67話--希望と痕跡--
その場で固まってしまったカレンの顔を覗き込んだ。
いつもは見かけることのない呆けたカレンを眺めるいい機会だと言わんばかりに3人も寄ってたかった。
くるっ、とカレンの瞳が私を追うと両手が動き出して頬を押すような形で私の顔を抑えた。
「あーちゃん」
「ふぁい……」
「食べたことは別にいい。何かスキル得た?」
カレンに頬を押されているので口が3のような形になっている。
そのせいでまともに話せない。パクパクと口を動かしていると放してくれた。
カレンの問いに答えよう。
「うん、【闇】と【器】……説明見てもよく分からないんだよね」
「……ありがとう。まだ、希望は繋がってる」
説明を見てもよくわからないというのは【全知】と同じく文字化けしているからだ。
謎が深まるばかりだが特に実害のなさそうなスキルだと信じている。
「あれ? お姉ちゃん、エクステなんていつ着けたの?」
「エクステ……? そんなの着けた覚えないけど」
「じゃあメッシュ? 一束だけ紫になってる」
沙耶が掴んで私に見せた。
後ろ髪の部分なので普段は見えないところだ。確かに紫色になってる。
七海と小森ちゃんが根元を確認したようだが完全に紫だったそうだ。髪を後ろで束ねたりしないと見えない場所なのであまり気にしないでおこう。
「ん。待たせた」
「もう、大丈夫なの?」
「ん……。全部繋がった、けど……あーちゃん、一回だけ私の国に来てほしい」
「行くことができるようになった行くよ? 問題は行く方法だよね……」
カレンの両親に暫く預かっていたことと、カレンの気持ちが変わっていなければこれからもパーティーを組んで私たちの世界で活動していくことを説明したい。
問題はその方法だろう、と顎に手を当てて悩んでいるとカレンが口を開いた。
「ん、大丈夫。お父さん来た」
カレンが指をさした方向を見る。何も見えないが何かが近づいてきている気配は感じる。
少しすると地を這うような低い大きな声が聞こえてきた。
「カレーーーーーーーン!! そこに居るのかーーーーー!!!!」
迷子の子供を探す親のような感じ――いや、文字通りだ。
こういう場合の子供の立場は迷子になった申し訳なさより大声で自身の名前を呼びながら近づいてくる親に対しての恥ずかしさの方が強いんだが……カレンはどうだろう?
私に顔を見せないように見当違いな方向を見ているが耳が真っ赤だった。
ニヤついた表情で覗き込んでいるとカレンがプルプルと震えだした。
「お父さん!! うるさい!!!」
近づいてきているカレンの父さんへとカレンが手を向けて魔法陣を展開した。
真っ黒の槍と赤い槍が大量に飛んで行った。
……カレンなりの愛情表現なのだろうか? かなりの魔力を込めて放ったのか衝撃波が私たちのいるところまで来た。
『ダンジョンエリアに外部より侵入されました。緊急措置として挑戦者をダンジョンから排出します』
アナウンスが頭に響いたと思った次の瞬間、ダンジョンに入った時と同じような浮遊感と共に目を開けると私たちが入ったゲートの前に居た。
ゲートは既に閉じてしまっている。カレンの方を見ると何やら満足そうだ。
「残念じゃなかったの?」
「ん。お父さん、元気そうだった。魔力の痕跡を残せた、そのうち迎え来る」
「なら良かった……? のかな」
カレンが頷いた。私は別の不安が湧いて出てしまった。
果たして見るからに親バカそうなカレンの父さんを説得できるのだろうか……。カレンの国は力が全て、と言っていたので高い確率で戦いになる可能性がある。
今のうちに色々と考えておこう……。
「ん。大丈夫、私はあーちゃんのもの」
「あっ! ずるい! 私だってお姉ちゃんのものだもん!!!」
カレンが右腕を絡めとって言うと対抗して沙耶が左腕を絡めて言った。
何に対抗心を燃やしているのか分からないが流れに乗って七海が飛び掛かってきそうな勢いなので早足で帰路についた。
帰っている途中、道行く人たちが顔を顰めて私たちを見ていた。
「あの、橘さん……わたしたち鼻が慣れてしまって気づいてないんだと思うんですけど、もしかして腐敗臭がすごいんじゃないんですか……?」
「多分、そうだね。よし、全速力で帰ろう」
カレンに小森ちゃんを任せて私は沙耶と七海を小脇に抱えた。
これから何が起きるか理解していない沙耶と七海は首を傾げている。小森ちゃんは察したのかカレンに背負ってもらうようにお願いしていた。
横を見ると準備ができているのかカレンが頷いた。【神速】を使って跳躍してビルの上へと跳んだ。そのまま家の方角へと全力で向かった。
家に帰ることには叫び疲れた沙耶と七海がぐったりとしていた。
庭に着地して優しく地面に2人を置く。動く気配がないので放置しておこう。
それよりも……風呂だ。自動で湯を溜めてくれるボタンを押して寝間着や替えの下着を自室から回収する。そそくさと脱衣所に向かい服を脱いで洗濯カゴに放ると脱衣所のドアが開いた。
カレンと小森ちゃんだ。パンツしか履いていない私と2人の間で少しばかり沈黙が走った。
「……一緒に入る?」
「ん、入る」
「入らせてもらいたいです……」
2人とも自身の汗臭さと腐敗臭に耐えかねているのか服を脱ぎ捨てた。
湯が溜まるまでにシャワーで髪と体を洗ってしまおう――。
『愛の神が腕を組んで頷いています』
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