第44話 決勝戦(2)
ジェイクは開始早々、遠距離からメイファに攻撃魔法を放つ。
「まずはお手並み拝見だ──【
ジェイクが伸ばした左手の前に、三つの火の玉が浮かび上がり、それがすぐさまメイファに向かって発射された。
三条の火炎弾がメイファに向かって殺到する。
「……そんなもの。……【風車】!」
メイファは槍を前面に突き出し、それを瞬時にくるくると高速回転させる。
闘気を帯びて回転する槍は、メイファに迫りくる三つの炎をすべてかき消した。
【風車】は槍を使った防御技だ。
しかし──
防御を終えたメイファの目と鼻の先には、自らが放った魔法を追って駆け寄ってきていたジェイクの姿があった。
「……っ!?」
「ハッ、【
ジェイクの両手が次々と伸び、メイファにつかみかかろうとしてくる。
「……くっ……!」
メイファはそれを、後退しながら最初の一手はどうにかかわし、次の一手も槍で弾いたが、三手目四手目で両の二の腕をつかまれてしまった。
「ひひひっ、捕まえたぁ。──さあどうする、子猫ちゃん」
「……んっ、ぐっ……!」
メイファは力ずくで引きはがそうとするが、腕力はメイファの苦手分野だ。
ジェイクのそれに及ばず、振りほどくことができない。
そうしている間に、ジェイクは長い舌でべろりと舌なめずりをして、メイファに顔を近付けていく。
「ひひひっ。ここまでの戦い、見てたからよぉ? お前って魔法が得意なタイプの勇者なんだろ? 白兵戦が苦手なお前は、こうやってつかまれちまったらどうする? どうしようもねぇよなあ? ……さあお楽しみの時間だ。ひひひひっ」
ジェイクがメイファに迫る。
メイファは為すすべもなく、されるがままに見えたが──
***
一方の“女王”ドロシーと、イリスの対決。
先に動いたのは、ドロシーのほうだ。
「それじゃあ、楽しい舞踏会を始めましょう? ──【
──ボォオオオッ!
ドロシーの左手に、長い炎の鞭が現れる。
彼女は右手には槍を持っているので、これで両手に武器を持った形になった。
イリスはそれを、冷ややかな目で見つめる。
「……“女王”だから鞭? SM趣味? 私、マゾの趣味はないつもりなんだけど」
「大丈夫よぉ? ちゃんとこれから躾けてあげるわぁ。可愛い悲鳴を上げながら、ご主人様、もっと、もっとぉって、懇願するようにしてあ・げ・る☆」
「ふん、付き合い切れない。──【……】」
イリスがぼそっと、小さく魔法を唱えた。
魔法の輝きが、イリスの全身を覆う。
「あらぁ? 何の魔法を使ったのかしれないけど、補助魔法なんて使ってる余裕あるのぉ? 今の隙に、攻撃でもしていたほうがよかったんじゃないのかしら」
「生憎だけど、私は補助魔法が得意なの。得意分野で戦うのは基本だって、先生が教えてくれたから」
「あら、そう。じゃあ──その大好きな先生の教えと一緒に、心中なさいな!」
ドロシーは右手の槍を、イリスに向かって投擲した。
「──っ!」
イリスはそれを見切り、横にステップして回避する。
だが──
「はぁい引っ掛かった。こっちが本命なのよぉ?」
「……っ!?」
一拍だけ遅れて、炎の鞭がイリスに襲い掛かる。
着地前のタイミングを狙われたイリスの体に、炎の鞭が巻き付いた。
「ぐっ……うわぁあああああああっ!」
両腕ごと炎の鞭に巻き込まれたイリスが、天に向かって絶叫するような悲鳴をあげる。
しかしそのイリスの体は、彼女が直前に使った魔法の輝きが膜となり、覆っていた。
我が天使、意外と人が悪いようである。
***
一番の問題は、リオだ。
リオと“剛剣”アドルフは、互いに駆け寄って、目の前まで来ると木剣を打ち合わせていた。
「てぇやあああああああっ!」
「ぬぅっ……!」
──カンッ、カカカカカンッ、ガンッ、ガガンッ!
両者凄まじい速度で剣を振るっていく。
数秒の間に二十合も三十合も打ち合わされるような戦いが始まり、観客席からどよめきの声が上がる。
「お、おい……お前、あれ見えるか……?」
「いや、何となく……? 特に女の子のほう、目で追えねぇよ……速すぎる……」
「女の子のほうが、少し押してる……かな?」
「あ、ああ、多分……だってほら、また一撃入った」
観客たちの言うように、一見ではリオが優勢に見えた。
リオはその圧倒的な敏捷性を活かして右へ左へ跳び回り、四方八方から縦横無尽にアドルフを攻めたてる。
一方のアドルフは棒立ち、かつ防戦一方で、しかもリオの猛攻を完全には防ぎきれずにいた。
ときおり弱い一撃がアドルフの腕やわき腹などにヒットし、わずかなりとダメージを与えていく。
だが──
「ふっ……いいぞ雌犬! 貴様は素晴らしい! 俺が食うに値する強者だ──ふんっ!」
「ぐっ……うぁああああっ!」
アドルフがたった一撃放った横薙ぎの攻撃が、リオの体を、受け止めた木剣ごと数メートル吹き飛ばした。
リオは地面をごろごろと転がるが、途中でアクロバティックに身を翻して立ち上がる。
どうにか姿勢を持ち直したリオは、服の袖で額の汗を拭って、相手の大柄な少年を睨みつける。
「はぁっ、はぁっ……くそっ、強ぇ……! 攻めきれねぇ……!」
「どうした、強き雌犬よ。貴様の強さはこの程度のものではあるまい。もっと抵抗してみせろ」
アドルフはリオに向かって、悠然と歩み寄っていく。
その姿はさながら、すべてを蹂躙しなぎ倒す竜の如しだ。
──“剛剣”アドルフ、“女王”ドロシー、“賢狼”ジェイク。
現在の王都勇者学院で三強と呼ばれるこの三人だが、その実、ほかの二人とこの“剛剣”アドルフとの間には、大きな実力の開きがある。
圧倒的に最強なのは、アドルフただ一人だ。
ほかの二人と並び称されているのは、それ以外の生徒と比べてあの三人のレベルがかけ離れすぎているから、というだけのことにすぎない。
「くそっ──【
リオが苦し紛れに魔法を放つ。
リオの手の前に現れた火の玉が、迫りくるアドルフに向けて発射された。
だが──
「ふんっ……」
三つの火炎弾は、興味なさげに振るわれたアドルフの木剣によって、まとめてかき消されてしまった。
防御技の【ディフレクション】だが、アドルフにとってはほとんど無意識で使っているレベルなんだろう。
「くだらん真似はやめろ、雌犬。貴様の本質は剣だ。雑魚相手ならばそんな小細工も通用するのだろうが──俺相手には無意味だ」
アドルフの歩みは止まらず、ゆっくりとリオに向かって迫ってくる。
リオの額から、一筋の汗が流れ落ちた。
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