再び参謀本部へ
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──再び参謀本部へ
ミヒャエルが中将に昇進したという話を聞いたのは、アウグストがはいはいができるようになった頃であった。
「もう中将ですか?」
「ああ。そうらしい」
どうも政治的な理由がありそうだとミヒャエルは語る。
「ブルモフスキ元帥が上級大将から元帥に昇進したときは2ヵ月だった。そして、ブルモフスキ元帥は政治的な軍人でもある」
「あなたは政治的な軍人ではないでしょう?」
「どうだろうな。ちょっと大統領のご機嫌を取りすぎたのかもしれん」
ミヒャエルはそう言って肩をすくめる。
「所属は参謀本部第一部参謀次長となる。作戦に関して言えば参謀総長の次に口出しできる。これは本格的に共和国を戦時体制にしろということだろう」
「責任重大ですね。それで、私は?」
「正式に俺の副官に復帰だ。お帰り」
ミヒャエルがにやりと笑った。
「ただいまです。さて、ではふたりそろって復帰となると、アウグストは実家に預けなければなりませんね」
「お前も実家には迷惑をかけてばかりですまんな」
「大丈夫ですよ。お父様、お母様によっては可愛い孫ですから」
そう言ってガブリエラがアウグストをあやしながら、ベッドに連れて行く。
「お爺ちゃん、お婆ちゃんに会うのは楽しみ?」
アウグストはきゃっきゃと笑った。
「アウグストも不満はなさそうです」
「全く。我が子の面倒も見れないのに、共和国の面倒を見ろとは」
もっと休暇を充実させてもらいたいものだとミヒャエルは愚痴った。
「仕方ありません。共和国と全ての人民のためにと宣誓したんですから」
ガブリエラも久しぶりに軍服に袖を通す。
お腹周りが気になっていたが、今では気にならないレベルになっている。
「今の参謀総長はレヴィンスキー大将のままですよね?」
「そうだな。理解のある参謀長で助かると言えば助かる」
それからガブリエラはアウグストを実家に預け、それから陸軍省に向かった。
「ミヒャエル・フォン・ブロニコフスキー中将、着任しました」
「ご苦労、ブロニコフスキー中将。早速だが、仕事だ」
レヴィンスキー大将はそう言って書類を差し出す。
「次期主力魔甲騎兵のコンペ、ですか」
「ああ。参謀本部からも人を出しておきたい。決定は装甲兵総監部に任せることになるだろうが、君は参謀本部の所属で、君の妻であるガブリエラ中尉は主力魔甲騎兵という概念の発案者だ」
レヴィンスキー大将は別に装甲兵総監部に不満があるわけではないがと念を押した。
「次期主力魔甲騎兵の性能によっては作戦を立て直さなければならない。西方戦線はともかくとして、東方戦線については」
東方戦線に関する決定をまだ参謀本部は下していないらしい。
全てが仮定のままなのは西方戦線も同じだが、東方戦線については全く議論が進んでいないと見える。
ガブリエラ自身東方戦線をどう戦うべきかを迷っていた。
自国領土内で敵精鋭部隊を損耗させるというのは決定事項だが、それからどう作戦行動に移るのか。
魔甲騎兵が消滅したとしても帝国の人的資源は脅威だ。
「装甲兵総監部には話を通してある。君の古巣でもあるし、文句は出まい。よろしく頼んだよ」
「了解しました、閣下」
ミヒャエルはそう承諾し、ガブリエラとレヴィンスキー大将の執務室を出た。
「参謀本部が装甲兵総監部の仕事に口を突っ込むのはいいアイディアだとは思えんのだがな」
「しかし、魔甲騎兵の性能によっては東方戦線の作戦に影響しますよ」
「戦術レベルの話だ」
今のレオパルトAusf.Bの70口径75ミリ砲に耐えられる魔甲騎兵など存在しないとミヒャエルは言ってのけた。
「防御の面に関してはどうです?」
「それについては要改善だったな。40口径75ミリ砲の遠距離射撃には耐えられるようになったという話だったが」
合衆国はどうも40口径75ミリ砲を次期主力魔甲騎兵の主砲にしようとしているようだとミヒャエルは言った。
「では、コンペでどのような魔甲騎兵出展されるか見てみましょう」
「そうだな」
攻守に優れた魔甲騎兵というのは、守備にも一定の安定が必要になる。
それを得られるかどうかだ。
そして、次の週ガブリエラたちは参謀本部での西方戦線に関する調整を終えてから、次期主力魔甲騎兵のコンペに向かった。
「ミヒャエル」
「カール。お前は装甲兵総監部からか」
「ああ。しかし、お互いに出世したな」
「全くだな」
カールも中将に昇進していた。
「参謀本部からは連絡を受けている。だが、最終的にどの魔甲騎兵を採用するのか決めるのは装甲兵総監部だぞ」
「分かっている。レヴィンスキー大将閣下からもそう言われた」
邪魔はせんとミヒャエルは言った。
「コンペに出るのは?」
「トート・ライン社のVK40(TR)とゼータ・アルデルト社のVK40(ZA)だ」
「二社か」
「製造する段階では多くの企業が関わることになる」
VK40──実験戦闘車両40年式。
「コンペの形式は?」
「まずは実物を見せてもらう。それからこちらの用意した演習場でテストだ」
カールはそう言って、トート・ライン社とゼータ・アルデルト社の二社の代表者に挨拶をした。
「こちらが我が社のVK40(TR)です」
トート・ライン社の魔甲騎兵は車高が低く、そして傾斜装甲による防御と6脚の人工筋肉からなるものであった。
「主砲は?」
「既に実績のあるレオパルトAusf.Bで採用されている70口径75ミリ砲です」
「ふむ」
主砲はそのまま据え置きで、防御を高めたというところだろう。
納得のいくものだ。
だが、ライバルはその上を言っていた。
「こちらが我が社のVK40(ZA)です!」
巨砲を構えた魔甲騎兵が姿を見せる。
「これは……88ミリ砲か?」
「71口径88ミリ砲です。撃破できない魔甲騎兵は存在しません」
ただでさえ威力のある88ミリ砲を長砲身化したものだった。
「防御は大丈夫なのか?」
そこでミヒャエルが口をはさむ。
「48口径75ミリ砲にも耐えられます」
「ふむ」
魔甲騎兵の進歩が著しいことは知っていたが、まさかこんな化け物が出て来るとはミヒャエルも思ってもみなかった。
「スペック的にはゼータ・アルデルト社に利があるな」
「問題はスペック通りの性能が出せるかだな」
この手の兵器開発はスペックを過剰に要求して中途半端にしか満たさないことがあるとカールはいい、ミヒャエルも同意した。
「クライスト中将閣下。重量制限などは求めなかったのですか?」
「特には。ただ、鉄道輸送が可能であるというのは条件のひとつだった」
「ふむ」
カールが答えるのにガブリエラが両社の魔甲騎兵を見つめる。
「帝国でのことを考えておるのか?」
「ええ。重量があれば帝国の泥濘地帯で足を取られます」
「試験コースには泥濘地帯も設けられているそうだ」
「それではお任せしましょう」
そして、両社の魔甲騎兵が演習場に移動する。
『順次目標を撃破し、コースを一周せよ』
『了解』
トート・ライン社のVK40(TR)が演習場に入る。
トート・ライン社のVK40(TR)は定められた目標──レオパルトAusf.Bの導入に伴って廃棄される予定のレオパルトAusf.Aを撃破していくと、泥濘地帯を含めたコースを一周し終えた。
続いてゼータ・アルデルト社のVK40(ZA)が定められた目標を楽々と撃破していき、何の不調もなくコースを一周し終えた。
「これはゼータ・アルデルト社で決まりかもしれないな」
カールがぼつりとそう言った。
「まだ防弾性能を見ていない」
「そうだな。続いて防弾試験を実施する」
抵抗の魔甲騎兵の主砲を想定した48口径75ミリ牽引式対装甲砲が設置され、無人の魔甲騎兵に向けられた。
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