多脚歩兵戦闘車SPz-39
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──多脚歩兵戦闘車SPz-39
「こちらが多脚歩兵戦闘車SPz-39となります」
「SPz-39」
「防護装甲車両。歩兵を防護する意味からSPz-39と。仮称名称はトート・ライン社39年式多脚歩兵戦闘車となります」
「ふむ」
説明してくれというようにミヒャエルが促す。
「装甲については人工筋肉の出力が上がったために42口径50ミリ砲に耐えられるレベルになりました。我が軍の現在換装中の巡航魔甲騎兵の主砲を弾きます」
多脚歩兵戦闘車も避弾経始が重視されているのか“く”の字をした装甲が側面に張り付いている。そこから6本の人工筋肉の足が突き出している。
だが、どうやら“く”の字をしているのは外側だけで、内部は兵員室が車体に並列して並び、兵士たちは背中合わせで10名が乗車できるようになっていた。
20ミリ機関砲は車体中央に装備されており、砲塔化していた。小さな魔甲騎兵という感じで、20ミリ機関砲の搭載された砲塔から車長も顔を出し、12.7ミリ重機関銃を操作できるようになっている。
まだ重要なのは運転手の他に無線手がいることだ。
指揮通信車両ほどではないが、戦術レベルの運用可能な無線機をこのSPz-39多脚歩兵戦闘車も装備している。
「そう言えば、PzK-39魔甲騎兵には無線は?」
「もちろん、搭載しております、PzK-39魔甲騎兵の運用は車長、運転手、砲手、装填手、無線手の5名で構築されております」
「それはよかった」
無線が搭載されることがガブリエラの強い願いだった。
これまでの戦いで司令部と隷下部隊、あるいは部隊同士の意思疎通が取れず、作戦が破綻した戦場というものを、彼女は嫌というほど学んできたのである。
「レイアウトがかなり変わったな」
「ええ。最初は砲塔を左よりに着けて、右側から車長が顔を出すキューポラを設置しようとしたのですが、それではバランスが悪いということが分かりまして。それで中央に砲塔を車長のキューポラを兼用して搭載することにしました」
「ふむ。やはり作ってみないと分からないこともあるものだな」
砲塔も傾斜装甲だ。
「試験運用を見せてもらっても?」
「それでしたら、第1装甲師団の自動車化歩兵部隊でテストされるはずです。流石に魔甲騎兵のクルーは雇っておけても歩兵は雇っておけませんから」
「そうだな。となると、第1装甲師団で試験の様子を見せてもらうことになるな」
ミヒャエルがカールを見る。
「私は装甲連隊長だ。自動車化歩兵部隊については師団長に話を通してくれ。まあ、彼も装甲兵総監部の言うことには文句を言うまいよ」
「だといいのだが」
第1装甲師団の師団長とは会ったことすらないなとガブリエラは思った。
「貴様、これをどう思う?」
「とりあえず、走行試験程度は見てみないことにはなんとも。重要なのは敵の砲撃の中でも魔甲騎兵から切り離されない歩兵部隊です。砲撃に対する耐久試験は?」
ガブリエラがジークムントに尋ねる。
「試しております。敵の75ミリ榴弾砲程度ではびくともしません。150ミリ榴弾砲の射撃にも十二分に耐えれました。直撃した車両は流石に撃破されてしまいましたが、戦場で榴弾砲の直撃弾が出るのは稀です」
「それならば問題はありませんね。後は不整地踏破能力。敵の榴弾砲で破壊された道路を踏破できる能力が必要になります」
「それについても問題なく。多脚式の駆動系のおかげでハーフトラックより遥かに高い不整地踏破能力を有しています。不整地では時速30キロ。整地では時速50キロです」
「ならば十分でしょう」
そう言いながらガブリエラは実際にSPz-39多脚歩兵戦闘車に乗り込んでみる。
脚部が比較的車体上部に搭載れているため、乗り降りはしやすい。後部ハッチからならばすんなりと乗り込める。だが、これは共和国の主力小銃であるK32K小銃──1932年式騎兵銃──を装備して乗り込むのはやや狭いなと思った。
それから上部ハッチを開く、上部ハッチは比較的薄い装甲で、ここを狙われるとまずいというのが窺えた。
「上部ハッチの装甲は?」
「航空機による機銃掃射に与えられるように7,62x63ミリライフル弾に耐えられるようになっています」
つまり、重機関銃にも航空爆弾にも耐えられないというわけだ。
まあ、仕方ないとガブリエラは思う。上部ハッチを重装甲化してしまったら、歩兵がハッチを開けられなくなってしまう。
「ブロニコフスキー大佐殿。些か問題があります」
「なんだ?」
「K32K小銃を装備した歩兵では乗車も戦闘も難しいです」
「ふむ……」
兵員室は狭すぎるというわけではないが、1メートルと近くあるK32K小銃を装備した歩兵では、兵員室でスムーズに動けないことは目に見えていた。
「短機関銃を使用しては?」
「それだ。短機関銃を装甲擲弾兵には使わせよう」
短機関銃と聞いてついていけないのはガブリエラだ。
「貴様。9月攻勢のことについて勉強したのだろう。浸透戦術を成功させるには、個人の運用できる機関銃が求められた。それが短機関銃の走りだ。塹壕戦で大きな威力を発揮したと聞いている」
「短機関銃は運用に適するので?」
「全長は840ミリ程度だと聞いておる。間違いなく運用可能だろう。とりあえずできているのはMP35短機関銃か」
装甲兵総監部が歩兵の装備にまで口出しできるのだろうかとガブリエラは思った。
「魔甲騎兵の後についていって、銃弾をばら撒き、対装甲砲を早期発見して潰すのが仕事だ。主力は短機関銃。それから遠距離戦闘用のK32Kを少数。そして汎用機関銃を配備といったところだな」
「装甲兵総監部が決めていいことなんですか?」
「無論、ダメだ。歩兵総監部の了承を受ける必要がある。だが、連中とてこれを見たら同じ結論に至るだろう」
何しろ物理的な問題だからなとミヒャエルは言う。
「短機関銃の弱点というものは?」
「弾に拳銃弾を使っているので威力と射程が落ちる。精密性にも欠ける。それを補うために装弾数を増やし弾をばら撒くようになっている。小形で威力が発揮できる」
だが、拳銃弾だからなとミヒャエルは肩をすくめる。
「その歩兵を支援するための多脚歩兵戦闘車ですから」
「それもそうだ。汎用機関銃についてもそれなりものが出来ていると聞いてるし、どうにかなるだろう。後は歩兵科の仕事だ」
確かにこの多脚歩兵戦闘車を扱うのは歩兵科だ。装備こそ装甲兵総監部が準備したものの、運用するのは歩兵である。
「しかし、よく気づいたな」
「衛兵さんたちが長くて重い銃を抱えているのを見てましたから」
ガブリエラのいた陸軍会館でも陸軍省でも、そしてアパートでもK32K小銃を持った兵士が警備に当たっている。
彼女が多脚歩兵戦闘車を見たとき、その銃の長さが目に付いたのは当然と言えるだろう。彼女は実地でそれを見ている。
「多脚歩兵戦闘車についてはこれで十分だろう。多脚偵察戦闘車や自走榴弾砲などのファミリーを見せてほしい」
「畏まりました。こちらになります」
そして、ついにSPz-39多脚歩兵戦闘車をファミリー化したものが姿を見せた。
「おや? 間に合ったかな?」
「遅いぞ、ヘルムート」
「悪いね。連隊長しての仕事があったものだから」
ここで第1装甲師団第11砲兵連隊連隊長のヘルムートが参加。
彼の見る中、ファミリー化された多脚歩兵戦闘車ファミリーが並ぶ。
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