78話--新たな魔族--


 謎の人を連れて拠点へ戻った。

 変な動きをされてもすぐに対処できるように常に間合いに入れて連行する。

 家に着くと沙耶が私の方を見て言った。

 

「あ、私たちを監視してた不届き者じゃん。流石お姉ちゃん、捕まえて来てくれたんだね」

「知ってたんだ。ここに来た時からずっと敵意を含んだ不快な魔力垂れ流してたからさ」

「妙に素早いし、うち等はココを離れられないんで泳がしてたんすよね」


 なるほど。

 攻撃するだけならまだしも捕まえるとなると少し面倒かもしれない。


「どうする? これ。煮る? 焼く? 刻む?」

「……このパワードスーツには私の生命反応を常に組織に送っているわ。私が死んだらこの地域は危険とみなされて全力で潰しに来るでしょうね」

「冗談だよ。そんなに警戒しなくても……」

「お姉ちゃんの冗談は分かりにくいんだよ、真顔で言うし」


 殺伐としないように適当に言った冗談だったのだが余計に警戒させてしまったようだ。

 魔界では流血沙汰が日常茶飯事だったので気が付かない間に染まって……?

 少しの間、発言には気を付けないといけないな。

 

「それで、私をココに連れてきて一体どうするつもり?」

「――沙耶。後は任せた。カレン、その人が不審な動きをしたら動けないようにしちゃっていいや」

「ん、承知」


 七海と沙耶と小森ちゃんが小声で話しているのが聞こえて来た。


「絶対何も考えてないっすよ」

「だよね、分かってそうな顔してるけど……」

「虫捕まえて見せびらかす猫みたいですね」


 散々な言われようだった。

 肩を落として外に出る。地面に落ちている石を6つ拾って投げ、飛んでいるドローンのようなものを撃ち落とす。

 かなりの高さで滞空していたので誰も気が付かなかったようだ。

 

 撃ち落としたドローンをキャッチする。何やら側面にマークがある。

 ……どこかで見たことのあるような、無いような。

 とりあえずドローンを持ったまま家の中に戻る。

 

「……お姉ちゃん、今度は何を持ってきたの?」

「飛んでたから落とした外に後5機転がってるよ」

「ぜっ……!?」


 パワードスーツの人……クリスさんが何か反応した。

 つまりこのマークが分かればどこの手先か分かるって事か。

 

「みんな、側面にあるマークに見覚えは無い?」

「うーん……初めて見たなぁ」

「ウチも知らないっすね」

「私も分かりません……銃がフラスコ?の中に入っているようにも見えますが……」


 どこかで見たことあるんだけど……多分回帰する前の事だから記憶が薄れてて……。


「あ、思い出した。『秘密の錬金術師たちシークレット・アルケミスト』だ」

「どうして組織名をっ!?」


 大きなリアクションを取ってくれた。間違いないようだ。

 『秘密の錬金術師たち』は回帰前の世界でいち早く魔石を利用した技術を発展させてモンスターに溢れた世界で確固たる地位を築いていた組織だ。

 回帰前は表舞台に出てきたのは10数年後とかだったような気がしたけど……この時期にはもう暗躍してたのかぁ。

 

「『銀の聖女』……何故我々の組織名を知っている? 返答次第では……」

「どうするの? そういうセリフは相手が自分より弱い時に使うんだよ?」


 クリスさんが唸り声を上げて黙った。

 意味のない脅しや押し問答に付き合う義理は無い。

 私としては組織が持っている技術が広まって命の危険に脅かされずに生きていける世界が訪れるならそれでいいのだ。

 険悪な雰囲気が漂う中、カレンが欠伸をして言葉を発した。

 

「ん。これ、中に魔法陣刻んである。認識阻害と座標送信……音の通達と魔法陣が外気に触れると反応して爆発するやつ」


 ドローンを真っ二つにして中を見ていたカレンがそう言った。

 何やら怪しげな光を放ち始めたドローン。もしかしなくても爆発する前兆だろう。

 カレンからドローンを奪い取って粉微塵に斬り刻む。

 設置型の魔法陣は発動できる最低の大きさが決まっているので刻めば発動しない。これも魔界で知ったことの1つだ。

 

「おぉ~……流石あーちゃん」

「爆発するならもっと早く教えてよ……危ないじゃん……」

「ん。善処する」


 絶対やらないやつだ。ここ最近のカレンは変な言い回しを覚えたのか、善処するだの前向きに検討するだの真顔で笑いながら言う。

 粉になったドローンを小森ちゃんが箒とちり取りで回収してごみ箱に捨ててくれた。ありがとう。

 

「ん、でも分かった。この魔法陣書いたのは魔族。一人、心当たりある」

「……へぇ」

「姉上。王位に興味を示さず、魔法とスキル、魔法陣の研究に没頭して行方知れずになってた変人」


 そういえばカレンは第二王女だったっけ……。

 カレンを以てして変人と言わせるのであれば相当な人なのだろう。

 

「悪いけど……敵に回りそうなら躊躇なく斬るよ?」

「ん。大丈夫。姉上は臆病で根暗だけど家族思い。私の居る方側に着いてくれるはず……ダメだったらあーちゃんを餌に釣る」

「おい」


 とりあえず、分かっていなかった技術の出所が判明した。

 魔界からの技術ならば魔石の扱いに納得できる。

 聞きたいことはカレンから聞けそうだしクリスさんは釈放しよう。


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