自走榴弾砲、自走迫撃砲、自走対空砲

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 ──自走榴弾砲、自走迫撃砲、自走対空砲



 多脚歩兵戦闘車については意見は纏まりつつあった。


 装甲は従来通り47ミリ対装甲砲に耐えられるもの。2名の乗員を削減し、その分武装を設ける。対空、対歩兵戦闘用に頑丈かつ優秀なことで実績あるコロンビア合衆国からライセンスを購入した12.7ミリ機関銃を1丁と対空砲としても使われている57口径20ミリ機関砲を1門。


 12.7ミリ機関銃は車長が運用し、20ミリ機関砲は砲手が運用する。


 上部ハッチと後部ハッチはそのまま。上部ハッチがあると上部ハッチから体を乗り出して、乗車したまま戦闘ができるためである。後部ハッチは兵員の乗車下車をスムーズに行うために設けられた。


 また脚部については魔甲騎兵用の人工筋肉を使用することで機動性と積載量を確保するが、脚部は6本とする。人工筋肉というパーツは多ければ多いほどメンテナンスが大変で、軍としては兵站で頭を悩ませることになるからだ。


 後はこれをベースに自走榴弾砲、自走迫撃砲、自走対空砲、偵察戦闘車、指揮通信車両を作成するだけである。


 偵察戦闘車と指揮通信車両はすぐにレイアウトが決まった。


 偵察戦闘車は47ミリ対装甲砲の車載型のものを搭載し、大幅に乗車する兵員を削減。偵察分隊から4名を乗車させるだけにし、空いたスペースを弾薬庫と無線機を設置する場所に変えた。


 指揮通信車両も元の車体が大きな容量を持っているため、余裕をもって無線機などの指揮通信設備を搭載することができるようだった。


 後は自走榴弾砲と自走迫撃砲、自走対空砲だ。


「自走榴弾砲の車載砲についてはどのようなものを想定なさっているので?」


 そこで全員が砲兵将校であるヘルムートの方を向く。


「そうだね。可能ならば150ミリ榴弾砲を乗せたい。無理なら105ミリ榴弾砲。それから自走榴弾砲だけではなく、弾薬輸送車も作ってほしい」


 150ミリ榴弾砲と105ミリ榴弾砲は共和国陸軍でもっともポピュラーな榴弾砲だ。


 威力では150ミリ榴弾砲が勝るが、速射性では105ミリ榴弾砲に利がある。


 だが、今のところ想定されている低地地方に存在するガリア王国の堡塁にはどちらも通用しない。鉄筋コンクリート製の堡塁を破壊するには降下猟兵を降下させて、成形炸薬弾で破壊するしかないのである。


 もちろん、共和国には600ミリ臼砲のような前大戦で活躍した火砲も揃っている。低地地方の堡塁にそれで対処して突破したのは前大戦での出来事だ。


 今回は速度が命の戦いだ。低地地方への誘因それでいいかもしれないが、低地地方とストラティスブルグムの間にある軍事的空白地帯──実は小さな独立国家がある──を突破する際にはそんな巨砲は動員できない。


 小規模ながら降下作戦を行う必要があるだろう。


「150ミリ榴弾砲は恐らくは搭載可能でしょう。ですが重量の関係上、オープントップになりますがよろしいでしょうか?」


「それは仕方ない。撃ったら逃げるが今の砲兵の在り方だ。留まって砲撃し続ければ、対砲兵射撃か爆撃機が飛んでくる」


 自走化できるだけでかなり楽になるよとヘルムートは語った。


「105ミリ榴弾砲なら砲塔型にできるんじゃないか?」


「やはりその場合は脚部を8本にしなければ安定しませんね」


「むう。技術的問題ならしょうがない」


 ミヒャエルは他にも自衛用の対空火器の設置などを求めていた。


 彼としては載せられるものは全て載せたいという考えらしいということが分かってきた。戦場では確かに何が起きるのか分からない。前もって準備していなければ、土壇場になって酷い被害を出すことになる。


 特に航空機の脅威は近年高まってきている。


 オープントップの自走榴弾砲は上空からの機銃掃射を受ければ大損害だろう。


「自走迫撃砲は81ミリ迫撃砲と120ミリ迫撃砲を?」


「うむ。こればかりは歩兵の分野だからな。両方試作して、歩兵将校に聞いてみるしかない。迫撃砲は歩兵の有する歩兵魔甲騎兵に次ぐ火力だ」


 現場レベルでは最大レベルだろうとミヒャエルは言った。


「迫撃砲は砲兵の扱うものではないんですね」


「前大戦からそうだったからな。それに何といっても射程が短いし、本当に歩兵の直接支援に当たる火砲だ。歩兵科から取り上げることはできん」


 軍隊も縦割り行政で大変だとガブリエラは思った。


「自走迫撃砲にも自衛用の12.7ミリ重機関銃を据え付けておいてほしい」


「はい。畏まりました」


 ジークムントは重機関銃の設置位置について話し合う。


 迫撃砲は高く打ち上げ、短く落とす兵器だ。自走化することにはメリットがあるが、流石に砲塔化しようという意見はなかった。迫撃砲の装填と発射は通常の迫撃砲と同じ要領──つまりは砲口から装填する前装式──で行われるのであり、オープントップでないと逆にやりにくいのだ。


「で、自走対空砲だが」


「小口径の対空機関砲を想定されていますか? それとも大口径高射砲を?」


「難しいところだ。師団レベルでは水平爆撃で車列を狙う大型爆撃機を狙う大口径高射砲が欲しいが、連隊、大隊レベルになると低空飛行で機銃掃射や爆撃を行う航空機を撃墜する小口径対空機関砲が欲しい」


 ミヒャエルはそう言って頭を悩ませる。


「ミヒャエル。大口径高射砲は流石にこの車体に載せるには大きすぎる。大口径高射砲は牽引でいいだろう。それよりも装甲部隊に戦術的に随伴できる小口径機関砲を搭載したものがいい。できれば、砲塔型のものが」


「そうだな。流石に何でもかんでも載せるというのはデメリットも大きい」


 カールの指摘にミヒャエルが頷いた。


「40ミリ対空機関砲があるだろう? あれを載せられないか?」


「可能ですが、継続して射撃するなら20ミリ機関砲の方がよくないでしょうか?」


「俺は空軍の航空兵ではないから断言はできないが、航空機は近年頑丈になりつつあるそうだ。大口径の対空砲ではないと抜けない航空機が出てくるかもしれないし、できることならば1発、2発で敵を仕留めたい」


「では、60口径40ミリ対空機関砲を連装で?」


「ああ。それが望ましい」


 幸い、兵員を完全に載せなくなった車両には余裕がある。40ミリ対空機関砲を載せても問題はない。


「できれば水平射撃もできるようにしておきませんか? 敵の軽装甲車両はもちろん、歩兵の相手もできるように思われますが」


「……恐ろしいことを言う女だな、貴様は」


「使えるものは使いませんと」


 対空砲の水平射撃はまだこの世界では行われたことがない。だが、37ミリ対装甲砲を上回る40ミリ対空機関砲を防空任務にだけ使うのは勿体ない。


 ガブリエラはただそう思ったのだ。


「大口径高射砲は88ミリだ。下手な魔甲騎兵の主砲より強力だと聞いているぞ。ヒスパニアの内戦では共和国から供与された大口径高射砲はあらゆる戦場でトーチカを撃破するのに使われ、魔甲騎兵を撃破するのにも使われたそうだ」


「だ、そうですよ」


 ガブリエラはカールという思わぬ味方を得た。


「まあ、余計な痛みを覚える前にミンチになるから人道的ではあるか。だが、一応法務士官にゲンフ陸戦協定に違反しないか聞いておかなければな」


 戦争というものにルールがあるというのも奇妙な話だが、あまりに非道な行為は国際世論に批判される。


 そうなると頼みの綱の合衆国の世論も流れてしまう。


「以上でよろしいでしょうか?」


「ああ。今のところは以上だ」


 そこでようやくトート・ライン社のタイタン実験場での会議は終わった。


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