3章

74話--再会--


「離してよ七海さん!! あの中に、あの中にお姉ちゃんが!!」

「嫌っす。言っても無駄死にするだけっす。ウチは自殺しようとしている人を止めないほど薄情な人間じゃないっす」


 お姉ちゃんとカレンさんが入っていったゲートが閉じてしまった。

 私はその場に崩れ落ちた。

 

「どうして、どうして止めたの……?」

「先輩なら帰ってくるって信じてるからっす。帰ってくるための可能性を上げるために足手まといの沙耶ちゃんを行かせる訳には――」

「……もういい。小森さん、運転できるよね? 車で私のお母さんの所に行ってほしい」

「何かあったら頼るように言われてましたもんね……準備して、行きますか」


 ――あぁ、いつも、ここまでなんだ。

 何度も、何度も何度も体験した私の悪夢。お姉ちゃんの入ったゲートが閉じて、私が泣き崩れる。

 いつ見ても、嫌な気分になる。

 

 目が、開いた。

 仮眠室から出ると七海さんが壁に寄りかかっていた。

 

「うなされてたっす。また、見てたんすか?」

「私がお姉ちゃんを忘れるわけないじゃん。帰ってくるまで何千回でも見るよ」

「愛が重いっすねぇ……あ、小森ちゃんが重いってわけじゃないっすよ?」

「七海さん、冗談は程々にしましょう?」


 笑って小森さんが七海さんに圧を掛ける。

 私たち3人はいつもと変わらない空気を笑いあった。

 この現状は、嫌いだ。常に薄氷の上で誰かが壊れてしまったら皆も落ちてしまいそうな地に足が着いていない状況。

 

「沙耶隊長、そろそろ配給の時間です」

「わかった。整列させておいて」


 お姉ちゃんが居なくなって5年で世界は変わり果ててしまった。

 大規模なダンジョンブレイクが発生し、世界中にモンスターが溢れかえってしまった。

 東京に火を吐く竜が出現し、日本の都市機構は壊滅した。

 既存の兵器は通用せず逃げることしかできなかった。

 

 まるで、こうなることを予測していたかのように食料を買い集めていたおかげかお母さんの居る長野で拠点を構えている。


「沙耶ちゃん、そろそろ……米が尽きるっす」

「今年の冬は厳しそうだね」

「外に居るモンスターさえ駆逐できれば畑を広げられるんですけどね……」


 モンスターが溢れかえったことでダンジョンに到達するまでにハンターが消耗してダンジョンを攻略できなくなる負のスパイラルから抜け出せていない。

 私たちはこの拠点の防衛戦力だから攻略に行くわけにはいかない。

 稲作などをしようとしてもモンスターに荒らされてまともにできない。

 苦虫を嚙み潰したような顔で配給をしていると見張り台から鐘の音が響き渡った。

 

「敵襲! 敵襲!! 正面から……20万を超えるモンスターです!」

「総力戦だね。七海さん、小森さん。死ぬにはいい日だよ」

「嫌っすね、今日も生き延びてうまい飯を食うんすよ」

「同感です!」


 円状に張り巡らされている拠点の壁に対してモンスターたちは正門から半円を描くように囲もうとしている。

 七海さんと小森さんに左側を頼んで私は正面。右側は私たち以外の戦闘員で対処……。

 これが最善かどうかなんて私には分からない。

 

「今日の私は夢見が悪かったんだよね、八つ当たりさせてもらうね」


 モンスターたちに最大出力の魔法を放つ、が大群に当たる前に飛んできた魔法で打ち消されてしまった。

 あれは……指揮個体か。ダンジョンで言うボスに該当するモンスターだ。

 

「指揮個体だけでざっと一万は居るんじゃないっすかね……?」

「しんどいなぁ」


 囲まれたらお終いなのでどうにかしないといけない。

 七海さんはうまい具合にモンスターたちを抑え込んでいるようだけれど……右側が心配。


「戦況共有!!」

「左! 問題なしっす!」

「中央、問題なし!」

「右――押されています!! 増援を――」


 増援は、居ない。

 全戦力なんだ、私も七海さんも持ち場を離れられない。

 どうすれば……。

 頭を悩ませていると右の方から人が走ってきた。

 

「【魔法】持ちが負傷。口頭伝達失礼します! 右軍壊滅寸前に謎の人物が押し出ていたモンスターを瞬殺……そのまま笑って大群に突っ込んでいきました」

「……あのね、私は夢物語を聞きたい訳じゃないの。その人物の特徴は?」

「隊長と同じ銀色の髪でした……鍔の無い剣を持っていて、申し訳ございません。一瞬だったもので曖昧です」

「わかった。持ち場に戻って」


 モンスターの大群の方に目を向けると確かに誰かがモンスターを蹂躙している。

 お姉ちゃんが居なくなってから偽物は嫌と言うほど見てきた。どうせあれも『銀の聖女』の名前が欲しいだけの偽物だろう。

 いや、でも……少しだけ、少しだけ試してみよう。

 

「【炎球】」


 数千の炎球を出して蹂躙している者へと射出する。

 モンスターに当たり、色々なところに着弾する炎球。そのうちのいくつかが蹂躙している者へ当たりそうになった。

 そのまま当たると思っていたら炎球が剣の軌跡通りに誘導されたかのように動いた。

 この技……!!

 

「遅すぎるんだよ……全く……」


 溢れ出る涙を拭って七海さんたちの方に視線を向ける。

 2人は既に気が付いているみたいで鼻を啜っていた。

 

「さて、5年も待たせたお姉ちゃんに私たちの成長を見せてあげよう!」

「うっす!!」

「やったりましょう!」


 これまでの鬱憤を晴らすかのように大規模な攻撃を放つ。

 お姉ちゃんが居るのもお構いなしに。

 

「【身体強化】【魔力強化】【全体強化】」

「【炎球】【炎槍】【大炎球】」

「【矢の雨】【矢増殖】」

「【血槍】【血の雨】」


 当たり前かのように混ざっているカレンさんには突っ込まないでおこう。

 モンスターの方からお姉ちゃんの叫び声が聞こえてきた。ざまぁみろ、お帰りお姉ちゃん。

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