72話--力の差--


 挨拶も一応終わり、玉座のある場所から少し歩いて応接室へと通された。

 その間にカレンと話をしていた。

 

「一国の王が土下座なんかして大丈夫だったの?」

「ん。ここは魔界。強ければなんでもいい。お父さんは一番強い……だからすごい我儘」

「前にも言ってたね……力が全ての場所か……」


 私としては事情を話してすぐに帰るつもりだったんだけど……ゲートが閉じられてしまった。

 頭を悩ませていると応接室にカレンの父さんと美人なお姉さんが入ってきた。

 

「あ、お母さんも来たんだ。やっほー」

「へぇ……その子がカレンの恋人ねぇ……いいわぁ、合格よ」

「なんかすごい見られてる気がする……」


 全身を舐め回すかのような視線に耐えているとカレンが両手を挙げて喜びを顕わにした。

 合格、ということは私を品定めしていたのだろうか。

 

「ん、後はお父さんだけ」

「嫌だ。儂は認めんぞ」

「頑固、ケチ」


 カレンとカレンの父さんの間で火花が散る。言い争いに発展していてその中に私を元の世界に帰す話も出ていた。

 どの世界でも娘を思う親は頑固なのだなぁ、と思いながら眺めているとカレンの父さんが私を指さして言った。

 

「ふむ……カレンよ。何故、儂が強さに上限のある下等生物のいう事なんぞ聞かなければならないのだ?」

「お父さん、聞いて。あーちゃんは【器】持ち」

「……そうか。そういう事だったのか。いつまで経っても古代竜が復活しない訳だ」


 一体どういう事だろう、と首を傾げているとカレンが説明をしてくれた。


「7体の竜の魔石は全世界で1つずつしか存在できない。あーちゃんが古代竜の魔石を持っていたせいで古代竜は既に存在している事になっていて、いつもの場所に復活しなかった」

「うむ。【器】だけなら貴様を殺して魔石を取り出せばよかったのだが……【闇】も持っているな?」


 小さく頷いた。

 相槌も打とうとしていたがカレンの父さんから出ている威圧感でうまく声が出なかった。

 

「……既に併合された【器】は取り出せん。アラミスリドの裏に居る神を殺すには完成された【器】の力が必要不可欠。光竜、風竜、水竜の魔石は儂が持っている。後は分かるな?」

「私を、【器】として使う。と?」

「その通りだ。貴様から儂の嫌いな神の匂いがするのは目を瞑っておいてやる。今から1つだけ質問を許可してやる」

『全能の神が不遜な魔王に両手の中指を立てています』


 いつもの青い画面は消して、少し考えを整理しないといけない。

 光竜、風竜、水竜の魔石の力を【器】に取り込む……。それだけではない。

 私は早く帰らないといけない。沙耶たちを心配させたくないし。

 

「私はいつになったら元の世界に帰れる?」

「帰すつもりはない。ふむ……貴様は帰りたいのか。希望が無いわけではないぞ?」

「……力が全て、か」

「そうだ! 貴様が儂を倒し、何も言えないほど叩きのめせば儂が貴様の言うことを聞いてやろう」


 盛大に笑うカレンの父さん。

 魔界らしい考えだ。力で屈服させる。

 

「貴様は殺さない程度に痛めつけ……鍛えてやる。それで強くなれるかは貴様次第だ」

「お父さん……今、痛めつけるって言おうとしなかった?」


 再びカレンとカレンの父さんの間で火花が散った。

 カレンの父さんが立ち上がって私に着いてくるように言った。

 黙って席を立ち、着いて行く。

 辿り着いた先は訓練場のような場所だった。

 

「儂は貴様を知らん。ゾンビ化した闇竜を屠るほどの実力はある、だが……それしか知らん。そして儂は戦うことでしか相手を理解できん。来い」


 カレンの父さんが大剣を片手で構えて私に向けた。

 私も剣を出して構える。手を立てて私にかかってこい、と招いた。

 最初から、全力で――。

 

 

 

 ……何が起きた? 私は気を、失っていたのか?

 カレンの父さんに斬りかかって大剣で防がれた瞬間、背中に激痛が走って頭を……打ったのか?

 周囲を見ると訓練場の壁際であることが分かった。

 まさか……。

 

「一瞬で壁に叩きつけられたのか」

「ふむ、2秒か。貴様が意識を手放して状況を理解するまでの時間だ。あの程度で死ぬほど弱くはないようだな」


 立ち上がって斬りかかる。

 連撃を与えるけれど全て軽々と防がれた。

 ――強すぎる。私が敵う相手ではないと生存本能が警鐘を鳴らす。

 雄叫びを上げて震える自分の脚を叩く。どの道、倒さないと私は帰れないんだ。帰れないなら……死んでいるも同然だ。

 

「目つきが変わったな。死を恐れぬ目だ。そうだ、儂を倒せ!!」


 周囲から音が消える。心臓が早鐘のように鳴り響いている。

 自然と、笑みがこぼれた。

 今までの自分では考えられないような速度、力が発揮された。無数の斬撃をカレンの父さんに向けて放つ。

 全て弾かれた。接近して斬りかかる……が、一撃も当たらない。

 

 もう、何時間だろう。永遠と思えるほどの時間、斬りかかっていた気がする。

 構えて斬りかかろうとすると誰かに抱き寄せられた。

 

「あーちゃん、そこまで。それ以上はあーちゃんが死んじゃう」

「カ……レン? あれ、私は、何を……?」


 ふ、と我に返る。傷だらけの服に握っている剣に染みついた血。乾いて黒くなっていた。

 体の傷はスキルで治ったのだろう。

 手に、力が入らない。

 

「私はどのぐらい戦ってた?」

「10日……」

「ふむ、貴様の底は見えた。まずは【器】を成熟させ、魔力の使い方をフォルスティアから学べ。魔石の取り込みはカレンに任せよう」


 そう言ってカレンの父さんはマントを翻して私たちに背を向けた。

 悔しいけど、届かない。傷の一つを負わせることすらできなかった。


「カレンの父さん。私は、貴方を必ず倒す」

「――バゼルだ。特別に名を呼ぶことを許可しよう」


 その言葉聞いた後、私はカレンに抱えられて訓練場を後にした。

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