必要なのは
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──必要なのは
「状況は分かりました。私の考えるのは以下のような魔甲騎兵です」
ガブリエラがスペックを記していく。
『その1。速度は巡航魔甲騎兵と同等か、それより僅かに劣る程度。騎兵と比較して遜色のない機動戦力としての役割が果たせるということ』
速度は機動戦において重要な要素となる。これがなければ、魔甲騎兵である意味がない。塹壕を越えるだけの歩兵魔甲騎兵は論外ということだ。
『その2。火力は敵魔甲騎兵と交戦し、これを撃破し得るもの。複数の砲は設けず、ひとつの主砲のみを備えること。ただし、副武装として機関銃は必須とする』
こちらの機動戦力に敵が機動戦力をぶつけてくる可能性は高い。前大戦ではあまりに魔甲騎兵の速度が遅いために魔甲騎兵同士の戦いは発生しなかったが、今回の戦いではその可能性があり得る。
機関銃が必須というのは、歩兵による肉薄攻撃を阻止するためである。前大戦では魔甲騎兵に手榴弾を束ねたものを投げつけて撃破した兵士もいる。
『その3。装甲は歩兵魔甲騎兵からやや劣る程度。少なくとも敵の展開力の早い対装甲砲に耐えられるもの。想定されるのは37ミリ対装甲砲、45ミリ対装甲砲、47ミリ対装甲砲。いずれも徹甲弾の使用を想定』
敵の防衛線を突破する必要性のある魔甲騎兵にとっては装甲も重要だ。
『その4。全ての魔甲騎兵はこの魔甲騎兵の一種に統一し、歩兵・巡航魔甲騎兵というカテゴリーをなくすこと』
ここまでの意見を纏めると、つまりは攻守のバランスが揃いかつ機動力のある一種の魔甲騎兵が必要とされるわけである。
「一種に魔甲騎兵を纏めるのか……」
「はい。複数の魔甲騎兵を使い続けることは戦力の分散と量産する際の手間に繋がります。もちろん、歩兵が自分たちを支援する魔甲騎兵を欲してるのは分かります。そのための魔甲騎兵も基本はこの魔甲騎兵をベースにして、装備のみを取り替えます」
カールが唸るようにいうのに、ガブリエラがそう説明する。
「戦力は集中して運用せねばならず、そして経済的にはひとつの商品を大量生産すればコストダウンに繋がります。軍事、経済の両面で効果が期待できるかと思われます」
「確かにその通りだ。いちいち歩兵・巡航魔甲騎兵とカテゴリーを分けて、別々のものを作っていたんじゃ、工場のラインは統一できないし、人工筋肉の繁殖コストもかかる。俺はこの案に賛成だ」
ガブリエラが述べるのをミヒャエルが同意してみせる。
「確かに理にかなっている。汎用魔甲騎兵というべきか」
「私は主力魔甲騎兵とこれを名付けたいと思います。魔甲騎兵部隊の、機動部隊の中核に位置する戦力。汎用という呼び名では、また歩兵科に取られかねません」
歩兵科が塹壕や陣地戦を戦うための、従の歩兵魔甲騎兵に当たる魔甲騎兵はこれとは別に作るべきですとガブリエラは主張した。主力魔甲騎兵をベースに、と
「納得した。歩兵科に与える魔甲騎兵というものはどういうものになるだろうか?」
「装甲歩兵砲とでも言うべきものになるかと。一定の装甲と歩兵支援のための大型砲。魔甲騎兵との遭遇戦も考えて対装甲榴弾が使用できれば文句なしですが」
この主力魔甲騎兵のシャーシの許す範囲での武装と装甲になりますとガブリエラは語った。それをオーバーして新しいシャーシを作るようでは、本末転倒とも。
「対装甲榴弾というのは?」
「ご存じありませんか? 成形炸薬弾のことです。これは砲口径が大きければ大きいほど、威力を発揮するとされています。私も資料を読んだだけですが。なので装甲兵歩兵砲の主砲は軽榴弾砲と同じ31口径105ミリ砲でもいいかもしれません」
「ああ。聞いたことがある。対装甲榴弾とは名付けられていなかったが、降下猟兵部隊がトーチカを撃破するために使用するものであると」
「そう、それです。共和国では既に対装甲兵器として採用されていると聞いていますが、まだ配備されていないので?」
ガブリエラが疑問を以て尋ねる。
「いかんせんながら、装甲科では複数の兵器開発が行われていて、常に最新の情報が届くとは限らないのだ。君の指摘はその分ありがたい」
無知を指摘されたというよりも、知らないことを教えてくれたことへの感謝の気持ちがカールの言葉からは現れていた。
「それで、主力魔甲騎兵の主砲には何を?」
「長砲身化した75ミリ砲。敵の魔甲騎兵のスペックが今は分からないので断言はできません。もしかするともっと大口径、長砲身の砲を積む必要があるかもしれませんから」
「長砲身75ミリ砲か。それならば42口径50ミリ砲より威力がありそうだ」
「ですが、油断は禁物です。まだ敵の側の歩兵魔甲騎兵の重装甲化について分かっていないのですから」
現代の戦争はイタチごっこですとガブリエラは言う。
強力な砲が開発されたと思えば、強力な装甲を持った魔甲騎兵が開発され、強力な走行を持った魔甲騎兵が開発されたと思ったら、強力な方が開発される、と。
「今はこれでいいかもしれませんが、主力魔甲騎兵は技術の進歩に応じて進化させていくべきでしょう。より強力な人工筋肉が開発されれば、それだけ強力な魔王騎兵が開発できるようになるのですから」
ガブリエラはそう述べた。
「そうだ。肝心なのは今の兵器じゃない。歩兵・巡航魔甲騎兵というカテゴリーと概念を押しのけた主力魔甲騎兵という新しいカテゴリーと概念だ」
カールは熱くそう言う。
「実質、重巡航魔甲騎兵と言えるのかもしれないが、歩兵科に配備されている余計な装甲部隊をスマートにできる。魔甲騎兵のファミリー化とでもいうべきか。主力魔甲騎兵と装甲歩兵砲が同じシャーシから作られるならば大量生産が見込める」
これは素晴らしいことだとカールは感嘆した様子だった。
「どうだ。面白い奴だろう? 二等兵にしておくのは持ったない。俺たちふたりで推薦してやって、予備役将校訓練課程を通過したことにしてやれんか?」
「異論はない。彼女の知識はもっと有意義に使われるべきだ。我々が固定観念に縛られていたところを吹き飛ばしてくれる。爆薬のような人材だ。私は賛同しよう」
「よし。決まりだな。これでふたり以上、大佐以上の人間のお墨付きだ。今日から陸軍婦人少尉だ、貴様は」
ミヒャエルがニッと笑ってそういう。
「いいんですか? 私がこれからも役に立つという保障はありませんよ?」
「いいや。間違いなくある。俺は昨日は歩兵・巡航魔甲騎兵のカテゴリーをどうなくすかなど考えてもみなかったが、貴様は今日それをやってのけた」
ミヒャエルが続ける。
「我々軍人は頭が固いとよく言われるがその通りだ。部下の命がかかっているのに軽はずみに新しい手段に切り替えられん。だが、貴様は良くも悪くも無責任でいられる。それが重要なのだ」
「無責任なのがいいところですか……」
「いい意味で無責任なのだ。背負いすぎていない。だから発想が自由だ。その自由さこそが参謀本部、いや共和国陸軍に欠けているものだ」
「はあ……」
ガブリエラはミヒャエルの言わんとするところを完全には分からなかったが、外部の意見があると助かるということだけは分かった。
それならば大学教授や研究者を招き入れればもっと面白い発想が出てくるだろうにと思ったが、身内でないとできない話もあるかとガブリエラは思う。
「ガブリエラ・フォン・ゲーリケ共和国陸軍婦人少尉!」
「は、はい!」
「ここに貴官を少尉に任命する。軍務に励めよ」
そう言ってどこに隠し持っていたやら、共和国陸軍少尉の階級章をミヒャエルがガブリエラに手渡した。
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