空軍との連携
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──空軍との連携
主力魔甲騎兵PzK-39魔甲騎兵はレオパルトAusf.A型として装甲兵総監部によって正式採用された。順次、巡航魔甲騎兵からの転換を行っていくことが決定され、第1装甲師団と第1共和国親衛装甲師団が最初の対象となった。
国家戦線党の機関紙“前線日報”はスペックをぼかしながらも『共和国陸軍の装甲戦力はこれによって飛躍的に上昇する』と報じた。
他のメディアはあまり興味がないようで、『共和国陸軍、新型魔甲騎兵採用』と隅に小さく報じられただけだった。
その他SPz-39多脚歩兵戦闘車はマルダー歩兵戦闘車として採用。
多脚戦闘偵察車はルクス装甲偵察車として採用。
多脚指揮通信車両は39年式指揮通信車両として採用。
多脚自走榴弾砲はPzH-105、PzH-150自走榴弾砲として採用。
多脚自走迫撃砲はPzMrs-82、PzMrs-120、PzMrs-160自走迫撃砲として採用。
多脚自走多空砲はオストヴィント自走多空砲として採用。
これで突撃魔甲騎兵と多脚工兵車両、多脚戦闘工兵車両以外の全ての車両が採用されたことになる。
それぞれの装備の転換と訓練でスケジュールはいっぱいいっぱいになり、師団の再編成もなかなか進まない。
常設の戦闘団司令部が設けられたのは第1装甲師団と第1共和国親衛装甲師団だけであり、他は未だに師団規模の行動しかできない状態だった。
戦闘団司令部の常設にしても、常設の指揮下部隊が存在しないことに不満を持ち、なりたがる指揮官がなかなかいないことが問題点として上げられた。
戦闘団規模での演習を繰り返すことでそれは解決できる見込みだったが、いかんせん装甲将校そのものが少ない。
ミヒャエルはなりふり構わなくなり、砲兵将校や歩兵将校、あるいは騎兵将校を戦闘団長のポストに据え付けた。
彼らには装甲部隊を扱う上でのモットー──速度は武器である──を叩き込まれ、とにかく前進することを選ぶことを促した。
戦闘団司令部が常設された第1装甲師団と第1共和国親衛装甲師団では、装甲将校が彼らのお手本となるような指揮を見せていた。
早速正式採用された多脚歩兵戦闘車ファミリーが活躍し、指揮官たちは無線機による魔甲騎兵部隊の指揮を行っていた。
「ブルモフスキ空軍元帥に会いに行くぞ」
そんな慌ただしい日々の中、突然ミヒャエルがそう言ったのに、おもわずガブリエラは首を傾げた。
「貴様が言ったのではないか。空軍力を使えば、装甲部隊の進撃についていける火力が得られると」
「ああ。そうですけど、今ですか?」
常設の戦闘団司令部の設置もなかなか進まず、新型装備を受け取った装甲部隊は右往左往している。
そんな状態で、空軍と話し合いを?
「戦争はいつ起きるか分からん。可能な限り迅速に進めておく必要がある。行くぞ」
「はい」
世界大戦を窺わせる戦争の暗雲はまだ遠いように思われるのだがと思いつつガブリエラはミヒャエルに同行する。
行先は空軍省。ここに空軍最高司令部がある。
「ブルモフスキ元帥は」
ミヒャエルが告げる。
「熱烈な戦略空軍の支持者だ。戦略空軍について知っておるか?」
「戦略爆撃機で敵都市を破壊することによって勝利を得る。戦略的な空軍の勝利こそが戦争の勝利」
「そういうことだ。対する俺たちが求めるのは戦術空軍。地上軍を航空戦力が支援することによって勝利を得るというものだ」
「議論する前から喧嘩になりそうな気がしてきました」
ガブリエラは憂鬱な気分になってきた。
「喧嘩は覚悟しておけ。だが、相手は空軍最高司令官にして元帥だ。階級で議論されるとこちらが負ける」
「ではどうするんですか?」
「貴様の得意な方法をやれ。上手く言いくるめろ」
「簡単に言いますけど」
空軍こそ主役である戦略空軍の熱烈な支持者をどうやって、戦術空軍という“陸軍の使い走り”に転向させるのかというのは疑問の浮かぶところであった。
「ブルモフスキ元帥も軍人だ。ちゃんと理論だって説明すれば、納得するはずだ」
「だといいんですけど」
陸軍の軍人を説得するだけでも苦労したのに空軍ともなるととガブリエラは思う。
「陸軍装甲兵総監部のミヒャエル・フォン・ブロニコフスキーだ」
「副官のガブリエラ・フォン・ゲーリケです」
空軍省の守衛にそう伝える。
「はっ。お通りください」
正門の守衛を通り、空軍最高司令官執務室に向かう。
アポイントメントは取ってある。
「陸軍装甲兵総監部のミヒャエル・フォン・ブロニコフスキーだ。アポイントメントは取ってある。グスタフ・フォン・ブルモフスキ元帥閣下とお会いしたい」
「はい。確認しております。元帥閣下はお待ちです。どうぞお通りください」
「どうも」
空軍の藍色の制服を着た将校が述べるのに、ミヒャエルとガブリエラが空軍最高司令官執務室に入る。
「失礼します」
ミヒャエルとガブリエラたちが執務室に入る。
「やあ、君らが噂の奇人変人コンビか」
ブルモフスキ元帥は白い空軍元帥の制服を着た、細身の男だった。
前大戦ではエースパイロットとして活躍し、50代にして空軍元帥に任命された。噂ではエアハルト大統領と懇意にしているという話だそうだが。
だが、彼は国家戦線党の政権獲得以前から上級大将にまで任命されていたのだ。政治的な昇進ということではあるまい。
「奇人変人とは。どこでお聞きになられましたか?」
「グレーナー長官からだ。変わった発想する陸軍将校がいる、と。それで、私に何の用かな、ブロニコフスキー大佐、ゲーリケ少尉?」
ブルモフスキ元帥はそう尋ねる。
「単刀直入に申し上げます。空軍には陸軍の支援に当たっていただきたい」
「ほう? 我々空軍に陸軍の使い走りをしろと?」
「言ってしまえば、そういうことです」
ミヒャエルははっきりとそう言った。
「はっきりと言ってくれるな」
「それが必要だからです」
ここでガブリエラがバトンタッチする。
「と、言うと?」
「空軍は決して陸軍の使い走りなどではありません。空軍もまた主役なのです。我々の描く大胆な攻撃においては前線部隊の移動速度に砲兵が間に合わない可能性があるのです。そこで空軍力です」
「砲兵の代わりをしろというのは結局は陸軍の使い走りではないか」
「砲兵が陸軍で何と呼ばれているかご存じですか?」
ガブリエラが尋ねる。
「戦場の女神です。砲兵こそが戦場の勝敗を決するのです。空軍は戦場の女神というのは脇役だとお考えで?」
「いいかね、ゲーリケ少尉。空軍はそんなことをせずとも戦争に決着をつけられるのだ。戦略空軍について私が説明しよう」
ブルモフスキ元帥は語り始めた。
「まず、空軍の主役となるのは戦略爆撃機だ。これなくして戦争は行えない」
戦略爆撃機。共和国空軍では第7航空軍団と第8航空軍団を含めた第1打撃航空軍集団として組織されている。
4発の大型エンジンを有し、大量の爆弾を搭載した状態で航続距離は空軍基地から王国、連合王国の首都を捕えている。
開発は大型航空機メーカーであるバウマイスター航空産業によって行われ、Ba-177として採用されている。さらに航続距離を強化して帝国の帝都を射程に収める計画も進行中だそうだ。
「戦略爆撃機の計画された編隊は戦闘機なくして機銃による濃密な弾幕を展開し、敵戦闘機を寄せ付けず、敵の都市を破壊する。工場を破壊する。継戦能力を破壊する」
もちろん、戦闘機乗りだった身としてはそこまで爆撃機に全幅の信頼をおけないがとブルモフスキ元帥は言い、長距離航続可能な護衛戦闘機の開発も行っているという。
「戦争は空軍によって終わる。陸軍が土地の取り合いをするのは結構。航空基地は守ってもらわなければ。だが、最強の戦略爆撃機が誕生したとき、戦争は終わるのだよ」
ブルモフスキ元帥はにやりと笑ってそう言った。
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