第25話 初めての魔王退治(7)
入り口の見張りオークを撃退し、洞窟の中ほどにいたはぐれオークもリオが打ち倒し、快進撃を続けていく三人の少女勇者たち。
彼女らはさらに洞窟を進んでいく。
そして、ついに──
「……いた、ボス。……あれがオークロード」
メイファがいつになく真剣な声色で言う。
リオとイリスも、それぞれの武器を構えてメイファ同様に前方を見すえていた。
そこは洞窟の終点にして、洞窟のほかのどの広間よりも広い大広間だった。
その広間の入り口にリオ、イリス、メイファの三人が立ち、後ろには俺がつく。
一方で、部屋の奥には四体のオークがいた。
オークたちは相変わらずの巨体で、対する少女たちと比べると大人と子供ぐらいのサイズ感なのだが──
その四体のオークのうちの、一体。
大広間の一番奥で不敵に笑っているそのオークこそ、魔王オークロードだった。
体の大きさも造形も、普通のオークと大きく違った部分はない。
だがそいつは、どす黒い瘴気を全身にまとわせていた。
ゆらゆらと揺れる闇の力の波動が、力を誇示するように周囲にまき散らされている。
体の大きさは他の同種モンスターと同じでも、その存在感、威圧感が段違いなのが魔王だ。
その魔王オークロードの姿を見て、三人の天才勇者見習いたちは一様に険しい表情を見せ、額からは汗をたらしていた。
「気を付けろ、イリス、メイファ。あいつ……強い」
「うん、分かってる。ていうか……」
「……ちょっと、無理ゲーの匂いがする。……あいつだけならまだしも、ほかにも三体のオークとか……」
リオ、イリス、メイファの三人は、オークロードの強さを的確に感じ取っているようだった。
勇者の才覚の一つとして、敵の強さを肌感覚で感じ取る能力がある。
優秀な勇者は、対峙しただけで強敵を嗅ぎ分ける。
その三人の感覚が、魔王オークロードを今の自分たち一人ひとりより格上の存在として受け取ったのは、正しい感性だ。
そして俺も、ちょっとこのバランスは無理があるよなぁと思っていた。
メイファの言い方がほぼそのまんま妥当だ。
オークロード単体ならまだしも、それに加えて取り巻きのオークが三体もいるとなると、三人だけで戦うのはあまりにも危険だ。
これはまあ、しょうがないよな。
引率の先生の出番だろう。
俺は三人の横手まで進み出て、教え子たちに伝える。
「ちょっと戦力バランスが悪いから、俺も戦うことにするよ。オーク三体は俺が相手をするから、リオ、イリス、メイファの三人はオークロードな」
「えっ……でもいくら兄ちゃんでも、一人でオーク三体もいっぺんに相手するのはさすがに……」
リオがそんなことを言ってきた。
えー、俺ってその程度だと思われてたのか。
ちょっとショック。
いやまあ、そうなるように力を隠していたからではあるんだが。
俺は隣にいるリオの頭に手を乗せて、わしわしとなでてやる。
「わふっ……な、なんだよ兄ちゃん! ふざけてる場合かよ!」
「いやぁ、リオも一丁前に俺の心配をするようになったかと思ってな。でも俺はお前たちの先生だぞ。お前たちは自分の戦いのことだけ考えていればいい」
「で、でも……!」
それでもリオは、不安そうな顔を俺に向けてくる。
うーん、俺のことが気になって、リオたちが自分の戦いに集中できないのは困るな。
しょうがない、ならこうするか。
「分かった。じゃあリオたちはしばらくそこで待機な」
「へっ……?」
「先に俺の仕事を片付けてくるよ」
「ちょっ……! ちょっと待って、何言って──兄ちゃんってば!」
俺はリオの頭をもう一度わしわしとなでると、彼女たちの前に進み出て、腰の鞘から剣を引き抜いた。
そしてのんびりと、オークたちのほうへ歩いていく。
その俺の姿を見て、オークたちはバカにされたと思ったのかもしれない。
『──グァオォオオオッ!』
魔王オークロードは、俺を指さして配下のオークたちに命令を下したようだ。
『『『──グァルァアアアアアッ!』』』
配下の三体のオークが、棍棒を振り上げて俺に襲い掛かってきた。
オークたちは俺の目の前まで来ると、その棍棒を一斉に振り下ろしてくる。
俺はその場で動かず──
「兄ちゃん!」
「先生!?」
「お兄さん!」
教え子たちの悲鳴が、背中から聞こえてくる。
でも──
──ガギィイイイイイインッ!
三本の巨大棍棒が、俺の頭上で止まった。
俺はその手の一振りの剣で、オークどもの棍棒の一撃をまとめて受け止めていた。
「あんまり、学校の先生をなめるなよ」
俺が持っている剣は現役魔王ハンター時代に入手したまあまあの階級のマジックアイテムで、オークの攻撃程度で折れたりはしない。
そして無論、たかだか三体のオークを相手に、俺自身がパワー負けをするなどということもなく。
ちなみにもちろん、避ければいい話でもあったのだが、このあたりはちょっと強いところを見せてやりたかったパパの親心だ。
「よっ──と」
俺は腕に軽く力を込めて、オークたちの棍棒をまとめて勢いよく押し返した。
どすどすと巨体をよろめかせ、たたらを踏む三体のオーク。
そこに──
「──【疾風剣】」
俺はオークたちのもとに一歩踏み込むと、そこから無差別の連続斬撃をオークたちに叩き込んだ。
トータル十二発の斬撃を瞬間的に打ち込むと、剣を鞘に納める。
一瞬の後、バラバラに刻まれた三体のオークが崩れ落ちていった。
「……ふぅ」
よし、業務完了。
最近まともに実戦してなかったから、軽い運動ぐらいにはなったかな。
そして、それを見た教え子たちは──
「すっげぇ……兄ちゃんすげぇ!」
「先生……カッコイイ……」
「……驚いた。……ただのロリコンのお兄さんじゃ、なかった」
などと、思い思いの感想を口にしていた。
よしよし、もっと尊敬してくれてもいいぞ。
特にメイファな。
だがその一方で──
『──グォルァアアアアアアアッ!』
ついに大ボス──魔王オークロードが、怒りの形相で棍棒を振り上げ、俺に向かって襲い掛かってきた。
その動きは、通常種のオークと比べると遥かに速い。
巨体に似合わぬ猛スピードで突進してくる。
魔王となった個体は、配下を統率する能力を持つほか、攻撃力、防御力、敏捷性、魔力のいずれもが通常種よりも大幅に増大するんだが──
「そう慌てるなって。お前の相手は俺じゃねぇ──よっ」
俺はオークロードが通常のオークの倍速で振り下ろしてくる棍棒を、【パリィ】のスキルを使って剣で受け流すと、オークロードの巨体のどてっ腹に蹴りを叩き込んだ。
『グォオオオオオオッ……!?』
オークロードの巨体は広間の奥のほうへと大きく吹き飛んで、ごろごろと地面を転がった。
ちなみに、派手に吹き飛ぶだけでなるべくダメージはないように蹴っておいたので、このあとの戦闘に大きな影響はないはずだ。
俺は教え子たちのほうへと戻ると、呆然とする三人に手を出させ、ひとりずつに手を合わせていく。
「バトンタッチだ。リオ、イリス、メイファ──行ってこい」
「「「──は、はい!」」」
よし、いい返事だ。
俺は三人の後方のポジションにつくと、腕を組んで戦況を見守るモードに入った。
さ、ここからが本番だぞ。
頑張れ、我が教え子たちよ。
お前たちならやれる。
パパはいつでも応援してるからな。
いや、心の中で応援するだけじゃなく、声に出して応援したほうがいいな。
よし──
「フレーッ、フレーッ、リオ! 頑張れ頑張れイリス! 負けるな負けるなメイファ! わぁあああああっ!」
「……ああいうところがなければ、本当にカッコイイのに。……お兄さんは、いつも締まらない」
メイファが俺を見て、ため息をついていた。
あれれぇ……?
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