53話--手合わせ--


 この前の遺跡の事みたいにならないようにカレンに詳細を聞こうと思う。

 着せ替え人形にされてお互いにリビングで力尽きている状態だったので聞きやすい位置にいる。

 

「カレン。今日ダンジョンで会った魔族は知り合い?」

「ん。あまり話したことない……考えてること、よく分からないから……」


 ダンジョン内での出来事を鑑みるとラヴィスは戦闘より知略に優れていそうだ。

 普段何を考えているか分からないのは私からすればカレンも同じだが……もしかしてカレンは何も考えてない?

 ――そんな訳はないか。

 

「私の居た世界――魔界は、力が全て。ラヴィスは……他の強いのとよく一緒にいる」

「そうなんだね……あともう一つ。魔脈を開くのが魔族しかできないって言ってたけど本当なの?」

「ん。間違いではない……人族も、魔力がある状態で産まれてくれば、できるようになる……かも? 魔脈を開くには、魔力を手足のように動かせないとダメ」

 なるほど。だから、こっちの世界では知られていない技術だったのか。

 回帰前も聞いたことが無かった。

 

「私の魔脈は開いちゃってよかったの……?」

「ん。大丈夫。秘伝の技術じゃないし」


 それならいいんだけど。私にはラヴィスが言っていた裏切り者という発言がすごい気になる。

 何やら厄介ごとに巻き込まれそうで……。

 

「お姉ちゃん、さっきから話してる魔脈って何?」

「あぁ、昼間話してたカレンから教えてもらった新しい技術? かな。めちゃくちゃ痛いってやつ」


 沙耶に返答する。

 可能なら3人も魔脈を開いてもらえればダンジョン攻略の幅が広がる。


「私たちも色々考えてさ、結構気になってるんだよね。どのぐらい効果あるの?」

「うーん……どのぐらい、って聞かれると説明しにくいなぁ。あ、そうだ……カレン!」

「ん? なに、あーちゃん」

「手合わせしよっか。降参したほうが負け」


 魔脈が開いている者同士で戦ってみればどのぐらいの効果があるか分かるだろう。

 一応3人は魔脈を開く前の私の【神速】を使った動きが見えていたはず。


「いいよ。負けた方が勝者の言うこと1つ聞く」

「……急に負けられない戦いになったなぁ」


 袖を捲って庭へ出る。

 私が剣を出すとカレンも赤い短剣を出した。多分だが私と同じような感じで魔力を流せば出現するのだろう。

 そこまで本気で戦うつもりは無いので互いに穏やかな空気が流れている。

 

「沙耶、合図して」

「怪我しないでね……? それじゃあ、開始――」


 沙耶の合図と同時にカレンから魔力が噴き出したのが分かった。

 予測は出来ていたので私も全力で受けて立つ。

 【神速】を2重に掛けて魔脈を意図的に加速させる。

 数百にも及ぶ剣戟の音が1つになって響き渡った。3人からは私たちは1歩も動いてないように見えているだろう。


「すごい、あーちゃん。もうそこまで動けるんだね。私の全力……受け止められたの初めて!!」

「いてて……魔脈が開いても2重詠唱は負荷が大きいなぁ」


 目を光らせて私と言葉を交わすカレン。ようやく、カレンの力の底が見えてきた気がする。

 再び互いに動いた。軽い気持ちで始めた手合わせだが、もっと戦っていたい気持ちが伝わってくる。

 剣を合わせる度にカレンからは戦う相手が居なかったことによる孤独が伝わってきた。もっと、もっと戦いたいと意思をぶつけられているようだった。

 10分、20分と打ち合っているとある変化に気が付いた。

 無表情だったカレンが笑っているのだ。恍惚と頬を赤らめて。

 

「楽しい、楽しいよ! あーちゃん!!」

「私もだよ。カレン」

「あーちゃん相手なら、封印解いてもいい? いいよね?」


 カレンから爆発が起きたのかと思えるほどの魔力が放出された。足元には魔法陣がいくつも展開されている。

 戦いに集中しているばかりで周りが見えてない、のか? 私も忘れかけていたが、ここは住宅街だ。

 そんな場所で大規模な魔法なんて使われたら――。

 

「ごめん、私の負け」


 両手を上げて剣を離す。カレンが目を見開いて悲しそうな顔をした。

 申し訳ない気分でいっぱいだが、止めるにはこれしかない気がしたんだ。

 

「あーちゃん……どうして?」

「ここで互いに本気出して戦ったらどれだけ被害が出るか分からないからね……本気の勝負は次の機会にとっておかない?」

「ん、そうだった。ここ、魔界じゃない……」


 カレンも自分の居る場所を思い出したようだ。

 誰にも迷惑の掛からない場所だったら間違いなくどっちかが動かなくなるまで戦い続けた気がする。

 それに、最後の瞬間の封印とは……一体何だったんだろう。力を隠しているんだろうか。どれだけ強くなるか分からなかった。

 落とした剣を消して沙耶たちの方へ向かう。3人で何か話しているようだ。

 

「七海さん、小森さん、少しでも見えた?」

「無理っす。スキルの効果で視力は強化されてるはずなんすけど、全く見えなかったっすね」

「わたしも、ダメだった」

「うん。私も見えなかった……よしっ、決めた!」


 沙耶が立ち上がって私の方へ向かってくる。

 目の前で止まって大きめの声で言った。

 

「お姉ちゃん、私にも魔脈ってやつ、できる!?」

「多分大丈夫だと思う……カレン、やれる?」


 カレンが沙耶の背中に手を当てて何かを確認している。

 少しするとカレンが口を開いた。

 

「ん、大丈夫。魔脈はできてる。開くだけ」


 寄ってきた七海と小森ちゃんの確認もしてくれている。

 2人も開くだけだそうだ。

 ……あの地獄を経験するのか。頑張れ。

 皆でリビングに戻って3人がソファに座った。あれ、自室でやらないのか? 痛みで暴れるとかなんとか……。

 

「ん。じゃあお覚悟」


 カレンが3人の背中を続けて叩いた。叩かれた者から気を失ったかのように力が抜けた。

 ……なんか私の時と違うような?

 3人が気を失うと私はカレンに詰め寄った。

 

「ねえ、カレン。私の時と違くない?」

「あっ……えっと、あーちゃんは、この子たちと違って、魔脈の密度が違いすぎたの。普通なら魔石近くを開くだけで、いい……。あーちゃんは私がコントロールして全部の節を開かないと、ダメだった」


 目を泳がせながらカレンが言った。

 ……あまりに挙動が不審であるから本当かどうか疑いたくなるが、追及はしないでおこう。

 

「この子たちには耐えきれない、だから意識飛ばした」

「うん、それができるなら……その方がいいね。あの痛みは私が味わうだけで十分だよ」


 いくら強くなるためだと言ってもアレを強要はしたくない。目を覚ましたら魔脈は開いているだろうから一先ずは安心だ。

 目を覚ますまで暇だから自室のベッドで寝転がっていよう。結構無理な動きをしたから体が怠い。

 欠伸をして自室のドアを閉めてベッドに飛び込んだ。

 ……なんだかベッドの横に気配を感じる。

 

「何で、カレンが居るの?」

「ん。後追った。負けた方、言うこと1つ」

「あ……忘れてた。えっと……カレン? 何で私に覆いかぶさって――」


 首筋にカレンの吐息が当たる。

 押し返そうと力を入れるが2重で【神速】を使ったりした影響か腕に全く力が入らない。


「ん、血は1回だけ。大丈夫、後は優しくする」

「ちょっ――」


 言い返そうとしたが時すでに遅し。

 カレンは私の首筋に牙を――突き立てた。

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