をさせようとして、さらにその先の構想まであるっていうんだからスゴいとか尊敬するとか、畏怖いふするものではないのだろうか。

「あ〜お前って来た時に山に行ってたんだっけか。会ってみれば分かるぞ」

 その言葉をはっきりと理解して自然に「ファル」と呼んだ。

 ===


 ===

 グルンワルドでは12日に当然来ると思っていて、それは来たけれど空中に止まったまま荷物を降ろして行ってしまった。

 去年は月遅くにしたけれど、期日は言われていて準備をした。その後は指示された通りに街や村に提灯ちょうちんを配った。これは開放の日で忘れるなというメッセージ。

 去年のあの時には1周年というより来てくれることが嬉しかった。それで驚かせようと大きな山車だしを作った。

 けれど、今年はどうだろう。「贈り物だ」というのものを喜んで、ただ食べた。


 去年のように支柱を立てて金属の糸を張って、あった提灯をバリバリ伸ばしてそこに下げた。

 確かここで暗くなって、提灯ちょうちんが美しく灯って大騒ぎしたはず。

 何のために?

 鬼が地域から開放されて1周年とかだったし、ここのが今日で12日、そして少し前に食べたのが「大好きの日」ギフト。

 夏に怒っていた前に戻って来た子ども達。システムが組分けを言ってるからって分けた運動会のチーム。薄くなった妖精気配。

 やっている事は今までと変わらないし、忙しくて充実している。新しい素材や成型方法に夢中だけれど、何か足りない。


 本当は、この町の祭りはどうでも良かった。

 これを「やろう」になったのはあの菓子を食べてからで、何も準備はなかったはずなのに、倉庫に準備されていたモノを開いて飾りを自然にしていた。

 秋は急に「運動会がしたい」がいっぱい来て忙しかったし、何故なぜか巨大山車だしの注文が秋にあった。それで年末にもあって、通貨原紙の製造とか硬貨の鋳造とかもあってずっといそがしい。

 年明けにはカーニバルをアチコチでして、これからも続く。


「誰にするのか、何のためか、どうなって欲しいかを考えて」を誰かが言う。

 それが誰だったのかをようやく思い出した。

 いくらニンゲンとの交流を求めてもかなわなかった。

 そう、求めるだけで何もしないで、ただ待つだけだったから。

 それを壊してくれて、アッサリ交流も出来るようになった。抜けていたピースがなんなのか分からないまま埋めてくれて、ワクワクするようになった。

 そうして当たり前にした。

 やってもらうことは当然で、むしろやるべきだとも思い込んでいた。


 巫女みこはわたし達に呪いを掛けたんだからって。

 けれど「不戦」「交流を求める」のはそうではなかったんだろう。

 あの時は「ゆるされた」って自分だけじゃなく、他の誰もからも聞いた。

 その気持ちを今に当てはめると裏切ったのは鬼の方で、巫女は悲しんだだけ。

 活きる環境を作ってくれたのに、いい気になっていたのは自分達の方。

 この間あったエルフのこととも合わせてみるとそんな感じがする。


 この考えをみんなに話してみようか。

 ぐるぐると仕事を変えるから仕事の共有化は出来ているけれど考えは伝えない。

 話合いが足りないよって運動会が面倒な仕組みに変えられているのは優しさだろう。確かに隣の人の事を個人として意識していない気がする。

 自分でさえ、全体のパーツのようになっていて全てがその調子だった。

 個人作業なんだから、なまけても他には影響は起きない・・そう思っていた。

 一昨年は酒で遊んで帰された。去年は運動会の運営を丸投げた。

 頼ることはしないと思っていたけれど、すっかり甘えていたんだってこと。


 ギフトが最後だって気がする。ただの仕事上になってしまうと思ったら落ち着かない。そういえば去年の夏からは見なくなった。

 前はチラチラしていて、それで安心して、慢心まんしんした。

 全部が自分達のためって思うと、商売や服作り、運送の仕事、村の特別区、そして孤児や補助が必要な村々が引きこもろうとするのを、安全を確保しながら外へ外へと向かされていることに気が付く。

 とにかく今はこれをしっかり楽しんで、街へもちゃんとして、仕事をがんばったことのレポートをみんなでして、次の納品分に入れておこうと・・思った。

 ===


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「わ〜なにこれ〜!」「かわいいっ!」

 新聞配りの子達だから朝がとっても早い。それでコンバンハした時にはみんな寝ていて、山にして置かれていた。

「え〜と。だいすき、の、ひ、の、ぷれ・・ぜんと、どうぞ・・だって!」

 きゃあきゃあとゴハンをして、元気に出て行った。今日の特集は初めての大好きの日をどう過ごしましたかって記事で、こういう機会があって良かっただった。

 言うタイミングは難しいし、どっちからとか何処どこでとか悩んでいた人が多かったみたい。

 お菓子はそのツールにピッタリで、お手紙を添えてどうぞしようっていうのは大当たり。いつもありがとうのフリをしてラブもちょっとある。

 とってもピンクな日だった〜だけど、何か忘れてないって思っていた。


 元気に新聞を売って、朝ゴハンやちょっとしたグッズやドリルを完売させて、走って戻って来る。「ただいま〜!!」が今日は一段と大きい。

 おたのしみの包みをとって、開けて眺める。「大好きって書いてある」

 お風呂して勉強したり、ウ〜ンってコラム書いて、お昼パクパク。

 ずっとソワソワ。まだかなまだかな〜って。


 お茶の用意をしてイソイソと「もういい?」でパクリ。

「「「「おいし〜!」」」」

 忍者の人達はね。去年はもうこっちに来てて食べてない。

 そういうことがあったって話だけ聞いててイイナ〜だった。

 だから見つけた時はスゴく嬉しかった。


 ニュース紙を使って、提携店と習慣を作ろう計画はアノ子の発案。

 ネットワークがかなり広くなっていて、新しい販売拠点もアチコチにある。

 がんばってエルスター(小型の飛行の道具)をマスターしたのは、聖国御用をチラチラさせることになって、安全度が上がったこともある。

 ボタンポンではない場所にはマスターしないと行けなくて、ヴァイスより簡単とはいかなくて、かなりがんばった。

 しばらく鬼さんが来てくれて、料理とか技術指導、それに解放された異種族の人達を故郷に帰すことをしていた。

 今は止まっていて関係性が微妙。政府からは聖国の出先機関と思われているようだけど全然違うよ。

 ===


 シルタではただのオヤツってことになってたみたい。

 暖かい服がずっと売れているってところは忍者さん達の提携店と同じだけど、選挙で忙しい時期だったし、そういうことをする意味自体が理解出来なかったらしい。

 僕らのニュース紙のあるなしが大きい。

 文字や事象や今!ってことへの興味が読むことの興味に繫がって、書けるようになるし、そうして読める字が増えていくし文章の理解も上がっていくっていう楽しいスパイラル。

 世界がモヤリしていたのが、晴れていく感じがして、自分が立っていた場所がゴミのようなところだったって気が付くのも「分かった」からだし、上を目指そうと思って「どうすれば」を考えて、行動を確実にするのは大事なこと。

 ただイヤだからって、感情だけだと良い結果を生むことは少ないよ。


 ランパート、ムートンはラブムードがあって、余計だったかもしれない。

 こういう雑多な人達がいるところにこそ、仲良しイベントは必要なのかも。

 僕の気持ちは、きっとみんなには届かなくて霧散するんだろう。

 いっぱいだったから、ふつうの製品のような顔をしているし、どさっと置かれただけのものに想いが入っているとは思わない。

 もう誰が誰かが分からないんだもの。メモをみてもリアルと一致しないの。

 照合する情報の方に欠落がいちじるしい。

 好きも気のせいかもだし、妖精たちや動物たちのとも、きっと違う。

 モヤモヤに決着を付けるつもりもちょっとある。みんなにどうぞしたら、何か分かるんじゃないかなだけど、モノに頼るのが気持ちの分からない僕らしいかも。


 あんまり行かないし、集荷でも会わなくなったピレーヌやキャッシーでは大騒ぎになった。ここの人達には最初の救世主なイメージしかないし、隔離するのはまもるためで、たくらみもあるイタズラ小僧のようなワクワクが用意されていた。

 隠れているだけだった人達への小さなギフトは、今の生活のような少しだけ外がのぞける、そんな光のように感じたみたい。

 それである意味、感情を収集中の鬼さん達が影響を受けて伝播でんぱしていく。

 モノに何かを託すっていうのはアイドルグッズの基本で、会ったことあるなしは大事だから、これからよろしくねしていくよ。

 タリスマンにって、渡してあるのは初期バージョンの幸せをイメージした僕の失敗作で在庫がいっぱいあった。


 注文の時に末尾が抜けてると来てしまう外れグッズ。時々ウッカリする人がいるみたいでソコソコ。返品がないからってまだ製造してる。

 そういうので、グッズの点数はスゴくある。1アイテムなのに50種くらいとか普通にあるって、カラー違いまで入れるとすご〜い。

 在庫管理単位SKUっていうので、注文を受けて収集っていうのは最初から諦めていて、道具がス〜ッと動いてポコッと収集してるの、カッコイイよ。

 傷つかないように個装してあって、ベル箱は衝撃を吸収してくれる。底に緩衝材を敷いて、陶器とかガラスとかは個装でも保護してあるけど、そうっとね。

 人の手で納めていないので箱は大きめ。緩衝材いっぱい。


 今は僕が納品して受領しているものを前みたいにそれぞれでしてねにしたり、誰かにするってことで、コンニチハがなくなっていくか、増えていくのかは、まだ分かんない。

 必ず必要ってことじゃあないって体制にして、僕がいなくなっても大丈夫。

 それが一番心配だったでしょうなのだけど、飛行の道具は飛び抜けた技術で理解がムリそうなんだよね。

 それじゃあ僕を外すことは出来ないから、船便でどうかって考え中。


 来年は僕はいないかもだから、ありがとうって意味でも気持ちを伝えたの。

 シオーネの大海地域の他は置いてきただけなので、勝手に押しつけんなだろうけどオイシイよ。ちょっとだけ幸せな気持ちになったら嬉しいな。

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