76話--空白の穴埋め--
モンスターの殲滅を終えて一息つく。生きているモンスターの気配はない。
壁の上から指示が飛んでいる。
「戦闘員! 非戦闘員は全員集合! モンスターの解体と魔石の取り出し!!」
「「「「はいっ!」」」」
あくびをしながら指示を出している者のところへ行く。
私と同じ銀髪。間違いなく沙耶だろう。
近づいていく私に駆け寄って飛びついた。
「お姉ちゃん!!!」
「ごめんね、遅くなって。ただいま」
「お゛が゛え゛り゛!!」
涙と鼻水で顔が酷いことになっている。
そのまま抱きかかえて胸に顔を埋めさせる。
「積もる話もあるだろうから落ち着いて話せるところに行こうか」
「そうっすね~。沙耶ちゃんがどれだけ絶望してたか話せる時がやっと来たっす!」
他愛のない話をしながら沙耶たちが拠点としている家に着いた。
うん、母さんの住んでいる家の隣だ。
更地だったような記憶があるけど、自分たちで建てたのだろうか。よく見ると外壁にモンスターの素材が使われている。
中に入ると生活感があった。3人でちゃんと暮らしていたようだ。
「で、私から質問させて? 私が居なくなってから5年で何があったの? 東京は壊滅してるしそこら辺にモンスターが闊歩してるし……」
「ウチが説明するっす。あれは――」
七海が説明をしてくれた。
私が居なくなってから1年間ぐらいはメディアが凄い騒ぎ立ててたそうだ。失踪した聖女とか『銀の聖女』崩壊、だとか。
言いたい放題言っていたらしく沙耶が腹を立ててメディアに圧力をかけて少しばかり沈静化したそうだ。
結構荒れていたそうで、炎球を展開しながらテレビ局に殴り込みに行ったりなど面白おかしく七海が話していた。
全て事実なのだろう。
沙耶が顔を真っ赤にして震えている。
そして、私が居なくなってから2年後。超大規模のダンジョンが東京上空に出現した。その当時、3人は長野に居たらしく実際のものは見ていないが誰も攻略に行かなかったせいでブレイクしたそうだ。
そうすると中からは炎を吐く竜と亀のような巨大な竜が出現した。多分、火竜と土竜だろう。
問題はそれだけじゃなかった。世界中で協力すべきなのにダンジョンの資源をめぐって戦争が起きたのだ。
魔石から抽出できる魔力が他のエネルギーと互換があることに好戦的な国が気づいたのだろう。
ただでさえ火竜と土竜で東京が壊滅し、機能が麻痺した日本は戦火の渦に巻き込まれて荒廃していった。
それでもダンジョンは出現するためモンスターが溢れ返る。そのモンスターの魔石などを求めて他国が手を出そうとしてきている……というのが現状らしい。
「なるほどね……。それで、3人はここを守ってくれてたんだね」
「そうっす。今日で死ぬと思ったっす。先輩は相変わらず化け物で安心したっすよ」
「……帰ってくるのが遅かったのは反省してるって。私だって色々あったんだからさ……」
次は私が話す番だ。
魔界であったことを話して強くなったこと。次期魔王になったこと……納得はしてないけど。
「大変だったんですね……。私だったら毎日戦うなんて耐えられません……」
「相変わらず小森ちゃんは優しいねぇ……」
共感してくれた小森ちゃんの頭を撫でる。
……もう、ちゃん付けで呼ぶような歳ではないような気もするけど馴染んでしまってるので変えるつもりはない。
「あのっ、その辺で……沙耶ちゃんの顔が、凄いことになってるので……」
私の右腕にずっと引っ付いていた沙耶が眉間に皺を寄せて小森ちゃんを睨んでいた。
撫でるのを止めて沙耶の眉間を突く。すると、笑顔に戻って私の腕に頬刷りを再開した。
「先輩はちゃんと姉として沙耶ちゃんの責任を取ってあげて欲しいっすね」
「うんうん。今日は沙耶ちゃんに譲ろう?」
「ん。じゃあ2人は私と……」
「カレンちゃんも好き者っすね? 見た目も出会った時から変わってないじゃないっすか」
カレンが七海と小森ちゃんの腕を引いて奥の部屋へと消えていった。
その部屋のドアには『七海の部屋』と書かれてあった。カレンの事だから積もる話をするわけではないだろう。
沙耶が私の方をじっと見て言った。
「お姉ちゃん、私の部屋に行こ?」
「……うん。分かったよ」
沙耶の部屋に入るとベッドと机と収納しかなかった。
腕を引かれて一緒にベッドに座る。
少し間が空いて沙耶が私を押して倒した。抵抗せずに倒れると沙耶が私の胸に耳を当てた。
「私ね、ずっと待ってたんだよ? お姉ちゃんが入ったゲートが閉じたとき、この世の終わりだと思った。何度も何度も夢に出て来た。その度に胸が締め付けられて苦しいし、悲しかった。でも、信じて待ち続けたんだよ? 帰ってくるって……」
「ごめんね」
謝ることしかできなかった。沙耶たちを置いて行ってしまったことは事実だから否定もせず、ただただ沙耶の頭と背中を撫で続けた。
沙耶が私に覆いかぶさるように動いた。
「だから、お願い。本当に帰って来たんだって、お姉ちゃんがここに居るって私に感じさせてほしい」
そう言って沙耶は私の口へとゆっくり顔を落とした。
……あまり、したくはないけど沙耶がそう望んでるんだ。今日ぐらいは応えてあげよう。
2人で服を脱ぎ、布団に包まった――。
その行為は明け方まで続いた。
沙耶も私もお互いに疲れ果てて動きが止まる。沙耶の方は息も絶え絶えで腰に手を回すとビクンと撥ねた。
「……お姉ちゃん。なんか上手くなってない? なんかむかつくんだけど」
「そりゃ、訓練と称してカレンとカレンの母さんに仕込まれたからね……」
「はぁっ!? 親子丼???」
王になるには夜の王にもならないといけない。とか言って無理やり、だ。
カレンの母さん曰くセンスがあるそうで今やカレンですら手玉にとれる。
かりかりとしている沙耶を抱き寄せると文句を垂れていた沙耶は大人しくなって私の胸に顔を埋めた。
「……許したわけじゃないからね」
「はいはい。分かってるよ」
そう言う沙耶もまた沙耶らしい。
心地よい疲労感と安心感と共に眠気がやってきたので抗わずに眠ろう。
沙耶の頭に手を当ててそのまま眠りについた。
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