第51話 リオ視点
兄ちゃんに連れられて、イリス、メイファと一緒に宿屋を出た。
もう夜中だ。
兄ちゃんの背中を追って、夜道を歩いていく。
それにしても兄ちゃん、オレたちをどこに連れていくつもりなんだろう?
まさか、いかがわしいことをするための宿屋とか……。
いやいやいや、あり得ないあり得ない。
何考えてんだオレ。
落ち着け。
変なことを想像したせいで、オレの顔が熱くなってる。
ぶんぶんと首を横に振っていると、メイファがそそっと寄ってきて、耳打ちをした。
「……リオ。……今、いかがわしい想像をしていた」
「──っ!? な、なんでわかるんだよ……!?」
「……にひひ、引っ掛かった。……カマをかけただけ。……リオは意外と、えっち」
「このやろう……! う、うっせーな! ほっとけよ!」
まったく……。
にしてもメイファのやつ、なんでこんなピンポイントなタイミングで、そんなカマかけを……?
そこまで顔に出てたかな、オレ。
で、そんなオレたちのやり取りを、前を歩く兄ちゃんが少しだけ見て、ふっと笑う。
一瞬ドキッとしたけど、小声で話していたから、話の内容は聞こえてないはず……。
ちなみに兄ちゃんは、いつ見てもカッコイイ。
めっちゃイケメンだ。
髪はブラウンで、男性らしく短く整えられている。
瞳も穏やかな色合いの褐色で、その優しい目でいつもオレたちを見守ってくれる。
背はオレから見ると、少し見上げるぐらい。
大人の男性としては普通ぐらいかな。
太りすぎても痩せすぎてもいない、ちょうどいい体型。
体つきは引き締まっていて、ほど良く筋肉もついていて、いかにもプロの勇者──スポーツ選手って感じだ。
歳は見た目だけだと十七歳か十八歳か、そのぐらいに見える。
まさにカッコイイお兄ちゃんって感じの外見。
でもそれは童顔なだけで、本当はもう二十四歳とからしい。
ホントかよって思うけど、でもすごく大人っぽくもあるし、実際そうなんだろう。
あと当たり前だけど、兄ちゃんはすげぇ強い。
オレもだいぶ強くなったと思うけど、兄ちゃんにはまだ全然勝てる気がしない。
アドルフのやつも強かったけど、あいつよりもさらに、兄ちゃんのほうが絶対強い。
大人の勇者だから当たり前かっていうと、そうでもないみたいだ。
兄ちゃんと会ってからの一年間で、魔王ハンターとか村の守り手とかたくさんの大人の勇者に会ったけど、兄ちゃんほど強い勇者は一人もいなかった。
まあ兄ちゃん、いきなり抱きついてきて離さないとか、変なトコもあるけど……。
ていうか、最初に会ったときから、変な人だなって思った。
村の誰からも見捨てられてたオレたちを、なんでか分かんないけど受け入れてくれて、助けてくれて、面倒見てくれて、育ててくれた。
兄ちゃんがいなかったらオレたちどうなっていただろうって思うと、ぞっとする。
オレ一人じゃ絶対、イリスもメイファも守ってやれなかった。
兄ちゃんはオレたちの恩人で、カッコ良くて、ちょっと変だけど──やっぱ大好きだ。
いや、大好きなんて言葉じゃ表せないぐらい感謝しているし、もう兄ちゃんなしの生活なんて考えられないぐらい、オレもうずぶずぶに兄ちゃんにハマっちゃってる。
オレだけじゃない。
イリスやメイファもそうだ。
二人とも兄ちゃんのことが間違いなく大好きだし、むしろ三人の中ではオレが一番、兄ちゃんに惚れるのが遅かったぐらいだ。
で、多分だけど──兄ちゃんもオレたちのこと、好きなんだと思う。
自惚れだと思う?
でもだって、そうじゃないと、あんなに抱き着いてきたり、抱き寄せて頭なでなでしてくれたりするかなって思うし。
でも兄ちゃん大人だから、オレたちのこと子ども扱いするし。
メイファとかすんげーきわどいアタックかけてるけど、はいはい分かった分かったって具合にいなされてるし。
オレたちが兄ちゃんを「好き」なのと、兄ちゃんがオレたちを「好き」なのとでは、きっと「好き」の種類が違うんだと思う。
でもそんなことは分かってて、オレたちはずっと兄ちゃんのことが好きでいる。
兄ちゃん、いつになったらオレたちのこと、対等に見てくれるのかな。
オレたちが、兄ちゃんと同じぐらいに強くなったら、とか……?
それはまだまだ遠いよなぁ。
──なんて思っていたら、いつの間にか目的地に着いたらしい。
オレはその建物を見上げる。
「ここ……今日の大会をやった、競技場?」
「おう。こっちこっち」
「う、うん、兄ちゃん」
なんで競技場……?
イリスとメイファも首を傾げている。
でも兄ちゃんが競技場の中に入っていくから、オレたちもそれを追いかけた。
いかがわしい宿屋とかじゃなかったのは、安心したやら、ちょっと残念やらだけど……。
って待てオレ、なんで残念がってるんだよ!
今の無し、ノーカン!
兄ちゃんとそういうことするの期待したりなんか、全然してねぇし!
してねぇからな!
って、誰に言い訳してるんだオレ……。
だからメイファのやつに、えっちだとか言われるんだよ。
あーもう。
オレが心の中でそんなことをモヤモヤ考えていると──
やがてたどり着いたのは、競技場のグラウンドだった。
兄ちゃんは、そこでオレたちに──
***
リオ、イリス、メイファの三人を連れてやってきた、夜の競技場。
もちろん使用許可はあらかじめ取ってある。
俺はそのグラウンドで、三人の前に立った。
「……お兄さん、ここで何をする気? ……いかがわしいことをするなら、いきなり屋外、しかも三人同時にというのはどうかと思う」
メイファがいつものノリで、いつも通りのことを言ってくる。
その条件じゃなきゃありなのかよ、というツッコミをしたくなるが、そういうことをしていると話が進みそうにないので飲み込むことにした。
代わりに俺は、メイファたち三人に「道具」を渡していく。
それらの道具を見た三人は、一様に首を傾げた。
「先生、これ……今日の最強勇者決定戦で使った、木製の武器と魔道具ですか?」
イリスが聞いてくるので、俺は自らも同じものを装着しながら答える。
この辺の道具も、あらかじめレンタルしておいたのだ。
「おう。全員装着してくれ」
「え、なんでだよ兄ちゃん。今から模擬戦でもするの?」
今度はリオが聞いてくるので、俺は「まあそんなところだ」と言葉を濁しつつ答える。
リオたちは首を傾げながらも、俺の言うとおりに魔道具を装着し、木製の武器を手にした。
俺はリオたちから二十歩ほど離れた場所まで移動する。
三人と対峙するように、教え子たちのほうを向いて立った。
そして俺は、三人に向かって言う。
「卒業試験だ。三人がかりで俺を倒してみろ。ルールは大会のときと一緒──魔道具がノックアウトの警報を鳴らしたら退場だ」
俺の言葉を聞いた三人は、ぽかーんとした顔で突っ立っていた。
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