54話--事後と訓練--


 妙に体が怠くて目が覚めた。昨日、カレンに首筋から血を吸われてからの記憶が曖昧だ。

 自室に居たはずなのだが寝室で服も着ておらず、全員が私にくっついている。

 皆も服を着ておらず、まさかとは思うが……。寝ている皆を引きはがして洗面所へ向かう。

 首筋にはカレンの牙が刺さったであろう跡が三つ。他にも胸元にかけてうっ血のような跡が複数残っていた。

 

「なんだこれ……昨日の夜に一体何が……?」


 とりあえずシャツを着てリビングに向かう。湯を沸かして珈琲を飲んで落ち着こう。

 湯が沸くのを待っているとカレンが寝室から出てきた。


「ん、あーちゃん。おはよ」

「……おはよう。カレン、昨日何があったか聞いてもいい?」

「とても、すごかった。途中から他の子たちも混ざった」


 カレンが身を寄せて頬を赤らめて言った。私は頭を抱えて息を吸う。

 起きた時点で予想はしていたが認めたくなく、現実から目を背けていたが……カレンの発言で確信を持ってしまった。

 それが意味することは……。

 

「私はまた、やったのか……」

「ん。途中からすごい乗り気だった、よ……?」

「それは聞きたくなかったなぁ」


 カレンが言うにはそうらしい。多分無意識にまで染みついたやられたらやり返す精神が出てきたのだろう。

 こうも肉欲で乱れるのは良くないことなのだ。回帰前にソレでいくつのパーティーが解散していったことか。

 

「あーちゃん、私の眷属に……ならない?」

「眷属って?」


 カレンが言うには吸血鬼は自身の配下として従えることができる者のことを眷属と呼ぶそうだ。

 眷属となった時の魅力を私に提案しているのを聞いていると何だか仕事でプレゼンをしている時を思い出した。

 

「悪くはしない……だめ?」

「うーん。私は今のままが気に入ってるから遠慮しとくよ」

「むぅ……あんなにも、相性良かったのに……」


 何が、とは聞かない。間違いなく藪蛇だからだ。

 湯が沸いたので珈琲作って啜る。うん、寝起きの一杯は格別だ。

 朝ご飯を何にしようか考えているとカレンが手を叩いた。

 

「ん、じゃあ私があーちゃんの側室入る」


 唐突に言い放ったカレンの言葉に驚いてむせ返った。珈琲が変なところに入った。

 暫く咳が止まらず、収まってカレンを見ると恥ずかしそうに私を見ていた。


「ごめん、側室って?」

「ん……他の子も、そうでしょ? あーちゃんは皆等しく接するって、言ってた。私のものにならないなら、私があーちゃんのものになる。これが一番いい解決法」

「私にはよく分かってないんだけど、要約すると……?」

「帰るの諦めてあーちゃん達とずっと一緒に居る」


 つまり、カレンがずっと居るってことはパーティーメンバーが一人増えるということだろうか?

 帰るのを諦める、と言っているがカレンの居た世界に未練が無いわけではないと思うし、もしも行ける機会があるならカレンの両親に私のパーティーでやっていく許可を取るべきだろう。


「……まあ、そう言ってくれると私的にも助かるかな。これからよろしくね、カレン」

「ん。よろしく」


 握手を固く結んだ。正式にカレンが私のパーティーに入ってくれるなら抜けた時の穴を気にしなくて済む。

 主として前線でダメージを与える前衛はパーティーの花形でもあるから中々見つからないのだ。

 ましては女性の前衛となるともっと少ない。

 

「それじゃあ、服着てきなよ。ついでに沙耶たちを起こしてきてほしいかな」

「ん。わかった」


 小走りで寝室に戻ったカレン。

 さて、私は朝ご飯の準備をしよう。

 

 

 食事が終わって皆でリビングで寛ぎながら、どこのダンジョンに行くか決めている。

 10日後に控えた最強のパーティーを決める大会のようなものもあるので、協会の訓練場を借りて対人戦の特訓でもいいかもしれない。

 協会の訓練場はハンターなら利用料を払えば誰でも借りることができる。


「よし、対人戦の練習しよっか」

「さんせー!」


 沙耶が手を挙げて意思表示した。七海と小森ちゃんも頷いているので今日は対人戦の練習の日としよう。

 カレンは大会には出ないが手伝ってもらうから連れていく。

 準備をして皆で車に乗り込んだ。

 

 協会に着くと視線が注がれる。新人ハンターや依頼を受けに来たハンターなどが多い。

 色々な跡が付いている首筋はストールを巻いて隠しているので問題はない。

 受付で訓練場を借りるための手続きをする。問題なく借りれたので訓練場に向かう。

 

「対人戦って言うけど何をするっすか?」

「うーん。正直なところ私にも分かってないんだよね……何をしたらいいんだろ」


 意気揚々と家を出たが対人戦の訓練なんてしたことがないため、頭を悩ませた。

 小森ちゃんの方を見て助言を求めたが黙って首を横に振られた。分からないのは当たり前だ。

 同様に沙耶も悩んでいて訓練場に着いたのはいいが何をしたらいいか分からない状態になっている。

 

「カレンは何かいい案ある?」

「ん、簡単。逃げ回る私とあーちゃんに攻撃を当てれればそこら辺の人族は倒せる」

「それもそうだね……私とカレンが的になって動くから沙耶と七海はそこに当てれるように。小森ちゃんは2人をサポートしてあげて」

「わかりました!」


 沙耶と七海の反応を聞いてはいないが、聞かずにカレンと顔を見合わせ訓練場内を縦横無尽に駆け回った。

 狭い室内で動き回るスーパーボールの気分だ。

 

「えっ、微かにしか見えないのに当てろって言うんすか!?」

「割と無理難題押し付けてきたなぁ……いつものことだけど」

「沙耶ちゃん、七海ちゃん。ある程度規則的に動いているから、進行方向を予測して攻撃したほうがいいかも」


 3人で考えているようだ。

 私とカレンとは違い、3人は戦いの経験が少ないので身に付けさせるためにも自分で考えて行動するようにさせている。

 暇そうに欠伸をしながら駆けているカレンにちょっかいを出すように時折近くを通って肩を叩いたりする。

 さあ、沙耶たちは私たちに攻撃を当てられるかな?

 

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