55話--対人訓練--


 途中から攻撃が全く当たらないことに腹を立ててたのか弾幕のように魔法と矢が降り注いだ。

 意地でも当たらないように避け続けた。針の穴を通るような動きが要求されるほどの攻撃の密度だ。3人の成長が感じられる。

 飛んだり跳ねたり、体を捻ったりして攻撃を躱す。全て避けると攻撃が止んだ。

 

「あれ、どうしたの?」

「はぁっ……魔力、切れ……」

「ウチも、もう無理っす」


 なるほど、最後の高密度の攻撃は力を振り絞ったものだったのか。

 カレンと一緒に総評を行おう。

 

「どうだった? 私としては問題ないと思うんだけど」

「ん。威力は問題ない。あとは速さ」


 確かに。今回は私たちが攻撃しない前提の訓練だった。

 実戦は速戦即決の場合が多く、遠距離スキル持ち対近距離スキル持ちだったら距離が必要な遠距離側は不利を強いられる。

 カレンが沙耶と七海に遠距離での対人戦の定石を教えてくれている。

 

「基本は、牽制。設置型の技能を至る所に配置して近づけさせないようにする。魔法陣が光を放つのは最初の1秒もない。魔法陣が光った瞬間、剣に魔力を纏わせて斬るなんてことをしてくるのはあーちゃんだけ」

「やっぱりお姉ちゃんは異常なんだね……」

「大丈夫。接近されたら、その杖で思いっきり殴れば解決」


 カレンが沙耶の杖を指さして言った。確かに古代竜の杖は私の剣と同じぐらい硬いから十分な攻撃になるだろう。

 魔脈が開放された沙耶たちの力がどれだけあるのか分からないが、少なくとも一撃でゴブリンを屠る力はあるだろう。

 沙耶には一通り説明し終えたのか七海の方を向いた。

 

「正直な話をすると、弓は面と向かった対人戦は非常に弱い」

「そうっすよねぇ。近づかれたらアウトっすからね……」

「サブ武器を持つべき。これは秘密だけど【弓術】持ちは短剣ならスキルが乗る……だから短剣を忍ばせて近接も戦えるようにするのが定石」

「うっす! あざす!!」


 【弓術】スキルに短剣も効果があるのは初めて知った。いろいろと知っていたつもりだったがここ最近で知らないことばかり出てくる。

 ――うれしいものだ。私はまだまだ強くなれる余地があるということだ。

 続けてカレンは小森ちゃんに説明を開始した。

 

「上昇効果型の【支援】は、無理。団体戦ならまだしも1対1は絶対に避けるべき状況」

「ですよね……近接戦闘も最近頑張ってるんですけど、本職には敵わないですし……」

「おすすめはしない。戦って怪我でもしたら大変」

「分かりました! 個人戦は出場を見送ろうと思います……橘さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。団体戦で一緒に頑張ろう?」

「はいっ!」


 訓練場は1日で借りているのでまだまだ時間がある。

 剣を出して技能の制御を確かめる。

 力に頼らない技術の強さを磨きたい。魔力を少量だけ放出するのを繰り返してみる。

 【支援】の技能である【探知】の魔力の流れを自身で再現してみている。

 

「うーん。何かがある、ってのは分かるけど小森ちゃんの【探知】みたいに明確には分からないなぁ」


 目を瞑りながら戦うのに似ている。あれは音と匂いと感覚でどうにか戦えるが……。

 もう一歩ってところなんだけど、悩ましい。

 他のも試してみる。【八閃花】の剣を維持する……。

 あれっ、思っていた以上に維持ができるようになっている。

 

「……魔脈の力かな? なんか剣に繋いでいる魔力の線が安定してる」

「ん。魔脈から魔力が安定供給されてる、でも扱い難しそう……」

「うん。難しいよ」


 急に腕が8本増えたようなものだ。

 脳が焼けそうなほど熱くなる。自分の腕のようにコントロールしようとすると負荷が尋常じゃないな……。

 ただ、魔脈が開く前よりはコントロールができるようになっているので良しとしよう。

 剣を消して座り込む。カレンが近づいてきた。

 

「あーちゃん、簡単な模擬戦しよ」

「カレンから誘ってくれるのは初めてだね、いいよ」


 3mぐらいの円を描いてその中に立つ。

 武器は無しで素手の戦いだ。カレンが目を瞑った。なるほど、そういう趣向の戦いか。

 私も目を瞑って相対する。カレンから魔力が放出されてるのが分かる。

 感じ取ってから動くか――。

 

「いった!?」

「あ、ごめんね……鼻に当てるつもりはなかった……」


 遠慮なく顔を殴られて鼻血が垂れる。魔力を流して治そう。

 今、拳を当てられて分かった。

 相対した状況で魔力の動きを検知して動くのだと問題がある。カレンの場合は放出されている魔力が大きすぎて小さな起こりが搔き消されてしまっている。

 視界が確保できておらず、それ以外の感覚で戦う場合は自分の魔力で相手を覆った方が動きが分かりやすいのか。

 

「ん。流石あーちゃん。もう意図に気が付いた」

「本当にしてやられたよ。もう一戦よろしく」


 また目を瞑って相対する。

 今度は私からも魔力を放出してカレンの魔力に覆われないように対抗する。

 すると、私の魔力を突き破ってカレンの魔力が来たのが分かった。

 ガードすると拳が当たる。

 

「なるほどね」

「ん。じゃあこれはどう?」


 カレンが拳を引くといくつもの魔力が飛んできた。

 7つ!? 防ごうと掴みかかるが空を切った。

 

「はっ?」


 思わず声が出てしまった。確かに魔力は感じたのに……。

 私に当たる直前でカレンの拳が止まった。

 

「ん、今の7つのうち、本物は2つ」

「もしかして……魔力だけ飛ばした?」

「正解。これも戦闘の技術。極限状態で戦っているときに使うと案外引っかかる」


 感覚を頼りに戦っているときは間違いなく引っかかるだろう。

 いいことを教えてもらった。沙耶と七海の魔力が回復したそうなのでもう1度同じ訓練をしてもらうか。

 私とカレンは目を瞑ってやってみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る