73話--帰還--
カレンに抱えられたまま入った部屋は天幕のついたベッドや高級そうな家具がたくさん置いてあった。
私が買った家のリビングよりも広い。改めてカレンが王女であることを思い知らされた。
「大丈夫? これ、他3竜の魔石」
「ありがとう……これを……どうすればいいんだろう?」
手で掴んでも何の反応もない。
口に含んでみるか……? 口にいれた瞬間、魔石が液状になった。
うん、いつもと一緒か。でも、30分以上立ってるよな……?
『回答します。該当の3種の魔石は取り出されてから時間が凍結されていました』
良く分からないけど、次元の袋みたいな感じで時間が止まっていたのかな。
立て続けに3つ全部取り込んでしまおう。
3つ目が終わった瞬間、魔力が暴れだした。
滝から降り注ぐ水をバケツで受け止めているような感覚に襲われた。冷汗が止まらない。
「あーちゃん、落ち着いて。辛いけど、魔力が漏れないようにあーちゃんの体に結界を張るね」
カレンが背中に手を当てた瞬間、辛さが増した。
初めて魔力を循環させた時以上の不快感と苦痛に顔を顰めた。
背中に、もう一つ手が添えられた。カレンの母さんのようだ。
「体に流れる魔力を全て循環させて自分のモノにしなさい。そうじゃないとあの人には勝てないわよ」
言われるがままに魔力を循環させる。
塞がっていた部分が押し広げられていく苦痛……だが、こんなものは大切なものを守るためなら屁でもない。
己の限界を超えるんだ。
三日三晩かかった魔力の循環は大成功で終わった。
魔力を余すことなく全て取り込むことができ、充足感が体を支配していた。
「うん、流石【器】持ちね。出力の制御と細かいコントロールは後日教えるわぁ」
「恩に着ます。カレンの母さん」
「あらぁ、お義母さんでいいのよ?」
「お母さん!!!」
カレンが顔を真っ赤にして怒った。カレンの母さんは笑いながら部屋を後にした。
私の手をカレンが握って前に座った。
「あーちゃん。焦る気持ちは分かる。でも、急に強くなれるわけじゃない」
「……しみじみと思い知ったよ。井の中の蛙だったんだってね。あれは、私の完敗だ」
自然と肩が落ちる。自分で言っておきながらショックを受けるんじゃないよ……。
ただ、考える時間は十分にあった。魔力の循環をしながら【全知】と問答をしていた。
私のスキルと【器】について。
扱い切れていないそうで、問答している間も神々が様々な反応をしていた。
良かった。私にはまだ伸びしろがある。
「ん。元気、だそ?」
「あぁ、うん。もう大丈夫だよ」
心配そうに顔を覗き込んできたカレンを抱き寄せる。
すると、そのまま押し倒された。
「……カレン?」
「あーちゃん、ここ私の部屋。そしてベッドの上……据え膳食わぬは私の恥」
「変な言葉ばっかり覚えてるんだから……。今回だけ、だからね」
魔界に来て13日間。生きた心地がしなかった。
死を恐れず生をかなぐり捨てて戦い続けた10日間。苦痛と不快感に襲われ続けた3日間。私の中で糧になっていることは確かだけれど、自分が生きている実感が欲しかった。
そして私は――カレンに体を預けた。
それから色々とあって魔界に来てから5年の月日が流れた。
最初の1年はカレンとしか戦っていない。急に体の力の出力が変わってしまったのでそれの調整をしつつカレンの父さんの戦い方を聞いたりしていた。
その後、4年間毎日カレンの父さんに挑み続けた。結果は――1万2376戦、1万2375敗、1勝。
ついに今日、勝つことができた。
剣を突き付ける私と膝をついているカレンの父さん。
この光景だけでもどちらが勝者か分かる。
「儂が、負けた……」
「やっと勝てた。私を元の世界に帰して」
「カレン!! お前の婿を認めよう。そして、儂は王座を退く」
「は? 話が見えてこないんだけど」
「何を言うか。王位継承権1位のカレンと婚約し、現王座の儂を退けた。この国伝統の王座変動の決闘ではないか」
何も聞いていない。
カレンの方を見ると吹けていない口笛を吹いて知らん顔をしていた。
一瞬で距離を詰めてカレンに言い寄る。
「カレン? 私は知らないんだけど」
「あーちゃん……無知は罪だよ?」
「よくそんな難しい言葉まで覚えてるね……」
満面の笑みを浮かべるカレンの父さんと母さん。
完全に仕組まれている事だったようだ。
カレンの頭をくしゃくしゃに撫で回して2人に向き直る。
「王だのなんだのは勝手にして。ただ、魔界に居るわけにはいかない。私は――」
「知っておる。帰る、のだろう? 全てが終わったら一度、魔界に来い。その時に王位を正式に継承する」
「……わかった」
このぐらいは譲歩しないと駄目だ。駄々を捏ねられてやっぱり帰さないってなったらしんどいのは私の方だ。
また戦いで決める羽目になってしまう。
「うむ、ではゲートを開こう……」
「ありがとう」
「そうだ。闇竜と同じく火竜と土竜がアラミスリドの手に落ちておる。殺して【器】に力を取り込むとよい」
厄介なことを押し付けられたように思えたけど、【器】の残りの火竜と土竜なら歓迎だ。倒して魔石を取り込めば完成する。
「ん、またねー」
「じゃあね、お義父さん、お義母さん」
そうして私とカレンはゲートの中に入った。
入ってきた方向とは反対側から光が差し込んでいる。自然と逸る。駆け足で出口から出るとそこは――見渡す限り瓦礫しかない場所だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます