第3話 装備を揃えよう!
「リディアはどう思う? こんな感じでいいのかしら?」
「うん。すごく似合っているよ!」
わたしは、白いローブ姿のお姉ちゃんを見て、思わずにやにやと笑ってしまった。
お姉ちゃんが可愛くて、つい頬が緩んだというわけで。
今、わたしとお姉ちゃんはリトリアの街の魔道具店に来ていた。
いよいよ冒険者として冒険に乗り出すにあたって、装備を買っておく必要がある。
お姉ちゃんは、回復役の魔術師。つまり白魔道士だ。お姉ちゃんは教会の聖女をやっていたぐらい治癒系の魔術は得意で、お姉ちゃんの才能を引き出す装備が必要だった。
それが、今、お姉ちゃんが身につけているローブと装飾品、それに杖だった。
でも、お姉ちゃんは頬を膨らませる。
「わたしが聞きたいのは、似合っているかどうかじゃないの。冒険者としてちゃんと戦えるかどうかの意見を聞いているんだけど?」
「お姉ちゃんがあまりに可愛くて、つい」
「もうっ」
お姉ちゃんが恥ずかしそうにぷいっと横に顔をそむける。
この街に来るまで質素な旅用の服しか用意してこなかった。久々にお姉ちゃんが綺麗な服を着ているところを見て、ついはしゃいでしまった。
お姉ちゃんの着ているローブは、純白の美しい絹で作られていて、襟元や袖とかの部分が澄んだ空のような青色に染められている。
大きめのフードがついているところも、個人的には可愛いと思う。
胸元には赤い大きなリボンがついていて、これも単なるおしゃれじゃなくて、魔力を効率的に魔法へと変換するための魔道具だ。
杖も、赤い魔石を核にして、楡の木で作った良い品だ。杖の先端に魔石はついていて、まるで赤い宝石みたいだ。
茶色の靴は、足場の悪いダンジョンでも歩きやすいもの。シンプルながら機能的な美しさがある。
うん。完璧完璧。
白魔道士として戦うという意味でも、お姉ちゃんが可愛く見えるという意味でも。
「ばっちりだと思うな。あとは……翡翠の耳飾りもつけてあげる」
「ちょ、ちょっと……待って」
「ダメ? 可愛いと思うんだけど。あ、ちゃんと白魔術にも役立つよ?」
「そうじゃなくて! わ、私ばかりお金をかけるより、あなたにもお金をかけたほうがいいと思うんだけれど……」
わたしたちのお金も、それほど多いわけじゃない。冒険者として活動を始めれば、増えていくとは思うのだけれど、現状では買えるものにかぎりがある。
ただ、わたしはお姉ちゃんに優先してお金を使うべきだと考えていた。
「後衛のお姉ちゃんの方がいい装備を身に着けた方がいいと思うの。魔法は装備に左右されるから」
「そうかしら?」
「それにね、お姉ちゃんは攻撃を受けたときに安全でいないと、わたしを回復させることもできないもの。お姉ちゃんが白魔道士として良い装備を持っているのは、わたしのためでもあるんだよ?」
と言いつつも、実際は、お姉ちゃんになるべく安全でいてほしいからだけど。
本当なら、冒険者だって一人でやりたいぐらいだ。
お姉ちゃんになにかあったら、わたしは後悔しても後悔しきれない。
わたしは魔法剣士として、自分の身は自分で守れるし。
わたしはお店の人に声をかける。
「この翡翠の耳飾りも試してみていいですか?」
「もちろん」
そう言って微笑んだのは、この店の店主のマリナさん。20代後半ぐらいの美人女性だ。短めの茶色の髪を後ろで束ね、店員らしい黒い制服を着ている。
「そうね。他の装備と一緒に買うなら、その耳飾りは、おまけで無料にしてあげるわ」
「え? でも、それは悪い気がします……」
お姉ちゃんが心配そうに言う。わたしも、マリナさんの好意の理由が気になった。
マリナさんはくすっと笑う。
「可愛い女の子冒険者二人なんて珍しいもの。嬉しくなっちゃって。これからもうちの店をひいきにしてね」
「は、はい」
可愛い、と言われてお姉ちゃんは照れたように笑う。
今後も店を利用してほしいから、今回は耳飾りを無料にしてくれるということかな。まあ、わたしはともかく、お姉ちゃんが可愛いというのは、本当のことだし。
冒険者用の魔道具店のお客さんは、男の人が大半だろうし。
わたしは、お姉ちゃんに耳飾りをつけてあげる。耳に穴を通さずに挟んで付け外しができる簡単なものだ。
わたしの手がお姉ちゃんの耳たぶに触れて、お姉ちゃんはくすぐったそうに身をよじる。
「じっとしてて、お姉ちゃん」
「で、でも……」
お姉ちゃんの耳たぶ、柔らかくて気持ちいいな……。
わたしが手で触れていると、お姉ちゃんがわたしを睨む。
「いま、変なことを考えていたでしょ?」
「お姉ちゃんの耳たぶが柔らかくて、触るのが気持ちいいなあって思ってたの」
「は、恥ずかしいからやめてよ……」
「うん。やっぱりすごく似合うね」
わたしは耳飾りをつけ終わり、お姉ちゃんにしばらく見惚れる。
そして、微笑む。
「今度はわたしの耳たぶをさわってもいいよ?」
わたしは冗談で言ったのだけれど、お姉ちゃんはじっとわたしを見つめて、少し頬を赤くすると、わたしの耳に手を伸ばした。
お姉ちゃんのひんやりとした手が、わたしの耳を撫でる。
た、たしかに……ちょっとくすぐったいかも。お姉ちゃんの指先が、わたしの耳の縁を撫でるように、すべっていく。
あ、でも触られるのも、ちょっと心地よいかも……。
お姉ちゃんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「リディアの耳たぶも……柔らかいのね」
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