59話--戦いと言う名の手ほどき--


 開始の合図と共にタンクの男は雄叫びを上げた。

 そして猛スピードで私へと突っ込んでくる。なるほど、【盾術】スキルの技能である【雄叫ウォークライ】で防御力を上昇させて【突撃チャージ】で突っ込んで来てるのか。

 【突撃】は移動が速くなる他に使用中は攻撃力が防御力に加算される技能でもある。

 タンクとして防具を重厚にする【盾術】スキルには必須の技能だ。

 私へ肉薄するタンクの男。木剣を可能な限り素早く振って20ほどの連撃を与える。

 ――おかしい。

 反応が無かった。まるで私の攻撃が見えていないかのように――。

 タンクの男は勢いそのまま私とすれ違い、前のめりに倒れた。

 

「へっ?」


 予想外に打たれ弱くて変な声が出てしまった。技能も使ってない、魔脈も加速させてないあのぐらいの速度なら沙耶も七海も小森ちゃんも普通に避けるし当たっても反撃してくるぐらいだ。

 立ち上がって攻撃を仕掛けてくると思ったんだけど……倒れてからピクリとも動かない。何かの作戦かと思って木剣で突いたりもしたが反応がない。

 腑抜けた間抜け面の私の顔がスクリーンにドアップで映されている。気を引き締めて真面目な顔をしたが手遅れのようだ。

 沙耶と七海は終始笑っていた。

 

「えっと、解説の島田さん。何が起きたか分かりますか?」

「ごめんなさい、わかりません」

「分かりやすい解説ありがとうございます!! では何が起きたかスーパースローで見てみましょう!!」


 司会者がそう言うとスクリーンに私とタンクの男が交戦した瞬間が映し出された。

 かなり細かいスロー映像だ。すれ違いざまに連撃を入れているのが撮れている。

 

「え? これ以上遅くできないんですか? スローですら木剣が移動した軌跡が見えないんですが……島田さん、何か分かりますか?」

「恐ろしく素早く攻撃しているのは分かりますね」

「そうですね、見れば誰でも分かるコメントありがとうございます!」


 解説の人に辛辣すぎじゃないか? と思ったが予選の1回戦目からあんな感じだった。

 司会者が続けて言った。

 

「あ、今の映像を見て救護班が駆けつけましたね……気絶してるそうです! 1戦目、勝者『銀の聖女』!!」


 少し会場がどよめいた後、歓声が上がった。

 2戦目は後衛の魔法使いの女性のようだ。開始のアナウンスが会場に響く。

 タンクであの程度の攻撃を耐えれないのならもう少し戦いのレベルを下げないと駄目だね。教えるような気持ちで行こうか。

 

 考えていると私の周りの魔力が少し歪んだのを肌で感じた。魔法陣が構築され始めている。

 木剣に魔力を纏わせてちゃんと見える速度で魔法陣を破壊する。ガラスを割ったかのような音が会場に響いた。

 

「ほへっ?」


 破壊されるとは思っていなかったのか呆けた顔で情けない声を出した。何だか最初の頃の沙耶を見ているような気分になってきた。

 少しばかり手ほどきをしてあげよう。

 

「構築が遅いっ!! 何も考えずに技能を使うんじゃなくて技能が発動した時のイメージを確かに持つこと!」

「えっ、はっ、はい!」


 徐々に魔法陣の構築が早くなっていくのが分かる。

 ハンターの最初の頃は試行錯誤の繰り返しだ。私だって愚直に剣を振り続けて何度も何度も悩んだ。先達が居ない苦しみは痛いほど理解している。

 タンクの子には悪かったけど、『開拓者』との試合を通して悩めるハンター達に道を示そう。

 

「多重詠唱も、もっとできるはずだよ。4重なんかで満足しないで100も200も可能なんだから上を目指せ!!」

「はいっ!!」

「近接スキル持ちの間合いを覚えること! 間合いの中に技能を使うんじゃなくて届かない距離にやるんだ」

「ありがとうございます!!」


 魔法使いの戦い方を私の知っている限りで教えていく。

 唱えられて展開された魔法陣は全て破壊している。【魔法】スキルの技能は魔法陣破壊されると使った魔力は戻ってこない。次第に息を荒くしていくのが分かり、疲労が目に見えていた。

 意識が朦朧としているのか杖で支えて立っているのがやっとのようだ。近づいて剣を向けて言った。

 

「まだ、続ける?」

「ありがとう、ございました……降参します……」


 そう言うと気が抜けたのか私の方へ倒れこんだ。受け止めて駆けつけてきた救護班に任せる。

 誰もいなくなったフィールド上で小さくため息を吐いて『開拓者』のベンチの方を見る。

 

「次は誰?」


 3回戦目の対戦者であろう『開拓者』のメンバーが手を挙げた。

 武器は……刀か。なら、スキルは【剣術】だろう。

 剣と刀は明確に言うと違うのだが、スキルは同じらしく刀でも【剣術】スキルが乗る。

 私も刀を使っていた時期はあった。手に馴染まなくて使わなくなったけど。

 

「……よろしく頼む」

「同じスキル同士だね、よろしく」


 3回戦目開始のアナウンスが響いた。

 刀の子は、刀を正面に構えている。背中に一本筋が入っているような綺麗な構えだ。

 あぁ、剣道かな? 人間や自分と同じぐらいの大きさの人型モンスターと戦う分なら武道は通用する。

 状況に応じて型を捨てる努力をないといけないけどね。

 刀を正面に上げて私の頭へと斬りかかろうとしてきた。がら空きの腹部に蹴りを入れて来た方向へ飛ばす。

 

「あまり防具を過信しちゃ駄目だよ。ダンジョンは戦場なんだから泥臭く戦わないと」


 研鑽されてきた武道を侮っているのではない。想定している敵を変えて柔軟に在り方を変えないといけない。

 回帰前も最初、武道は低迷したけど後に盛り返した。それだけの力があるのを私は知っている。

 

「……あれ、また加減間違えた?」


 逆側の壁に衝突した刀の子は動く気配がなく、救護班が駆け寄って手をバツにした。

 それを見た司会者が3回戦目終了の合図をした。

 ……力加減って難しいな。カレンが魔力とかを制御しない理由が少しわかった気がする。

 

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