62話--ゾンビ--
ダンジョンをクリアした後は案の定、相田さんから着信がたくさんあった。
折り返すと表彰式の件ではなく、団体戦が来週になったという連絡だけだった。すっぽかした事を怒っているのではないかと思ったが聞いてみるとそうでもないそうだ。
破壊した分の修繕費を渡したいから見積もりを送ってくれ。と言ったが断られた。相田さんは人が良いのでその辺は気にするなと言うが……。
協会の運営費とかのやりくりも兼任している林さんにコッソリ聞いて送りつけることにしよう。
「わぁ……ネット上すごいね……」
「そうなんだ。そんなことより私と小森ちゃんが動けてないからダンジョンもう1件行こうよ」
沙耶がスマホで大会の事とかを調べているようで感想をくれた。
興味が無いので軽く流して次のダンジョンを予約する。時間も経っているので小森ちゃんも動けるようになっていた。
返答を聞かずに次のダンジョンを予約する。沙耶たちが次のダンジョンは行かないと言っても私一人で攻略は可能なので押し切るつもりだ。
端末で現在地検索をして予約したダンジョンだけど……このダンジョン、失敗歴が3回ある。
「少し警戒しようか。3パーティーが攻略失敗してるみたい」
ダンジョンに入る前に警戒を促す。生きて帰ってきた人が居ないからダンジョンの内容が分からないが……何とかなるだろう。
再度、入る前に全員と顔を合わせる。念には念を入れて武器を出した状態でダンジョンに入った。
中に入ると湿った冷たい空気が鼻についた。
辺りは薄暗く十字の木材が大量に地面に刺さっていた。
そして――恐ろしい程、静かだ。
「あ、お姉ちゃん! あそこに倒れている人が居るよ!」
沙耶が倒れている者を見つけて駆けつけた。
ハンターのようにも見えるが……魔力が視認できない。それが意味することは既に死んでいると言うことだ。
――死んでいる? まさか!!
「沙耶!! そこから離れて!!」
「ほへ?」
大きな声で沙耶にそこから離れるように言ったが、沙耶はその場で私の方へ振り向いた。
その瞬間――倒れている者が起き上がって沙耶へ襲い掛かった。
通常速度じゃ間に合わない。
魔脈を全開にして【神速】を2重で発動する。音を置き去りにし、駆けて沙耶の襟首を掴んで欠伸をしているカレンの方へ投げた。
速度と力を乗せたまま動き出した者――ゾンビの頭へ剣を当てる。
頭が吹き飛んで一瞬だけ動きを止めた。しかし、その後また動き出す。
小さく舌打ちをして細切れにする。ゾンビだったものが私の足元に出来上がった。
投げた沙耶は……無事にカレンにキャッチしてもらったようだ。姫抱きされている。剣に付いた血を振り払いながら皆の元へ戻る。
「沙耶。前に説明したけどダンジョンに入った時点で倒れている者に近づいちゃダメ」
「うん……ごめん、お姉ちゃん。完全に気を抜いてた……ちゃんと気を引き締めるよ」
「まあ、ゾンビが出るダンジョンは今回が初だから次から気を付けてね」
小森ちゃんと七海、沙耶にダンジョンの説明をする。
ゾンビの倒し方と対処法。嚙まれたら隠さずにすぐ解毒薬を飲むこと。回帰前でも何故飲むのかは分からないが飲めば大丈夫ということしか分かっていない。
「ん。ゾンビは死んだときに変質した魔力……死魔力を噛んだ相手に流し込む。通常の魔力と死魔力は相容れない存在で死魔力のほうが優位。蝕むから、体は毒として認識する。だから蝕んでいるものを排除する解毒薬が有用……えっへん」
「知らない知識をありがとう、カレン」
胸を張って褒めてほしそうにしているカレンを抱き寄せて撫でまわす。
死んだときに魔力が変質するのは知らなかった。なぜ動き出すのか、など色々と科学的な側面から解析を……あぁ、ここか。
科学では説明できない部分だから原因が分からなかったのか。
回帰前はダンジョンができてから40年ぐらいだったから、もっと経てば分かっていたのかもしれないなぁ。
「話を戻すよ。今回のダンジョンで私たち以外に動く者が居たら全部敵だと思って動いて。あと、今回のダンジョンはゾンビの変異種……グールもいるから気を付けて」
「つまり……頭を吹き飛ばしただけじゃ安心するなってことっすか?」
「そういうこと。ゾンビは近くにグールが居ると……頭を飛ばすと神経で動いていたのが魔石の魔力で動くようになる。だからできるだけ上半身を消し飛ばして」
「分かったー」
ダンジョンでの作戦会議はこの辺にしよう。
後は陣形だ。地中から急に出てくることもあるし、後ろから急に出てくることもある。
何せ周囲は全部墓だからね。
「先頭は私。後ろに小森ちゃんでその左右に沙耶と七海。殿と後方警戒はカレンでよろしくね」
「ん。任された……あと、あーちゃん。この魔力の感じ……多分居る」
「だろうね……じゃないとダンジョンの難易度に説明がつかない」
カレンが真剣な表情で私に言った。
沙耶と七海と小森ちゃんは分かっていないが沙耶は少しだけ察したのか息を飲んだ。
そう、魔族のことだ。
私たちが入ったダンジョンの大きさと実際の難易度がかけ離れすぎている。
ここ数回、魔族と遭遇した時を思い返すと大体そういう場合は魔族が居た。
――全く、碌なことにならないなぁ。と心の中で悪態を吐く。
遠くに見える建物の方へ歩いていると正面の地面から複数の手が生えた。地面からゾンビが這い出てくる。
「沙耶、炎系の技能は燃えた状態でゾンビが襲い掛かってくるからなるべく使わないように。七海は技能を使って頭を飛ばしてね。当てるだけじゃ死なないから。小森ちゃんは沙耶と七海にフルで技能を使ってあげて」
口早に指令を伝える。
カレンが私は? みたいな顔をしているが放置でも問題はないが……仲間外れのようにしてしまうのは気が引ける。
「カレンはその場で周囲警戒を。3人を守ってね」
「ん。了解」
剣を握り直してゾンビの群れへ駆けると同時に沙耶と七海が技能を放った。
ざっと見ただけで数百は居る。
首を切って胸の中心にある魔石を突きで砕く。流石にゾンビの魔石は食べたくないし拾いたくもないので破壊してしまおう。
ゾンビ映画のようにゆったりと歩いて迫ってくるなら可愛げもあるんだけどなぁ。全力で走ってくる上に生前のスキル、技能まで使えるんだ。ゾンビ化した者によっては自我がある場合すらあるらしい。
無数の魔法技能の気配――。速度を上げて魔法陣を破壊しながらゾンビを切り裂いていく。
魔石が胸の中心にあるなら正中線に沿って縦に真っ二つにすれば一撃だ、ということに今気が付いた。
【八閃花】を魔力でキープして近づいてきたゾンビを刻むようにコントロールする。自分から動かすような複雑な動きはまだできないが、近づいてきたものに振り下ろすだけとかの簡単な動きは慣れてきた。
『技能名:【八閃花】より派生しました。技能名:【八剣】を習得。以降、同様な使い方をする場合は【八閃花】ではなく【八剣】と唱えてください』
『戦の神が笑顔で親指を立てています』
……ありがたい、のか?
得ずして新しい技能を獲得したが、どう違うのか分からない。
今使っているのを消して唱えてみよう。
「【八剣】」
魔力が消費されて剣が出来上がった。なるほど、燃費が良くなっているのと剣が魔力の剣じゃなくなっている。
これは私が手に持っている剣と同じだ。宙に浮いているのは違和感しかないけど……。
コントロールも少し楽になっている。
「とても使いやすい技能をありがとう、戦の神」
『戦の神が歓喜のあまり涙を流しています』
『愛の神が戦の神を恨めしく思っています』
ここぞとばかりに出てくる愛の神。相変わらず暇なのだろう。
気を取り直してゾンビ達に集中しよう。
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