58話--決勝戦--
七海の戦いは沙耶よりあっさりと終わってしまった。
妙に張り切っていた七海が全員を秒で倒してしまい、会場が静寂に包まれた。
だけれども、それも最初だけでその後歓声に包まれたので大丈夫だったようだ。
続く3回戦と4回戦は沙耶と七海をエントリーしたが危なげなく勝利した。
決勝は3組でのリーグ形式となっており、2勝したパーティーがこのブロックの優勝となり別ブロックの優勝パーティーと戦うことになる。
「決勝はお姉ちゃんエントリーする?」
「うん。3番目に入っとこうかなって」
「承知っす! 先輩には順番回さないようにウチらで終わらせるっすね!」
いや、そろそろ私も戦いたいのだが――と思ったが沙耶と七海が楽しそうにしているから言うのはやめた。
時間が近くなってきたので会場に移動する。既に入場の口上は行われていたみたいで私たちが入ると盛大に歓声が聞こえた。
ついに私が戦う時が――来るのか……?
来なかった。
1パーティー目は七海が、2パーティー目は沙耶が瞬殺してしまい私の出番はなかった。
私たちのいるブロックは『銀の聖女』が優勝し、別ブロックの優勝パーティーを待つこととなった。
『開拓者』も決勝リーグまで駒を進めているそうで実力は口だけではなさそうだ。
「七海さん、最後はアレしちゃおうか?」
「うっす、承知っす!」
例に漏れず沙耶と七海が何かを企んでいるようだ。会場のベンチで寛いでいると私たちが入ってきた方向とは別のところから6人入ってきた。
『開拓者』だね。会場の興奮が最高潮になっているのか歓声が鳴りやまない。
アナウンスが聞こえてきた。
「それでは! 最強パーティー決定戦、個人部門最後の試合を開始しようと思います! ……が、その前に両者のリーダーに意気込みを聞いていきましょう! 圧倒的な強さでAブロックを蹴散らした『銀の聖女』からどうぞ!」
司会をしていた人が私たちのベンチまで来て私にマイクを渡した。
前も私が発現したら変なことになったのであまりコメントしたくないんだけど……沙耶と七海に助けを求める視線を送ったが黙って首を横に振られた。
助け舟はないようだ。
「えっと、ここまで来れたのはメンバーの沙耶と七海のおかげです。2人が強くって私は戦ってないけど、最後ぐらいは私の出番があるといいなぁ。と思います」
「盛大な煽りありがとうございます!! 『銀の聖女』リーダーと戦いたくば先に2人を倒せってことですね!! ではBブロックを難なく突破した『開拓者』のリーダーからコメントを貰いましょう!」
煽ったつもりはなかったんだけど、と沙耶と七海の方を見ると腹を抱えて笑っていた。
何がおかしいんだろう……。
「お姉ちゃん、自然に煽るよね。その気がないのが本当に面白い」
「えぇ……私としてはありきたりな事と事実しか言ってないんだけど」
「めっちゃ煽り効いてるっすよ! 相手さん顔真っ赤っす!」
七海が笑いながら『開拓者』の方を指さした。
見てみると本当に顔を真っ赤にして怒っている。
……謝った方がいいかな?
「では! 『開拓者』のベンチまでやってまいりました! 『銀の聖女』はああ言ってましたけど――」
『開拓者』のリーダーが司会者のマイクを乱暴に奪い取って私を指さして声を荒げた。
「皆さんは見ましたか!? 『銀の聖女』が戦っている姿を! 俺はッ! 本人が戦っているのを見たことがない!! ミノタウロスを倒した英雄!? それは自称しているだけでは?」
気迫のある演説に会場が静かになる。
確かに客観的に見たら事実であるようにも思える。実際、私が戦っているところが世に出たのはミノタウロス戦だけだ。
他のパーティーとかはダンジョンに記録媒体を持ち込んで動画を撮ったりしているらしい。
『開拓者』のリーダーが続けた。
「俺は断じて認めない。『銀の聖女』のリーダーは強くなんてない。アレは政府の作った偶像だ」
そう言って司会者にマイクを返した。『開拓者』のリーダーは私に中指を立てている。
――あまり、自身の事では感情を表に出さないように気を付けてたんだけど……正直頭に来た。
「沙耶、七海。悪いけどエントリー変更してくる」
「……お姉ちゃんが出るのが一番だよね。私も腹立ってるけど」
「ウチもっす。まあ、沙耶ちゃんと話して最初っからウチらは棄権する予定だったんで気にしなくていいっす」
「ありがとう。行ってくる」
実況席へ移動して沙耶と七海のエントリーを取り消して私だけにした。
勝手に変えるのは上から怒られるけど、多分数字稼げるから大丈夫とのことで了承してもらった。
対戦者を呼ぶアナウンスが聞こえる。『開拓者』は6人全員のようだ。
支給された木剣を持って中央へ向かう。会場からはどよめきが聞こえた。
「えー、『銀の聖女』からオーダー変更の申し出がありました!! 『銀の聖女』は一人……一人です! なんと一人のみの登録です!!」
司会が大きな声で発表した。
私は気にせず中央に歩みを進めて『開拓者』の前に立った。
「おやおやおや。これはこれは『銀の聖女』様じゃありませんか。俺の演説が頭に来たのかな???」
「そうだよ。あまり力をひけらかすのは好きじゃないんだけど……今回は話が別。力を見せないと調子に乗る奴が出てくるんだなって」
「はっ! 言ってろ、偶像ちゃんがよォ!」
「若いと威勢が良いね。私も見習いたいよ……そうだ。特別に手加減してあげる。私は技能を使わないよ」
「何だァ!? 負けた時の言い訳づくりかァ!?」
もう、これ以上は話す必要はない。
司会の方に視線を送って進めるように促す。
「戦う前から早くも舌戦が繰り広げられています! ただし!! ここは最強決定戦! 力と力がぶつかり合う場所です!! 結果は戦いで決まります!! さあっ、1戦目の準備をお願いします!!」
中央のフィールドで私は待つ。
先ほど『開拓者』のリーダーに言った通り、技能は使わない。
相手はタンクの男。かなり良さそうな金属鎧を纏っている。
「それでは――1戦目開始ッッ!!」
戦いの火蓋が、切られた。
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