57話--決定戦1戦目(後半)--


 沙耶とタンクの男が対峙している。

 お互いに距離をとって試合開始の合図が流れた。

 

「【炎球】」


 タンクの男は開始の合図とともに沙耶の方へと駆け出した。沙耶は落ち着いて杖を向け、技能を唱えた。

 無数の魔法陣が空中に展開されて炎の塊がタンクの男へと襲いかかった。

 タンクらしく全て受けきる事を選んだのかその場で盾を構えて雄叫びを上げた。

 ――直撃した。

 威力はちゃんと落としているようで、火柱は上がらずに爆発した。四方八方から襲いかかる炎の塊は絶え間なくタンクの男へと命中している。

 

「あっ……」


 沙耶が小さく声を漏らして【炎球】を消した。

 土煙が晴れると横たわってるタンクの男……これ死んでないよな?

 救護班が駆けつけて息があるのを確認して生きていることが分かり1戦目は終了した。

 続けて2戦目。同じ魔法使い同士の戦いはどうなるんだろうか。映画で見たような手に汗握る戦いが――。

 

 開始の合図とともに沙耶が相手へ駆け出した。相手は技能を唱えている途中でそのまま沙耶の杖が側頭部にヒットし、沈んだ。

 

「遠距離は速戦即決しろってお姉ちゃんが言ってた」


 私への熱い風評被害だ。そんなこと言った覚えはない……多分。

 3戦目は剣士の男。互いに開始と同時に駆けて剣士の男の斬りかかりをバックステップで躱し、続く攻撃も全て距離を開けて避けている。

 ……なるほど、地面に色々な技能を展開している。

 沙耶が剣士の男を技能が展開されているところへ誘導し……踏んだ瞬間、剣士の男の脚が地面に沈んだ。

 

「そーい」


 体勢を崩したところに沙耶の容赦ない一撃が剣士の男の顔面を襲った。杖をバットのようにして顔面に振り抜いたのだ。

 勢いそのまま仰向けに倒れた剣士の男……死んでないよね? うまく力加減が出来ているか気になりすぎて大会どころじゃない。

 どうやら剣士の男は生きているようで3戦目が終了した。

 主催側が配慮してくれて5分の休憩を挟んで4戦目だ。

 沙耶がこっちに戻ってきた。

 

「手加減って難しいね……」

「1戦目、マジで殺っちゃったかと思ったっす」

「そうだね、私も」


 息を切らすことなく、汗もかいていない。

 本当に余裕なのだろう。4戦目が始まるから、と戻っていった沙耶。足取りは軽いようだ。

 続いて4戦目。弓使いの後衛だ。今回は2戦目とは違い、駆け出さなかった。何か考えているのだろうか。

 沙耶の方へと矢が飛んでいく。それを難なく掴んで地面に放った。

 相手の呆けている顔がスクリーンにアップで映されている。

 

「沙耶ちゃん、ウチの矢も普通に掴むっすからねぇ」

「随分と逞しくなったんだね……」


 沙耶と七海と小森ちゃんの3人で自主練習をしているのは知っている。その中で得たものだろう。

 真顔で矢を掴みながらゆっくりと弓使いに近づいていく。弓使いも距離を離して撃とうとはしているが壁際まで追い込まれている。

 杖を振りかぶって振り下ろそうとした瞬間――。

 

「参りました!!」


 頭を抱えて座り込んだ弓使いが情けない声で叫んだ。

 相手のギブアップ宣言で4戦目は終了。残すは大剣持ちのリーダー格の男だ。

 開始の合図が――鳴った。

 

「【突進チャージ】!!」


 大剣を掲げて沙耶へと突っ込んだ。沙耶は【土槍】を壁のように出して受け止め、【炎球】を展開。【土槍】の壁に【炎球】が炸裂するもリーダー格の男の姿はなかった。

 沙耶の後ろに姿を現して大剣を振りかぶっていた。

 

「もらった!!」


 リーダー格の男が大剣を振り下ろす。当たる寸前に動きが止まった。

 【土槍】や地面から蔦が出てきてリーダー格の男を拘束していた。いつの間に【蔦の鞭】なんて技能覚えたんだ?

 【蔦の鞭】は拘束したり、その名の通り鞭のようにして攻撃したりもできる【魔法】スキルの技能だ。

 私が知らないということは3人でダンジョン攻略していたときに技能書を手に入れたのだろう。

 身動きの取れなくなったリーダー格の男の顎を杖で振り抜いて……リーダー格の男は力なく大剣を離した。

 試合終了だ。

 会場内が歓声の渦に包まれた。沙耶が手を振って歓声に応えた。

 

「戦いが終わってみれば圧勝! これは『銀の聖女』の次の試合も見逃せませんね! 予選の第二回戦はこの後すぐです!」


 沙耶が戻ってきて私に飛びついた。撫で回して労う。

 調子のいいことに私の手を前に回して私を背負うような感じで戻ろうとした。まあ、一人で戦ったんだし良しとするか。

 そのまま姉妹仲良く控室まで戻ってきた。

 控室の中に入ると七海が口を開いた。

 

「次はウチだけでいいっすか?」

「いいよ、力加減だけは気をつけてね?」

「沙耶ちゃんの時、心配しまくってるの見てたんで分かってるっすよ……」


 本当に心配していた。遠慮なく顔面に打ち込んだりしてたし、私が同じことしたら間違いなく変な方向に首が曲っているだろう。

 七海は大会用に渡された短剣と弓のチェックをしている。仕事のときは結構雑だったけど、ハンターになってからはちゃんと確認も怠ってない。雑にやると命取りになることが分かっているようだ。

 手入れをしている七海を見ながら頑張った沙耶の肩を揉む。私にできることは現状だと、そのぐらいしか無いからね……。




 1回戦目が終わったからか、2回戦目からは少しだけ戦いのレベルが上がった気がした。子供同士のちゃんばらから大人の殴り合いに変わった感じだ。

 七海一人で大丈夫だろうか? 心配そうな目で七海を見ていると私の方へやってきた。

 

「先輩、心配しすぎっすよ……」

「いや、言い出したのは私だからさ……怪我はしないようにね?」

「安心してほしいっす。圧勝してくるっすよ! だから……勝ったらちゃんと労ってほしいっす」

「任せな。揉みくちゃにするよ」


 俯いている七海の頭を乱暴に撫でる。

 私達の順番が近いのか、さっきの運営スタッフがメンバー表を回収しに来た。

 七海の名前を書いて渡す。何度も頭を下げて運営スタッフは去っていった。

 後は、待つだけだね。

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