ティーガーAusf.A
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──ティーガーAusf.A
48口径75ミリ対装甲砲が火を噴く。
トート・ライン社のVK40(TR)は10発までの射撃に耐えたが、それから崩れた。
「まあまあ合格点だな」
「そうだな。十分だ。帝国の魔甲騎兵の砲撃にも耐えられる」
ミヒャエルがいい、双眼鏡で様子を観察していたカールも同意する。
「続いてゼータ・アルデルト社」
ゼータ・アルデルト社のVK40(ZA)に対装甲砲が向けられる。
「撃て」
ゼータ・アルデルト社のVK40(ZA)は壮絶だった。
10発の砲撃に耐え、何とか撃破しようと対装甲砲を操る兵士たちが必死になって射撃を繰り返し、あらゆる場所を狙ったが耐え続けた。
そして対装甲砲の砲弾がなくなっても耐えていた。
「こいつはたまげた」
「完璧だ」
ミヒャエルとカールがそれぞれそういう。
「これで決まりだな」
「ああ。ゼータ・アルデルト社の魔甲騎兵が採用だ」
一応内部も調べたが、乗員に影響の出るような現象は起きていなかった。
装甲兵総監部によってゼータ・アルデルト社のVK40(ZA)が正式採用され、正式名称としてティーガーAusf.Aという名称が与えられた。
だが、突撃魔甲騎兵の方は生産ラインを閉じると現行のレオパルトAusf.AとAusf.Bに影響が出ることからSK105Ausf.A突撃魔魔甲騎兵の装甲改良版であるSK105Ausf.B突撃魔甲騎兵が生産され続けることになった。
これはトート・ライン社への配慮でもあったとも言われている。
トート・ライン社はロートシルト家が関わっており、ロートシルト家は政治力を有するのである。
ゼータ・アルデルト社には主力魔甲騎兵の置き換えに努力してもらい、突撃魔甲騎兵は引き続き、トート・ライン社の生産となった。
ゼータ・アルデルト社は突撃魔甲騎兵バージョンの128ミリ砲を搭載したSK128A突撃魔甲騎兵も提示したが、それは拒否された。
これは5ヵ年経済計画の関係上問題でもあった。
5ヵ年経済計画の中にトート・ライン社は含まれており、トート・ライン社が完全に魔甲騎兵から手を引く状態が生まれるのは不味いのだ。
両社が競ってノウハウを蓄積し、健全に競争してくれることが共和国政府にとっては望ましいのである。
そのための経済介入こそが、5ヵ年経済計画なのである。
既存の重工業企業の保護と発達促進。
魔甲騎兵でも、航空機でも同じように保護と政府による投資が行われている。
その保護と投資を得られなかったアッヘンヴァル航空機産業はミヒャエルの予想したように倒産した。
製造ラインは複数のメーカーに分割され、アッヘンヴァル航空機産業は工場を売却したが、借金は返済しきれず、経営陣は路頭に迷うことになった。
「ティーガーAusf.Aはいつごろから配備されるんでしょうか?」
「どうも性能は良いが生産に難があるらしくてな。来年度から少数ずつの調達になるそうだ。それまではレオパルトAusf.AとレオパルトAusf.Bが主役だ」
参謀本部に戻ってガブリエラが尋ねるのにミヒャエルはカールから渡されたゼータ・アルデルト社の資料を見てそう答える。
「東方戦線で反転攻勢に出るまでには揃えておきたいですね」
「そうだな。あれがあれば敵国の魔甲騎兵もそこまで恐ろしいものではなくなる」
帝国が生産中と思われる42.5口径76.2ミリ砲搭載の魔甲騎兵もティーガーAusf.Aの装甲は貫けないだろう。
「しかし、数がないのでは困ります。量産体制を見直すように装甲兵総監部から」
「もちろんやっておるだろう。指導は行われているはずだ。トート・ライン社からノウハウを学ばせることまでやらせるだろう。ゼータ・アルデルト社は性能良い機械を作るが、少しばかり凝り性なところが問題だと指摘されておる」
強度は落ちるが幾分かの過程は省けるはずだとミヒャエルは言う。
「それから人工筋肉の互換性維持のためにレオパルトAusf.Bの脚部をティーガーAusf.Aに変更したレオパルトAusf.Cも開発されておる。量産は進むはずだ」
「そうであることを祈りたいですね」
レオパルトはシリーズ化して末永く共和国陸軍の軍馬となりそうである。
そして、いずれはティーガーがそれに代わる。
「さて、問題は東方戦線だ」
ミヒャエルがかつてはハンマーシュタイン中将が使っていた参謀本部第一部参謀次長の執務室に入る。
「このことについて机上演習をやろうと作戦課長のエルンスト・ミュラー大佐が言ってきている。俺は試したいこともあったので乗ることにした」
「エルンスト・ミュラー大佐……。ああ。昇進なされたんですね」
「そうだ。ついでに言えば、ディートリヒも大佐に昇進して装甲兵総監部でカールと働いているぞ」
ここ最近の共和国陸軍のやたらな昇進の早さは焦りの焦りの表れだろうなとミヒャエルは言う。
「焦り、ですか?」
「そうだ。次の大戦で軍を大幅に拡張する必要が出てきたが、士官不足が予想される。予備役を引っ張ってきても前大戦のことしか知らん年寄りにできるのはせいぜい後方の治安維持程度だ」
塹壕戦しか知らないのではなとミヒャエルは言う。
「だから、陸軍士官学校も定員数を増やしたし、有能な将校は片っ端から陸軍大学校に叩き込んでおる」
「なるほど。だから、もう将校になった人間はどんどん昇進させて新しいポストに慣れさせておこう、と」
「そういうことだ」
俺もこの階級章に慣れないとなとミヒャエルは中将の階級章を叩いた。
「それからレヴィンスキー大将は言わなかったが、俺からいう」
「なんでしょう?」
「おめでとう、ガブリエラ。大尉の昇進だ」
ミヒャエルが大尉の階級章をガブリエラに手渡した。
「私も昇進ですか?」
「ゆくゆくは陸軍大学校に入学して少佐になってほしいものだな」
「陸軍大学校は体力の試験もあったかと」
「まあ、無理は言わん。アウグストもいることだしな」
早くまた息子の顔が見たいとミヒャエルはぼやく。
「まだ離れから数日ですよ」
「我が子の1歳になるまでの貴重な数日だぞ? お前は会いたくないのか?」
「それは会いたいですよ。それからできればあの子の兄弟姉妹も欲しいところです」
「うむ。考えておこう」
ミヒャエルは困ったように頬を掻いた。
最初の出産であれだけ心配したので、もう一度となると自分もガブリエラも耐えられるだろうかと心配だったのだ。
「大丈夫です。安心してください。今は病院も清潔で、流行り病も流行していませんから。それに私はとても栄養状態がいいとお医者様は要ってくださいましたよ」
「だが、お前は前に演習のときに倒れたことがあるだろう?」
「あれからちゃんと食生活を見直しました。レバーだって食べています」
「ふむ。分かった。考えておく」
部下にも、妻にも無理はさせられないとミヒャエラは思った。
「それで東方戦線について推移を考えておきたい」
「敵の規模は分かっているんですか?」
「分からん。分かっているのは装甲部隊が15個以上、自動車化歩兵──帝国風に言えば自動車化狙撃兵が20個師団以上というところだ」
「その想定で演習を?」
「ああ。向こうの装甲部隊と自動車化狙撃兵部隊が一斉にポルスカに雪崩れ込んできたらという想定だ」
敵は間違いなく、ポルスカから侵攻してくるとミヒャエルは断言した。
「ポルスカの平原は機動部隊を投入するには適した場所だ。ダキア州の石油を狙って来ることも考えたが、向こうは別に石油には困っていないし、こちらも西方への脱出に成功したら、石油は問題でなくなる」
となると、ハーフェル=ブランデンブルク首都州目指してポルスカを疾走してくるだろうとミヒャエルは予想した。
「ボヘミアの工業地帯は?」
「わざわざ南部の山林地帯を機動して狙いに来るとは考えにくい。それを狙うにせよ、ポルスカを突破してくるはずだ」
「なるほど。となるとポルスカ州での戦いをいかに上手く戦うか、ですね」
ガブリエラはミヒャエルとともにポルスカ州の地図を見つめた。
ここが次の大戦の激戦地となる可能性があるのだ。
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