第24話 初めての魔王退治(6)
その後も俺は、三人の教え子たちのあとについて洞窟を進んでいく。
するとしばらく進んだところで、メイファがぴくりと反応した。
それとほぼ同時に、俺の【
のしのしと歩く足音に、ふごふごといった鼻息の音。
メイファが俺のほうへと振り返る。
「……お兄さん、聞こえた?」
「ああ。オークだな。数は──おそらくは一体か」
「……だと思う、鼻息が一つしか聞こえない。……まだ少し、距離がある。リオ、イリス、近くまでは、静かに行こう」
メイファの提案に、リオとイリスが顔を見合わせてうなずいた。
三人は、静かに進み始める。
俺も彼女らのあとを、音を立てないようにしてついていった。
やがて大きく曲がりくねった洞窟の先に、広間が見える場所へとたどりつく。
広間には一体のオークがいて、手持ち無沙汰な様子でうろうろとしていた。
オークはこちらの存在には気付いていないようだ。
あれならば、洞窟の入り口にいた見張りのオークと同様、三人の一斉攻撃で片付けられるだろう。
そう思っていたのだが──
「なあ兄ちゃん、頼みがあるんだ」
一度後退して作戦会議をさせようとしたところ、リオが俺のすぐそばまでやってきて、小声で話しかけてきた。
「頼み? なんだ」
「あのさ、兄ちゃん……オレ、あいつと一人で戦ってみたいんだ」
リオはそう言った。
俺は驚いて、聞き返してしまう。
「一人で……? ってことは、イリスやメイファの援護なしに、リオが一対一でオークとやり合うってことか?」
「うん。さっきやってみた感じ多分イケると思ったし、やってみたいんだ。……やっぱり、ダメかな?」
リオは怒られるのを恐れるような、不安そうな目で俺を見つめてくる。
ダメ元で聞いてきた、という様子だ。
うーん……。
実際のところ、俺の判断でもそれはアリなんだよな。
俺の目から見ても、リオの実力ならオークと一対一でやり合っても、分はいいと思う。
それに万一があっても、致命打を受ける前には俺が助けに入れるだろう。
何より、その経験をリオにさせてやりたいという気持ちが、俺の中にふつふつと湧き上がっていた。
本当に危ないなら、本人がやりたいと言っても止めるのが教師の責務だと思うが、今回は俺の判断でも問題ない範囲内だ。
「メイファとイリスは、それでいいのか?」
俺が残り二人の生徒に聞くと、彼女らもまたうなずく。
「……ボクは楽ができるなら、それに越したことはない。……リオが一人でやりたいって言うなら、任せる」
「私もいいですけど……リオ、本当に大丈夫?」
「うん、やれる……と思う。ていうか、やってみたいんだ。──なあ、頼むよ兄ちゃん。やらせてよ、この通り!」
リオはそう言って、ついには俺のことを拝んできた。
よっぽどやってみたいらしい。
ちなみに【
だったら──
「よし分かった、やってみろ。でも危ないと思ったら、すぐに助けに入るからな」
「ホント!? やったあ! 兄ちゃん大好き!」
リオはがばっと、俺に抱きついてきた。
俺は脊椎反射的にリオの背中を抱き寄せて、その少女の頭をなでこなでこする。
「よーしよしよし、リオは可愛いなー」
「えへへー、兄ちゃん大好き~」
お互いにひとしきりそんな動作をしたあたりで──
はて、と気付く。
んん……?
リオって、こんなキャラだっけ?
一方のリオのほうも、はたと何かに気付いたようだ。
慌ててそそくさと俺から離れていく。
「……あー、こほん。……んじゃ、行ってくるな、イリス、メイファ。──あと兄ちゃん、あんまりそうやって、気安くオレに抱きついてくるなよな」
リオは耳まで真っ赤に染めながら、俺のことを指さしてそんなことを言いつつ、剣を抜いて、そのままてってとオークのほうへ向かって走っていった。
んん……?
いや……今のはリオから抱きついてきたような気がするんだが……。
おかしいな、俺の記憶違いかな……。
そんな風に首を傾げる俺のかたわらでは、イリスとメイファのやり取り。
「ねぇメイファ……リオ、どうしたんだろ? 言ってること変だったよね……? ていうか、いつもあんなに素直に先生に懐いてたっけ……?」
「……リオも、複雑で多感なお年頃。……分かってあげよう」
メイファひとりが、うんうんと分かったような顔をしてうなずいていた。
何だか分からないが、複雑で多感なお年頃ならしょうがないな。
──なお結果を言うと、リオはオークを相手に完封勝利した。
持ち前の素早い動きで鈍重なオークを翻弄し、相手がバランスを崩した隙に【二段切り】を叩き込む。
タフなオークはそれだけでは倒れないが、リオはまったく慌てなかった。
ダメージを負ったオークが怒り狂ってぶんぶんと棍棒を振り回してくるところを闘牛士のように華麗にさばいて、さらに二回の【二段切り】をぶち込んだところで、オークはついに倒れて動かなくなった。
ちなみにだが、オークというのは決して弱いモンスターではない。
一般人が戦う場合、武器を持った大の男が数人で束になってかかっても、犠牲者を出さずに勝つのは難しいぐらいの相手だ。
それをリオは、一人で圧倒した。
リオという、まだ子供と呼んでも差し支えないぐらいの少女が、たった一週間の訓練ですでに勇者としての頭角と存在感を現しつつあるのだ。
まったく──何度も言うようだが、末恐ろしいことこの上ない。
なお勝利したリオは、にひっと満足げな笑みを浮かべて俺に向かってVサインを見せてきて、ありていに言ってめちゃくちゃ可愛かった。
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