61話--表彰式--※相田視点あり


 控室に戻って腰を下ろした。

 

「この後の予定って聞いてる?」

「何も聞いてないよ~」


 決勝戦が終わった後に何かあるかと思ったが、特に何もないようだ。

 ――いや、確か事前に相田さんから貰ったパンフレットには何かあるような事が書いてあったような気がした。

 まあ、忘れるということは重要なことではないのだろう。

 散らかしたタオルや移動させた椅子を来た時と同じ状態にして控室から出た。

 外に出るとカレンと小森ちゃんが待っていた。

 

「橘さん……!」


 珍しく小森ちゃんが半泣きで飛びついてきた。カレンの子守は荷が重かったのかな……。

 鼻を啜りながら小森ちゃんが私を見上げた。

 

「ごめんなさい、わたしには無理です……」

「カレン、何したの?」


 焼きイカを口に運んでいるカレンに聞いた。

 食べるのを止めて両手でガッツポーズしながら答えた。

 

「ん。出店、全制覇」

「全部わたしの分も買ってくるんです……断るに断れなくって、もうお腹が……」


 気になったので小森ちゃんのお腹に手を伸ばした。確かに食べ過ぎた時のようにお腹が膨れている。

 このまま任せていると多分小森ちゃんが肥えてカレンの餌食となってしまう。

 先ほどからカレンの小森ちゃんを見る目が獲物を見る目つきとなっている。何とかしてあげないと本当に食べられてしまうかもしれない。

 

「そうだ、大会が消化不良だったからこの後みんなでダンジョン行かない?」

「さんせー!」

「ん。私も、消化不良」


 カレンはただの食べ過ぎによる消化不良だろう。

 近場のダンジョンを予約して皆で向かう。ダンジョン内に入って少しすると小森ちゃんが私に言った。

 

「そういえば大会はどうだったんですか?」

「優勝したよ。何もなさそうだから出てきちゃった」

「えっ? 上位3パーティーに入ったら表彰式があるからそれに出るんじゃないんですか?」

「あっ……」


 小森ちゃんに言われて思い出した。そうだ、相田さんから貰ったパンフレットには表彰式って書かれていたんだ。

 もう既にダンジョンに入ってしまったし……まあ、相田さんが何とかしてくれるだろう。

 草原のダンジョンで好きに暴れているカレンと沙耶と七海。後方で私と小森ちゃんがそれを眺めている。

 

「表彰式は別に大丈夫かな。小森ちゃんは動かなくていいの?」

「あ、いえ……わたし今動くと多分全部出てくると言いますか……なんと言いますか……」

「そうだね、食べ過ぎた時は動かないのが一番だよね……」


 自身のお腹をさすりながら頬を掻いた。

 腹が膨れるぐらい食べた後に動き回ったら私でも戻っていく自信がある。

 遠慮なしに暴れる3人を眺めているが好き放題技能を放つ沙耶と七海に対してソレに飛び込んでスレスレのところで避けるカレン。巻き込まれて吹き飛ぶコボルト。

 打ち漏らしが無いのは褒めるべきだろうか……。

 

 

◆~決勝戦終了後の会場~◆※相田視点


 嬢ちゃんたちが優勝するのは分かりきっていたことだが、『開拓者』を赤子の手をひねるように一蹴するとはなぁ……。

 3位決定戦が終わって次は表彰式を終えれば個人戦の部は終了だな。


「しっかし……嬢ちゃんが盛大に破壊してくれたおかげで明日の団体戦は無理だな」

「そうですね、会長。重点的に修理をして最低でも5日はかかりますね」

「開催は来週だな。関係部署に謝罪と根回しを頼んだぞ、林」

「えぇ、その辺はお任せください」


 『銀の聖女』が優勝してくれたおかげで儂らとしてはやりやすくなる。

 嬢ちゃんたちの背後には誰も付いてないないからな……実質協会が後ろ盾という訳だ。まぁ、嬢ちゃんは後ろ盾なんて無くても好き放題やるだろうがな。

 

 会場でスタッフが慌ただしく走り回ってる。何だ? 何か起きたのか?

 

「会長、下から入電です。『銀の聖女』パーティーが居ません……」

「なんだと!? 隈なく探したのか?!」

「えぇ……監視カメラの映像だと、あぁ。これ帰ってますね」

「帰っただとっ!? それは……本当なのか!?」

「間違いありません……あ、近場でダンジョンを予約した履歴ありますね」

「かっかっかっ!! 嬢ちゃんらしいな! こんな大会の表彰式よりダンジョンを優先か!! 林、それをそのまま会場に伝えろ。なぁに、悪いことにはならん」


 嬢ちゃんたちが居なくなったと聞いたときは驚愕したが、まあ良い。

 こういう動きをしてくれた方が『銀の聖女』は権力や名声に興味がない。と知らしめやすい。

 林が会場に伝え終わったのか表彰台の真ん中が不在の状態で表彰式が始まった。会場がどよめいていたがアナウンスが流れると静かになった。林はPCで何かを確認している。

 

「林、何を確認しているんだ?」

「いえ、『銀の聖女』が表彰式を欠席したことで何か不都合が起きてないか確認してたのですが……大丈夫そうですね。むしろ『銀の聖女』に対する好感度が上昇してますね」

「それなら良かった。儂にはネットは使いこなせんからなぁ」


 使いこなせはしないが使う努力はしている。如何せん歳を食うと頭が固くってなぁ……。

 慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 その後、表彰式は無事に終わって大会の個人戦は終わりになった。

 暫くは嬢ちゃんたちの話題で持ち切りだろうな。変な輩が出てこないように林に監視を強化するように伝えておく。

 ハンター全体を守るのが協会の役目だからな。

 

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