主力魔甲騎兵PzK-39

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 ──主力魔甲騎兵PzK-39



 トート・ライン社から主力魔甲騎兵と多脚歩兵戦闘車ファミリーが完成したという知らせを受け取った。


 それは装甲兵総監部が発足してから14日後のことだった。


 装甲兵総監部からディートリヒと第1装甲師団からカールが一緒にやってきた。


「いよいよ主力魔甲騎兵の完成か」


「胸が躍るな?」


 カールがタイタン実験場にやってくるのに、ミヒャエルがそう言った。


「いよいよ、主力魔甲騎兵というこれからの装甲部隊の将来を担うものがロールアウトするんですね。期待したいです」


「まだ、試作機ができただけですよ、シュトラハヴィッツ中佐殿。これから性能試験を行って本当に採用するのか決定されるんです」


「そうでした。テストパイロットはトート・ライン社が?」


「ええ。元共和国陸軍装甲将校です」


 そうディートリヒと言葉を交わして、ガブリエラたちはタイタン実験場に入った。


「よくおいでになられました。主力魔甲騎兵は完成しております」


 ジークムントがそう言って主力魔甲騎兵を示す。


「ほう。結構なデザインだな」


 側面は車体、砲塔ともに傾斜装甲。避弾経始が重視されている。正面装甲は半円状の丸みを帯びた装甲になっている。これもまた避弾経始のためだ。


 砲はこれまでの弱弱しい小口径砲でも短砲身でもなく、立派な主砲が突き出ている。


 脚部は6本の人工筋肉からなる駆動系で、それぞれの足が装甲に守られている。砲撃戦における被弾面積を減らすべく、姿勢は低く保ってある。


 速度は不整地で時速25キロ。整地で時速45キロ。


「攻守ともにバランスが取れたものだな」


「ええ。対装甲能力についてはこれまでの魔甲騎兵の中で抜群です」


 ミヒャエルが機体を見上げるのに、ジークムントがそう返す。


「これから運用試験を?」


「一応のテストは済ませてありますが、軍の方々に見せるための試験を」


「それはありがたい」


 カールが尋ねるのにジークムントがそう告げた。


「テストパイロットは?」


「彼らです。アルフォンス・アンファング元共和国陸軍中尉と彼のチーム」


 ジークムントがそう紹介すると魔甲騎兵の車長用のキューポラから、ひとりの男性が姿を見せた。そして、彼は慣れた様子で低姿勢を取っている魔甲騎兵から降車する。


「PzK-39開発チームのアンファング元共和国陸軍中尉です」


「PzK-39?」


「この魔甲騎兵の仮称名称です。トート・ライン社39年式魔甲騎兵」


 ミヒャエルが首を傾げるのに、アルフォンスがそう言った。


「ふむ。で、貴様がテストした感じではどうだ?」


「使用感覚としては巡航魔甲騎兵と同じですが、砲撃力は遥かに上がっています。法の命中精度も抜群です。これまでの巡航魔甲騎兵に慣れた兵士ならば扱えるでしょう」


「歩兵魔甲騎兵からの転換は?」


「不可能ではありません。ただ、巡航魔甲騎兵からの転換と比べて、時間はかかることは確かでしょう」


「そうか。まあ、歩兵魔甲騎兵への転換はほぼ突撃魔甲騎兵に変更するから、気にするような話ではない」


 アルフォンスの言葉にミヒャエルが頷く。


「とりあえず、見せてもらおう。どの程度のものか」


「ええ。これからご覧に入れましょう」


 そう言ってアルフォンスはPzK-39魔甲騎兵に乗り込んだ。


「では、こちらへどうぞ。標的に対する射撃試験を行います」


「ああ。それから走行試験も観たい」


「もちろんです」


 PzK-39魔甲騎兵はタイタン実験場の組み立て施設を出て、演習場に向かう。


 演習場は軍の実弾射撃場とほぼ同じで、射撃目標として共和国陸軍の歩兵魔甲騎兵が配置されている。


 共和国陸軍の歩兵魔甲騎兵も巡航魔甲騎兵では撃破できない装甲を有している。


 ただ、足が遅いというだけだ。


 その足の遅さこそが致命的でもあったのだが。


 アルフォンスの操るPzK-39魔甲騎兵が配置に付き、試験開始の合図を待つ。


『試験開始、試験開始。順次、目標を撃破し、試験場内を一周せよ』


『了解』


 PzK-39魔甲騎兵は動き始める。


 かなりの速度でPzK-39魔甲騎兵は走り始めた。


 演習場は不整地地帯だが、巡航魔甲騎兵のような速度で、PzK-39魔甲騎兵が走り抜けていく。そして、停止して目標に向けて射撃する。


 砲声とともに金属の砕ける音が響き、標的となっている共和国陸軍の歩兵魔甲騎兵が撃破される。


「おお。歩兵魔甲騎兵が」


「流石は長砲身75ミリ砲だな」


 ディートリヒが歓声を上げ、カールが頷く。


「この速度ならば問題ないな」


「ええ。理想的です」


 まだ行進間射撃は行えないが、移動速度は不整地でも十分だった。


「これならいけますよ」


「貴様のお墨付きとはありがたい」


 ガブリエラの言葉にミヒャエルはにやりと笑った。


「だが、確かにこの速度と火力というのは驚異的だぞ。この速度で突破されたら、どうしようもないだろう」


 カールがそう言う。


「その通り。敵が慌てて巡航魔甲騎兵を繰り出しても、撃破されるし、後方に残っているだろう歩兵魔甲騎兵についてもあっという間に撃破だ」


「そうだな。敵のあらゆる魔甲騎兵を撃破できるだけの火力だ」


「今のところは、だな」


 これから敵がさらに重装甲の魔甲騎兵を繰り出してこないとは限らないのだ。


「今のところは、か。軍は88ミリ砲を搭載した魔甲騎兵を本気で作ると思うか?」


「さあな。人工筋肉のご機嫌次第だ」


 カールが尋ねるのに、ミヒャエルがそう返す。


「ロートシルト長官は128ミリ砲を載せてはどうかとまで言っておったぞ」


「それはまた……。機動力を損なうだろう」


 固定砲台となるなとカールは言った。


「海軍の軍艦用の大型高射砲が105ミリと128ミリ。そう考えると存外不可能な数値でなくなるかもしれない。人工筋肉がこれからも進歩し続けるならば、128ミリでないと抜けない敵すら出てくる可能性があるのだ」


「そのような敵が出たときは今の主力魔甲騎兵では歯が立たんな」


「将来のことはいくら悲観的に想定しても問題ない。いや、将来のことは可能な限り悲観的に備えるべきだ。帝国は76.2ミリを主砲にするに可能性もあるという」


「帝国は45ミリ砲ではなかったか?」


「それは3年前の冬戦争の際の数字だ。もうとっくに変わっていてもおかしくない」


 ミヒャエルはそう言ってため息を吐く。


「本当に軍隊とはイタチごっこの極致だな?」


「全くだ」


 砲を防ぐ装甲。装甲を破る砲。その砲を防ぐ装甲。その装甲を貫く砲。


 軍隊は延々とイタチごっこを続けている。


「装甲は要更新だな。47ミリ砲を防げる程度では役に立たんかもしれない。今の速度を維持したまま、装甲を強化する方向で進めななければ」


「敵もいずれ自分たちの砲では戦えないと気づくだろう。そうなると装甲の強化は必須だ。主力魔甲騎兵は敵を撃破するのは当然だが、それと同時に自分たちを守れるだけの装甲も必要となる」


 カールとミヒャエルがそう言葉を交わす。


 その間もPzK-39魔甲騎兵は目標を撃破し、快速に演習場を駆け巡った。


「博士! 結構だ! 参考になった!」


「はい。では、試験を終了します」


 試験終了の合図が出る。


 PzK-39魔甲騎兵はゆっくりとタイタン実験場の組み立て工場に戻っていった。


「博士。どの程度で人工筋肉の交換が必要になる?」


「最短で320キロの行軍で、最長で1280キロの行軍で破損すると想定されています。いずれも戦闘速度を維持して不整地を移動した場合です」


「そう考えると随分と持つものだな」


 魔甲騎兵とは整地を移動していたとしても、その重量が人工筋肉にのしかかることから、最悪100キロ移動しないうちに破損するということもあるのだ。


 不整地を320キロ戦闘速度で移動して耐えられるというならば人工筋肉を準備することになる兵站部門してはありがたいかぎりだろう。


「では、次は多脚歩兵戦闘車ファミリーだ」


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