第10話 捨て猫たちが天才すぎる(1)
リオ、イリス、メイファの三人の衣服を買い、散髪をして身なりを整えた。
すると予想を超える美少女三姉妹ができあがったわけだが──
俺が今日、三人を街へと連れてきた主目的はそれではなかった。
俺は街の中央通りを、三人の生徒たちを連れて歩きながら、彼女らに伝える。
「さて、村に帰る前に、勇者ギルドに寄っていくぞ」
「……勇者ぎるど? 何それ?」
リオが聞き返してくる。
どうやら初耳らしい。
イリスとメイファの二人も、首を傾げていた。
勇者ギルドとは何か──
口頭で説明をしてもいいんだが、それよりは実際に現地に赴いて、体験したほうが分かりやすいだろうな。
「ま、いいからついて来い。服を買って、散髪代も出してやったんだ。そのぐらいは付き合ってくれてもいいだろ」
「うん。もちろんいいけど……」
リオをはじめ、イリス、メイファとも素直についてくる。
俺は三人を連れて、街のとある一角へと歩を進めた。
やがて俺たちがたどり着いたのは、一軒の建物だ。
看板には「勇者ギルド・リンドバーグ支部」と書かれている。
ちなみにリンドバーグというのは、この街の名称だ。
俺は三人の教え子を連れて、勇者ギルドの扉をくぐっていく。
勇者ギルドの内部は、ちょっとした酒場ぐらいの広さだった。
正面に受付用のカウンターがあり、その向こう側は従業員用の仕事スペース。
その手前側にはフリーの勇者らしき男女が十人ほどいて、それぞれ掲示板を眺めていたり、受付嬢と話していたり、数人で寄り集まって話をしたりしていた。
俺は三人の教え子へと振り返り、説明をする。
「ここは勇者ギルドの支部の一つだ。勇者ギルドってのは全国の街にそれぞれ支部があって、ここではフリーランスの勇者が魔王の情報を得たり、魔王退治の報酬を受け取ったりできるんだ」
フリーランスの勇者というのは、魔王を退治してその報酬で暮らしている者たちのことで、別名「魔王ハンター」とも呼ばれる。
その魔王ハンターが情報源として、また報酬の受取先として利用するのがこの勇者ギルド。
ここで、近隣で最近暴れている魔王の情報を得て、それを退治しに行くわけだ。
勇者が手っ取り早く収入を得ようとしたら、この魔王ハンターをやるのが一番簡単だ。
日雇い感覚で報酬を得られるし、未成年は禁止ということもないので、リオたち三人にも後日やらせてみたいと思っている。
ちなみに、そのリオたち三人はというと──
俺の説明を聞いていたのかいなかったのか、物珍しそうに、あるいはおっかなびっくりといった様子で周囲を見回していた。
その一方で、冒険者ギルド内にいたほかの勇者らしき人々──おそらくは全員魔王ハンターだろう──は、その多くが俺たち四人の姿を見て、呆けたようになっていた。
いや、「俺たち四人の」というよりは「俺以外の三人の」といったほうが正確だろう。
何しろびっくりするほどの美少女が、突然三人もまとめて入ってきたのだ。
俺があいつらの立場でも、絶句すると思う。
そして、やがて我に返った者たちが、こちらをちらちらと見ながらこんなひそひそ話を始めた。
「……おい、あの男、あんな可愛い子ばっかり三人も連れているぞ。何者だ?」
「ロリコンなのは間違いないな……くそっ、ロリハーレムかよ、羨ましい」
「兄貴と妹たちって線は……いや、ないか。全然似てねぇもんな」
「犯罪の匂いがするわね……通報したほうがいいかしら……」
……もとい、どうやら俺も含めて注目の的のようだ。
だがなぜ教師と生徒という関係に見てくれないのか、はなはだ遺憾である。
あと無実なので通報はやめてほしい。
まあ、それはともかく。
今日ここに来たのは、当然だがリオたちの美少女っぷりを見せびらかすためではない。
彼女らの潜在能力を測るためだ。
勇者ギルドの各支部には勇者の潜在力を測るマジックアイテムが常備されていて、魔王ハンターとして登録をすれば、サービスの一環としてそれを使わせてもらえるのだ。
もっともそれなりの規模の勇者学院なら、そうした道具は当然に保持しているものなので、わざわざ勇者ギルドに足を運ぶ必要はないのだが──
あの勇者学院という名のボロ小屋にそんなものがあるわけもなく、こうして外部のサービスを利用するしかない、というのが我々の現状である。
そんなわけで、俺は三人の教え子を連れて受付カウンターに行くと、リオたち三人にギルド登録をさせた。
登録自体は勇者としての才能さえ持っていれば可能で、三人は問題なくクリアした。
その後、今回の目的であった潜在力測定を始める。
台座に置かれたオーブに、リオ、イリス、メイファの三人が順番に手をかざしていく。
それからしばらく待っていると、ギルド職員の女性が三人の潜在力を記した用紙を持ってきて、渡してくれた。
「お待たせしました。こちらが生徒さんたちの潜在力の値になります。……あの、先に言っておきますけど、三人ともとんでもない才能の持ち主ですよ」
職員から三枚の記録紙を渡されるとき、そんなことを言われた。
「マジですか」
「マジマジ、大マジです。ヤバいです。──あちらのテーブルで、生徒さんたちと一緒にご覧になってください。きっと驚きますよ?」
「わかった。ありがとう」
俺は手数料を職員に支払うと、三人を連れて職員に言われたテーブルへと向かった。
ちなみに職員たちのほうからは、こんなささやき声が聞こえてくる。
「……ねぇね、あの人たち、近くの村の勇者学院の先生と、生徒たちなんだって」
「うっそー!? ありえないでしょ。……じゃあ、あのイケメンのお兄さんが先生?」
「そうらしいよ。あとあのお兄さん、勇者学院の教師になる前は魔王ハンターをやっていたんだって。それで名前がブレット・クレイディル」
「えっ……? ブレット・クレイディルって、有名な凄腕魔王ハンターの名前じゃなかったっけ……? 確か何年か前に引退したって聞いたような……」
「うん。騙りかも分からないけど……いずれにしても、あの人たちは絶対何かあるわ。私の勘がそう囁いている」
「そんなの誰の勘だって囁くと思うけど。それにしても……はぁ、私もあの美男美女の間に入り込みたい。そして溶けたい」
「あんたときどき変なこと言うよね……」
女性職員たちの噂話は、俺たちの個人情報が駄々洩れだった。
あとここの勇者ギルド、魔王ハンターたちともども、内緒話の声が大きすぎだろ。
さておき、三人の教え子たちの潜在力確認の時間だ。
俺は彼女らの潜在力が記された記録紙を、テーブルに広げる。
リオ、イリス、メイファの三人が、興味ありげにそれを覗き込んだ。
「なあ兄ちゃん、これって何なの?」
「おう。これはな、リオたちの勇者としての潜在能力を示したものだ」
俺はそう言って、例示としてリオの潜在力が記された記録紙の一項目を指さしてみせる。
ふんふんと言って、リオたちが注目する。
「例えば、この紙に書かれているのがリオの潜在力なんだが、ここに『剣スキル:S』ってあるだろ。これはリオが、剣の才能に著しく秀でていることを──」
…………。
そこまで説明したところで、俺は首を傾げた。
剣スキルの才能が……Sランク……?
マジで?
「ん……? 兄ちゃん、どしたの? ──って、おわっ!?」
──バタバタバタバタッ!
俺は慌ててリオの後ろに回り込み、彼女を抱きかかえるように確保して、その前に置かれたリオの潜在力記録紙に素早く目を通していく。
「ちょっ、ちょちょちょっ、兄ちゃん!? な、何してんだよ……!?」
「ちょっと待て、それどころじゃない! ──なんだこの値は……!?」
「それどころじゃないって、いきなりオレに後ろから抱きついといて、何言ってんだよ!?」
「いいから、ちょっと黙ってろ!」
俺はなんだかうるさいリオを黙らせつつ、各項目に目を落としていく。
驚くべきは、剣スキルのSランクだけじゃなかった。
敏捷性もSランク。
さらに筋力と打たれ強さがAランクで、剣以外の近接戦闘スキルもAランクだ。
魔法方面の才能はさほどではないが、それでも火属性魔法と土属性魔法のBランクは、並みの勇者ならトップクラスの得意分野に該当する評価値だ。
「ありえねぇ……なんだこの才能、天才にもほどがあるぞ……!」
「ありえねぇのは兄ちゃんの行動だよ!」
リオがなぜかうるさいが、それは放っておくとして──
普通、能力面にせよスキル面にせよ、Aランクが一項目でもあれば天才勇者に分類される。
Sランクという才能は、滅多に拝むことのできない、天才の中の天才だけが持つ資質だ。
ところがそんな才能を、複数項目に渡って持っている。
こんな傑出した潜在能力を持った生徒は、これまでの教師生活で見たことがない。
こいつを育てたら、一体どうなる……?
とんでもないことになるぞ……!
俺は抱きかかえていたリオを振り向かせ、その両肩をつかんでがくがくと揺さぶる。
「リオ、お前すげぇよ! ──最高だ!」
そしてリオのことを、正面からぎゅっと抱きしめた。
俺に抱かれたリオは、何やらギャーギャーと叫びながらジタバタとしていたが、やがて──
「うぅ……もうどうにでもして……」
何かを諦めたかのように、るーるーと涙を流してぐったりとするのだった。
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