空気(ぼく)たちの町においで

624 春になったけど。

　役所は８日にちょろっと出て、頑（かたく）なにいつも通りをした人達は夕方まで働いた。仕事はいっぱい溜まっているんだもの。仕事モードなら気になるよね。

　今までの始まりだったら１５日まで休みにするエライ人達とか、じゃあその中を取ってする人とかでルーズだったから、それが全部に影響して不規則に休むことが出来た。それは他の会社にも波紋していた。

　イベントをいつやっても来てくれる人達がいたのはそういう事情だったのと、個人仕事だったのをフォローできる体制にしたから、抜けて発散して意欲が上がることで、かえって効率が上がるようになった。

　好きなことを思いっきりする人がいるなら自分もガマンしなくて良いになる。

　意見を言い合えるようになって、問題が少しずつ解決。相手を理解するようになれば「こうしたら」が出て、それを聞いてくれてやりやすくなる。

　自分達が良く変えたって思い込んでいるんだけど、忍者さんの諜報スキルに西の集団扇動や組織ノウハウに、あと実験。

　一番のトップが常にいないココなら労働者主体の自治体モデルを試せるって、実験したことが実はアチコチで活きている。

　気持ちまでは操作できないから、良くなったのはやっぱりココの人達の資質で、あっちは散々だった。変わりたいと思ってくれないと改革なんかできないし、変える対象には最大の悪意を抱（いだ）くんだろうか。

　去年の始まりはルーズだったことも忘れているようで、ガンバル人達がお仕事していたんだけど、正月気分しようよってしているんだからノッて欲しい。

　すぐ明日は土曜でお休みなんだから。

　それで明日は準備をして日曜にイベント。今年からはできるだけ土日を絡（から）めてやるようにするつもりで、土日を定期休日に定着させようとしてる。

　台車を大量に学校に運び込んで、バサッと被（かぶ）せてスタートって感じにした。

　前のやり方だと僕が全部やらないといけなくなるし、みんなが準備に参加できない。ヌリヌリを頼んだり、絵柄を募集したりした。

　立体の平面化というのはまだ難しいみたい。

　好みはともかく去年の試みは成功したみたいで、こちら側では豆まきはしてもターゲットを鬼に出来ないからって、盗賊になってた。

　悪人で思いついたのが衛兵だったけど、ケーサツみたいだしちょっとね

　投げるのも煎（い）った豆ではなくて落花生どうぞをした。

　これは東雲の湖北で作っている豆でようやっと出荷出来るようになった。

　まだ従事者が少ないから輸出できるほどじゃないんだけどね。

　投げても拾って、その中に豆があるから拾い食いコラ〜しないし、ゴミにはならない。ビールにすごく合うよってしたから大人も拾ってくれる。

　デッカイヌリヌリは大変だからって、大半はやったけど、こういうのが依存になるんだろうから、準備スケジュールをそれぞれに入れて置いた。

　みんなは気が付かないことだけど、もう１年分の仕事やイベントの計画はしていて、ここに何かするとか程度、今回のイベントみたいに作業の計画はするけど参加するかどうかは自由。

　でも自由にすると参加しないのをワザと選ぶのがいるし、参加もおざなり。

　そういうのが良い事にならないというのは、よく分かっただろう。

　演習でサボっていたというのとかだけじゃなく、色々あって評価した。

　そりゃあ、あれは大事で比重は大きいけど、一発アウトってことはしない。

　周りも納得してくれるような人選だったと思うよ。

　準備はズラズラと台車を並べて、バサリするものをそれぞれ置いた。

　衣装を配布して、簡単なメイクセットや飾りも用意。

　選ぶ際には去年より賑やかだった。去年は適当にバサリして書き書きをそれぞれだったけど、選べるとなるとってことらしい。

　たぶんそのまま、衣装無しで来るとビリビリにされて、寄ってたかってオバケメイクされる。去年僕がそんな感じにした気がする。

　重ね着しているから、ハダカになるわけじゃないし良いだろうって。

　日曜は朝早〜く行って、配布用のお菓子を載せておいた。

　去年は殺到して、台車が歪んだものあって木製から軽くて丈夫な金属に変えたけど、こういうのは重量があった方がイイから、中空構造に水を注入する。

　じゃ〜ってね。もし燃えだしたら消火に使える。

　油を染みこませた燃えやすい布なので、火が付くと一気に燃える。

　火気厳禁。タバコは悪。

　祭りの時のくわえ煙草がカッコイイと思っているのがタマに居て火傷（やけど）事故や小火（ぼや）を起こす。

　お酒入っているし始末がいい加減だから、僕は禁止にするんだけど、それでもなくならない。ギルドは僕の傘下に入ったから、当然禁止にするからね。

　何台か燃えるトラブルがあれば、戒（いまし）めになるんじゃないかだけど、去年は危ないって程度だった。

　もしそうなっても対応出来るように、ちょっと練習もしてる。

　小火（ぼや）くらいでパレードは滞（とどこお）らせないんだよ。

　出発時間によって集まってくれるから、バサリしてもらって時間になったら出発。後のグループにも手伝ってもらうを繰り返せば、監督役はいらない。

　今回は参加者が多めだから配布で手が足りなくなったりしているから、殺到がないといいな。

　やっぱり撒（ま）くというのは食べ物だし、何かイヤなのでそれぞれ手渡しをしたい。

　台車は道具なので、時間になったら進んじゃう。それまでに準備を終えておかないと動いた状態でセットで慌てることになる。

　轢（ひ）きそうになったら止まるし、主張するから止まらないように排除よろしく。

　大変になったら見物者を配布役に巻き込んでね。

　去年怖かった坂の廃墟は森に沈んで、ちょっと面白い事になってた。

　あんまり過去に囚われない人達で、いつまでもウジウジしないのは助かる。

　けど気にしなさすぎて、被災の日を忘れていたのはヒドいと思う。

　過去はしっかり悲しんで、忘れない。災害の多い土地なんだから心に刻んで教訓として欲しい。みんなは忘れる必要はないんだから。

　この森も整備の予定なんだけど、まだ必要ではないの。

　ここら辺一体も開発していって汐入（しおいり）とくっ付くくらいまでって感じだけど、今は海の方や商店街の東を埋めている段階だから、分散させるのはちょっと。

　その上側のお金持ち地域も少し空きが出てる。不正発覚とか西へ移住とか。

　こっちの方は再開発していない地域で、上下水道をちょっとイジっただけなんだよね。今では開発した方が街並みがキレイだし、廃（すた）れた感が出てるなあって。

　う〜ん、こういうトコって権利とか伝統とかで歩み寄ってこないから、西の高台地域みたいに面倒くさい気がする。じゃあいいか。

　するすると進む。台車の強度が上がったせいかピシピシ音はしない。

　それに誰も意識しないタイヤ。車輪にくっ付いているゴムのことで、最初は輪投げのように丸いチューブを作ったけど弱いから、板ゴムを円形に成形してくるっと巻いた中に入れたのが始まり。

　乗り心地は良いんだけど、すぐに傷んじゃって頻繁（ひんぱん）な交換をしなきゃだから、試行錯誤して、強度を高めたり補強構造を研究中。

　色んなテーマの基本理論は里の時のものが多くて、その時の足がかりを元にしてるのがほとんど。いくつかは理論構築が出来ていない。

　パンクが弱点で、解決策はあるんだけど、実現出来ていないから、いくつかスペアを持つってことで誤魔化してる。

　納得できていないから製品化しないというのも理由にはある。

　木製が普通で剛性を高めるために鉄をグルリ巻いたり止まりで、馬車の乗り心地がすごく悪かった。

　鉄輪にすると振動が直接伝わって乗り心地が悪くなるし、それは本体の寿命を短くすることにもなる。

　道の方を滑らかにすれば良いんだけど、街中でもムリなのに郊外では不可能に近かった。聖国の時にサスペンションを開発して、乗り心地が格段に上がったけど、揺れるのは抑えられていなかった。

　車体の快適性は疲れや速度に影響することなので改良はずっとしてる。

　誰も関心がないの。タイヤに溝を付けたり、何で黒くなったとか布を埋め込んでいる話したいんだけど、テーマに選んでくれる人はいないし、グルンワルドでは技術についての会話をしてくれない。

　製造すれば良いんだろうな感じが何かつまんないんだよね。

　もうじき記念日なんだけど、お呼びじゃないのは知ってるから提灯（ちょうちん）だけ納品しといた。カーニバル用の大きな山車（だし）の注文が入るようになったし、イベントの投資が実を結んでいる。

　それぞれがするようになれば出店や出し物が減らせるし、他に売り込みも出来る流れ。楽しい事や便利なこと、助かる仕組みばかりもたらす印象になれば、鬼さんが負い目じゃなく、完全に受け入れられるのも遠くないかなと。

　坂を登り切って、ぐぐっと曲がるとお金持ち街がある。

　ここからの子ども達も増えているせいか、出てくる人がグッと上がった。

　去年はパラパラだったし、そんなのもらわないって態度だったけど、手を出してくれている。

　チープなお菓子だって手は抜かない。

　安い材料を使って大量に作っているだけなんだから、そこに美味しくないっていう理由はないの。

　変なものを使って、おかしな味覚になったら、オイシイが分かんない人になってしまうでしょう。小さい時の体験はとても大事なんだからね。

　子どもが触れるのはこういうのだから、いっぱい研究して、コストとのバランスも考えてる。お家お菓子ではない商品だから値段のことも忘れない。

　去年のは甘さをケチって、ちょっとイマイチだったけど、これはミントとかゼリーとか豆まきをさせなくて十分あるキナコとか水アメとか種類もいっぱいにした。

　アメちゃんも安っぽい味ではないし、味変とか、表面にパウダーとかで種類は多くしてる自信のチープお菓子。

　まあ、チープかどうかは値段だから、全部がチープかもしれない。

　材料が自前で大量に生産しているんだもの。

　去年はアレのキャンペーンをしていたから、変な調整をしていたのがよくなかったって反省はした。今年もしてて棲（す）み分けはちゃんとしてる。

　今年の配布お菓子はちゃんとオイシイよ。

　去年は適当にバラ撒（ま）いた人がいて、落ちて踏まれて悲しかった。

　ちゃんと個装にしてあるから、手渡ししてね。

　道具は使ったけど、言ってみれば僕の手作りだもの。美味しく食べてね。

　今年が違うのは、見ている人達も仮装の人が増えたこと。売っているけど自作らしい人達も割といる。

　人魚がオバケカテゴリーとかが面白くて、鬼仮装がガ〜としてカッコ良かった。

　鬼さん達はあんまり身体を鍛えてくれなくて、こういう風にならない。

　ネコのオバケとか、カサとか布とか首が長〜いとか、ココのオバケはとても可愛い。お姫様とかは盛装なだけだからいなくて、騎士とか戦いの人装束も仮装になるみたい。この街にはいないし。

　店売りのは、ドレスとティアラでお姫様とか、ナイトとか、フルメタルなのや死体オバケとか血吸いオバケとか、羽根のある服とかにして、こっちよりだったのを減らしてる。

　これは全世界展開ってヤツで、仮装の服はいかがって新たに売り出してる。

　カーニバルは西ではドコも少なからずする。ジミ〜なのとかにはもっとヤレだし、やたら高級で参加出来な〜い人達にもやろうよってする。習慣がなかった人達も新年の仮装祭りはどうってオススメ。

　長い冬に絶えて、パ〜ッとしたいのはみんな一緒だと思うし、意味はともかく春のいっぴから盛り上げていこうってしてるの。

　それでここの手作りが結構かわいかったから、来年はコレもって。

　西流にするとリアルに寄せがちだからチープさが目立っちゃう。そこで方向性を（そういうジャンルって）変えていくならいけるかなって。

　役所の前を通過、いかにもなサボリはいなくて、交代で見に出てるって感じで、仮装してくれているの。仮装のままお仕事って楽しいよね。

　それで、去年問題となった農業ギルドのあるあたりに差し掛かる。ギルドの建物は道のこちらに移って、住宅を多層化して、こっち来てしたりして地域全部を区画整理した。壊れていてリアルスラムだったけど、農作物の加工品とか果実の加工品の工房をいっぱい建ててお仕事を作った。

　農家の方が忙しくなって、出稼ぎとの仕事の取り合いもなくなった。

　仕事がしっかりあれば、ごはんに困らなくなる。そうすれば細々とした仕事もできるし、ポツポツ店もあって豊か。

　変わらずスゴい人出だけど、穏やかなになって血走って奪い合うこともない。

　去年ここの人達が山車（だし）に乗り込んで来たりして、ちょっと怖かった。

　後で見たら基礎部分にヒビが入っていて全部おしゃか。よくもったものだって感じだった。飾りもビリッとしてたしね。

　ずっと続くってことの説明を聞いて、順番らしきものが出来ていたんだよ。

　それで下（くだ）って行くんだけど、去年はパラパラしていたところにも住民が入っていて店もある。子どもが仮装して手を振ってくれる。

　今一番賑やかな会社群や保険ギルドがあるところには、いっぱいいて若者が多め。

　僕関係のところには、仮装の衣装を配ってお仕事ってしたけど、着てくれたのかなあ。元が普段着みたいな感じだから、お仕事の人かどうか区別が付かない。

　左の方は復興建築ではないからパラパラの家だったけど、ず〜っとあって嬉しくなるよ。

　前は賑やかなトコを過ぎたら、見渡す限り空き地だったのが、海の方までずっと家があって無人だったところにも人がいっぱいいる。

　オバケだらけしてて、手を振ってくれて、お菓子どうぞがすごく楽しい。

　終点の広場では、バサ〜っと降ろして台車が捌（は）けていく。

　積み上がったところでファイア〜して歓声があがるの。

　それで終わりではなくて、まだまだずっとある。

　火の周りはみんなが浮かれて大騒ぎをする。食べ物や飲み物がいっぱい。

　長い冬を大きなトラブルなく、病気に罹（かか）ることもなく、それで誰も亡くなることはなかった。ありがとうをする。

　耐え忍ぶだけの冬でもなく、ガタガタ寒さに震えることもなかった。

　他はどうだったのかな。

　今年も元気で、いっぱい楽しもうね。