多脚歩兵戦闘車ファミリー

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 ──多脚歩兵戦闘車ファミリー



「まずは多脚偵察戦闘車。スペック通りです」


「これも42口径50ミリの砲撃に耐えられるのですか?」


「ええ。砲塔部も同じように」


 ガブリエラが尋ねるのにジークムントが答える。


 多脚偵察戦闘車も47ミリ砲を砲塔化しており、車長、砲手、装填手の3名。運転手1名は車体に。車体前部中央に装備されている。後方の兵員室は人数が少なく、4名が搭乗。


 そして、肝心なのは無線がここにもちゃんと配備されていること。


 無線手1名が専門で操作に当たり、指示を出すことができる。


「航空無線とのやり取りは?」


「できます。我々はこれを作っているときにこれを使って、空軍とやり取りするのではと思っていたのです。すなわち、空軍の前線航空管制官を搭乗させて、前線における航空支援を要請するのではないかと」


 ジークムントはそう言った。


「その通り。我々としてはこの車両に空軍の前線航空管制官を搭乗させ、陸空軍の連携を狙いたいと思っています。次の大戦では航空機と地上軍の連携が不可欠になるでしょうから」


 前線航空管制官とは空軍の所属し、文字通り最前線での航空機の管制を行う任務を果たす将兵である。


 前大戦では末期に生まれ、航空機による敵の重要な目標──砲兵陣地や前線航空管制官と似た役割を果たす前線観測班の陣地を叩くために動員された。


 だが、前大戦時の航空機の性能はお世辞にもいいとは言えず、いくら前線航空管制官が目標を指示しても爆撃が命中しないことが多々あった。


 それでいて前線航空管制官は敵に爆撃を誘導することから、重要なターゲットとなり、数多くの前線航空管制官が前大戦中に失われた。


 だが、時代は変わったとガブリエラは認識している。


 空軍の爆撃の精度は戦艦を葬り去るほどであり、爆弾の搭載量も照準器も前大戦とは比べ物にならない進歩した。そうガブリエラは考えている。


 ならば、前線航空管制官を装甲化した車両で運び、安全な場所から爆撃を誘導してもらうのは有益だろう。


 何より空軍の火力の迅速な展開がありがたい。演習でも砲兵が遅れるという場面は少なくなかった。


 あるならば砲兵があった方がありがたいが、そうでないならば空軍を頼るしかない。


「では、次を多脚指揮通信車両です」


 これにはミヒャエルが興味を示した。


「十分に広いな。わざわざ天幕を広げずとも中で指揮が取れる」


 ミヒャエルが中に入ってみる。


「無線はかなり強力なものだな」


「ええ。後方とも前線とも連絡がつけられるようにと」


「結構だ、博士。これも上部ハッチが開くのか」


「ええ。外が見渡せるようにと」


「悪くない。時として最前線で指揮を執る必要もあるからな」


 装甲部隊の快進撃についていけるような司令部でなければとミヒャエルは言う。


 多脚指揮通信車両は多脚歩兵戦闘車と違って兵員室が司令部になっている。小さな地図を広げられるテーブルを挟み、椅子が並ぶ。武装は車長用の12.7ミリ重機関銃だけで、他のものと比べると内装が広々としている。


 ミヒャエルはそれに満足したようで多脚指揮通信車両から降りる。


「上出来だ。他を見よう」


 ミヒャエルはそう言い次の派生型に向かう。


「多脚自走榴弾砲です。105ミリ砲と150ミリ砲の2種類があります」


 6本の足に支えられた105ミリ榴弾砲と150ミリ榴弾砲が天井を向いている。


「どうだ、ヘルムート?」


「悪くないね。砲兵にとっては自走化できただけでも嬉しい限りなんだよ。それに自衛用の12.7ミリ重機関銃までついてきたら文句の言いようもない」


 ヘルムートは他の車両と違ってオープントップの車体に搭載された榴弾砲を眺める。砲そのものの俯角の取り方と予備弾薬の置き場所を見て満足したように頷く。


「弾薬輸送車は?」


「同じ多脚のものを。こちらです」


 そして、ジークムントがやはりオープントップの多脚弾薬輸送車を示す。


「多脚自走榴弾砲と多脚弾薬輸送車は互換性があります。いざという時は現地改修で、多脚弾薬輸送車を多脚自走榴弾砲に改装できます」


「ふむ。役割分担はしっかりしておきたいけれど、万が一の場合もあるか」


 多脚自走榴弾砲と多脚弾薬輸送車の車体は全く同じものだった。


 多脚弾薬輸送車の砲にも榴弾砲を設置できる場所があり、現場の工作だけで多脚弾薬輸送車を多脚自走榴弾砲に切り替えることができた。


「となると、工兵車両も欲しいところだな。魔甲騎兵の回収や障害物の撤去にも使えるようなもの」


「そう思いまして、勝手ながら多脚工兵車両と多脚戦闘工兵車両を準備させていたしております。車体のベースはPzK-39魔甲騎兵となりますが」


「ふむ。後で見せてもらおう」


 そして、多脚自走榴弾砲が終わると多脚自走迫撃砲へ。


「口径は81ミリから120ミリ、160ミリまで準備しております」


「160ミリ? 我が軍では使用していたか?」


「ええ。つい先月から導入が決まり、我が社が製造を」


「ほう」


 多脚自走迫撃砲もオープントップで、自衛用の12.7ミリ重機関銃が兵員がすぐ使える位置にマウントされている。


 迫撃砲は砲口から砲弾を装填する。少なくとも今の迫撃砲はそうだ。


 そのため、オープントップにしなければ、装填と砲撃が行えない。


 対砲迫射撃が行われる前に逃げ出すのが吉だが、間に合わなかった場合でも、敵の砲弾に対する側面の防御力は確実なものだ。


「こればかりか多脚歩兵戦闘車と同じく、歩兵科に運用させてみんことには分からんな。砲兵科の管轄でもないし、装甲科の管轄でもない」


「要試験ですね」


 ミヒャエルとガブリエラはそう言って多脚自走迫撃砲を見た。


「最後になりますが、多脚自走対空砲を」


「これか」


 60口径40ミリ機関砲を2門装備した多脚自走対空砲が姿を見せる。


「随分と物々しいな」


「海軍は4連装を艦載対空砲として使用しているというが」


 カールが告げるのにミヒャエルがそう言う。


「大口径化した点のデメリットは?」


「装弾数が少ないことです。一度の対空戦闘で連続発射できる砲弾数は少ないものです。もっとも対空戦闘だからと言ってそこまで連続射撃をする必要はありませんが」


「ふむ」


「一応水平射撃も可能です。近接支援には使用できるかと」


 8発のクリップを装填しながら射撃することになりますがとジークムントは言った。


「十分だ。弾幕を張るのは12.7ミリ重機関銃の仕事だ。多脚自走対空砲の仕事は確実に敵の航空機を葬ることだ」


 一応内部を確認する。


 広い兵員室も全て40ミリ機関砲の砲弾と本体でいっぱいいっぱいであり、砲塔からは外の様子がよく見えるようになっていた。


「問題はないようだな」


「これは装甲科のものだ。魔甲騎兵の空を守るためのものなのだからな」


「だが、兵員はどうする? 装甲科に配属されて魔甲騎兵でなく、これに回されたものの士気は低いものになるぞ」


「それはそうだが」


 カールが指摘するのにミヒャエルが悩む。


「高射砲ならば砲兵科の管轄だけど?」


「分かった、分かった。砲兵科に回してやる」


 ヘルムートが笑顔でそう言うのにミヒャエルがそう返した。


「そう言えば空軍が高射砲を管轄しようとしているとも聞いたが」


「ブルモフスキ元帥の話だろう? 困ったものさ。何でも空軍でやろうとする。降下猟兵は飛行機から降りるのだから空軍の指揮下に入るべきなんて言っていたよ。一笑に付されたけどね」


 どうやら陸軍と空軍も同じ共和国軍ということで仲がいいわけではないようだ。


 陸軍内部でも装甲、歩兵、砲兵と縄張り争いが続いているのに、これで戦争ができるんだろうかとガブリエラは呆れた。


「博士。突撃魔甲騎兵は?」


「遺憾ながら、もう少しお待ちください。開発が難航しております」


「分かった。次来るときに工兵車両と一緒に見せてくれ」


「畏まりました」


 そうして、ガブリエラたちは納得して陸軍省とそれぞれの駐屯地に帰っていった。


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