第4話 ダンジョンへ!

 その日のお昼。

 わたしとソフィアお姉ちゃんは、リトリアの城壁外に来ていた。


 これから、わたしとお姉ちゃんの冒険者生活が始まる。

 わたしは目の前の石組みの建物を眺めた。


 この地下に、リトリア大廃坑がある。かつて銀鉱山だった場所が打ち捨てられ、そのまま魔族が住み着いた場所だった。

 これが、わたしたちの最初に挑戦するダンジョンになる。


 お姉ちゃんが不安そうに、わたしと遺跡を見比べる


「本当に、私たちで攻略できるのかしら?」


「不安?」


「べ、べつに、そうじゃないけど」


「大丈夫。安心して。お姉ちゃんには、わたしがついているから」


 お姉ちゃんは深呼吸して、そして微笑んだ。


「そうね。リディアがいるんだもの」


「わたしもお姉ちゃんがいるから、安心できるもの」


 これは本心だった。お姉ちゃんが回復役としてわたしを支えてくれるから、ちょっとした怪我は平気だ。


 それに、わたしたちが挑むのは、それほど難易度の高いダンジョンじゃない。

 リトリア大廃坑は、名前のとおり、とても巨大だ。


 下の階へ進めば進むほど、強い魔族が出てくるし、最深部まで進むのは至難の業。

 でも、わたしたちは地下一階を回るだけの予定だ。


 今回はあくまで、お試し。

 簡単なダンジョンでも日々の生活費を稼ぐくらいのことはできる。


 わたしたちは命をかけて冒険者の道を極めたいわけじゃない。

 あくまで、ここで楽しく暮らすための方法なんだ。


 だから、少しずつ挑戦する場所を広げて、お金を稼げるようになっていけばいい。

「行こっか? お姉ちゃん」


 わたしはお姉ちゃんの手を握った。ひんやりと冷たい感触がする。

 

 お姉ちゃんも、少しためらってから、わたしの手を握り返してくれた。


 わたしたちは互いの手を握ったまま、建物の門をくぐった。石組みの建物はまだちゃんとした形をしていて、そこには冒険者たちが何人かいた。


 ここはリトリア近くの主要なダンジョンだから、わたしたち以外にも冒険者は大勢いる。

 みんなわたしたちをじっと見つめている。

 

 わたしたちは新入りだし、10代の少女二人というのは珍しいんだと思う。

 お姉ちゃんが明るい声で言う。


「これだけ他の冒険者がいれば、安心ね。何かあっても助けてくれるかも」


「うーん。魔族が相手なら安心だけれど……」


「どういうこと?」


「冒険者は、男の人が多いでしょ? お姉ちゃんは可愛いから……ちょっかいをかけられたら、嫌だなあって」


 実際、わたしたち少女二人で行動するのはリスクがある。


 与しやすい相手だと思われれば、たとえばダンジョンの中で襲われたりするかもしれない。

 同じ冒険者ギルドに所属しているから、表立っては何かされたりはしないとは思うけれど、冒険者には素行の悪い人間も当然いる。


 あと、お姉ちゃんを口説こうとする人はいると思う。婚約者の王子殿下がいなければ、学園でもお姉ちゃんはかなりモテていたはずだ。


 でも、わたしは、お姉ちゃんを簡単にわたすつもりはなかった。やっと……お姉ちゃんと仲良くなれたんだもの。

 

 どこかの誰かに渡したりなんかしない。お姉ちゃんにふさわしい相手じゃないとダメなんだから。


 わたしがそんなことを考えていると、お姉ちゃんがくすっと笑った。


「安心して。わたしはリディアがいてくれれば、それだけで十分だもの」


「本当に?」


「本当よ」


 お姉ちゃんは優しくそう言った。

 わたしは嬉しくなって、頬が緩む。


 でも、お姉ちゃんが他の誰かと仲良くなったら、わたしは嫉妬してしまうかもしれない。

 

 逆に、わたしが他の誰かと仲良くなったら、お姉ちゃんは嫉妬してくれるかな。

 わたしは、そんなことを考えて、そして、地下一階への階段を降りていく。


 ダンジョンの奥から悲鳴が聞こえたのは、そのときだった。

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