第11話 捨て猫たちが天才すぎる(2)

「はっ……! い、いかんいかん」


 俺は我を取り戻した。


 あやうく才能に惚れて、リオ一人を愛してしまうところだった。

 教師たるもの、生徒の才能のいかんで愛し方に差別をしてはいけない。


 才能があろうがなかろうが、すべての生徒を全力で育ててやらなければ、教師失格だ。


 俺は反省した。

 ほかの二人の才能がどうあろうと、リオと同じく全力で育ててやるのだと自分の心に刻み込む。


 そしてあらためて、リオ以外の二人の潜在能力も確認することにした。

 俺は各自の記録紙に、落ち着いて、冷静に、目を通していった。



――――――――――――――――――――



リオ

▼能力値

 筋力   :A

 敏捷性  :S

 打たれ強さ:A

 魔力   :C

▼戦闘スキル

 剣    :S

 斧    :A

 槍    :A

 格闘   :A

 弓    :A

▼魔法スキル

 火    :B

 水    :C

 風    :C

 土    :B

 光    :C



――――――――――――――――――――



イリス

▼能力値

 筋力   :B

 敏捷性  :B

 打たれ強さ:B

 魔力   :A

▼戦闘スキル

 剣    :B

 斧    :B

 槍    :B

 格闘   :B

 弓    :A

▼魔法スキル

 火    :B

 水    :S

 風    :B

 土    :S

 光    :S



――――――――――――――――――――



メイファ

▼能力値

 筋力   :C

 敏捷性  :B

 打たれ強さ:C

 魔力   :S

▼戦闘スキル

 剣    :C

 斧    :C

 槍    :A

 格闘   :A

 弓    :C

▼魔法スキル

 火    :S

 水    :A

 風    :S

 土    :A

 光    :A



――――――――――――――――――――



「──ほぎゃあああああああああっ!」


 俺はひっくり返った。

 俺に抱かれていたリオも一緒に床にひっくり返った。


「ぎゃあああああああっ!」


 俺は床の上を転がる。


「うわああああんっ! 何すんだよ兄ちゃあああああん! 痛い痛い痛い痛い! 目が回るぅううううっ……!」


 俺に抱かれているリオも一緒に床の上を転がった。

 俺ともども、頭やら何やらをガンガン床にぶつける。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


「ううっ……何なんだよ……なんでオレがこんな目に……」


 やがて俺の驚きも落ち着き、俺は床の上で転がるのをやめた。

 ちなみに俺の腕の中では、リオが何やら痛々しい様子で涙を流していた。


 ──いやぁ、それにしても驚いた。


 あり得ない。

 マジであり得ない。


 超天才は、リオ一人ではなかったのだ。

 イリス、メイファとも、才能の種類こそ違うものの、リオに匹敵するぐらいのド天才だ。


 中でも、特に分かりやすい才能を持っているのがメイファだ。


 魔力がSランクに、火属性魔法と風属性魔法もともにSランク。

 典型的な攻撃魔法才能型の勇者を、そのままごっそり格上げしたかのような凄まじい資質の持ち主だ。


 肉弾戦闘の資質はさほどではないが、それでも一部戦闘スキルに天才的な適性がある。

 まさに怪物と言って差し支えない。


 これに比べて地味と言えば地味なのがイリスであるが──

 いや、これを地味というのは、何かがものすごく間違っている。


 イリスはあらゆる資質がBランク以上のスーパーオールラウンダー型で、特に突出しているのが魔力のAランクと、弓のAランク。


 それに何より、水属性魔法、土属性魔法、光属性魔法がいずれもSランクという弾けっぷりだ。

 この特性は、治癒魔法や補助魔法などにすさまじい才能を発揮するだろう。


 つまり──


 一言で言って、全員おかしい。

 異常。


 これは何だ、姉妹全員ってことは、生みの親の問題なのか?

 いや、親が優秀な勇者であれば子も優秀な勇者になるという説に対しては、否定的な見解もあったはずだが……。


 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 問題は、今俺の手元に、とんでもないダイヤの原石が三人も転がっているということだ。


 こいつは責任重大だぞ……。

 ていうか、俺がここに赴任してこなかったら、こいつらが発見されないまま、場合によっては飢え死にしていたようなこともありうるってことか?


 ありえねぇ。

 全世界の、全人類の莫大な損失だぞそれ。

 これに関しては、俺を左遷したサイラスよくやったと言わざるを得ない。


 ──と、そんなことを俺が考えていると。


 床の上でリオを抱いて横たわっていた俺を、上からメイファとイリスが覗き込んできた。


「……お兄さん、そのロリコンっぷりは、やりすぎ。……さすがのボクでも、ドン引きする」


「ね、ねぇリオ……大丈夫……?」


「お、オレ……もう……らめぇっ……」


 ふと見ると、俺の腕の中でリオがぐるぐると目を回していた。

 おや……?


「……あとお兄さん、周りを見るといい。……そして絶望して」


「んん……?」


 メイファに言われて、俺はリオを手放して立ち上がり、周囲を見回す。


 勇者ギルドにいるすべての男女が、俺のほうに注目して、ドン引きしている様子だった。


 ちなみに女性魔王ハンターの一人が、壁の端っこでこちらをチラチラと見ながら、通話魔法具に向かって話しかけていた。


「はい、はい……あの、場所は勇者ギルドなんですけど……少女性愛者の男が一人、若い女の子三人を連れて……はい、それで、うち一人の女の子をこの場で手籠めにしようとして……」


「よし──リオ、イリス、メイファ。帰ろう」


 社会的な危険を察知した俺は、三人の教え子を連れてすぐに勇者ギルドを出ようとした。


 でもギルドの職員や魔王ハンターたちに取り押さえられた。

 そのまま縛られて、街の詰め所まで連行させられた。


 三人の教え子たちが呆れながらも証言をしてくれて、俺が詰所から解放されたのは、夕方を過ぎて暗くなり始めた頃のことだった……。

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