49話--歓迎会と夜襲--


 相田さんが帰った後、カレンの歓迎会をするために買い出しに行くことにした。

 食料の買いだめは収まっており、ダンジョンができる前より値段は高いが普通に買うことのできるようになっている。

 徒歩圏内にあるスーパーへ歩いて向かう。

 全員で行っても余計なものしか買わないので今回は、こっちの世界の社会勉強という事でカレンだけを連れてきた。

 

「ん、不思議。露店じゃない。建物内で食料を売ってる……?」

「カレンの方は露店なんだ」

「そう。食料は市場。建物は服とか宝石とか、庶民の手の届かないもの」


 カレンと話しながらスーパーに入る。野菜と果物が私たちを出迎えてくれた。

 このスーパーはゴールドでの決済に対応しているから安心して好きなだけ買い物ができる。まあ、好きなだけと言っても両手に持てる範囲内だけだけれど。

 物珍しそうにカレンが見回している。

 

「あーちゃん、アレ、何?」

「アレ? あぁ、買い物かごとカートね。使ってみる?」


 無言で頷くカレン。カートとかごを取ってカレンの前に置いた。

 表情は無表情だが好奇心が溢れているのが見て取れた。

 カレンにカートを引いてもらって買い物を開始する。一応、買うものはメモしてあるが……今日は歓迎会だから豪勢に買い物をしよう。

 

「……? なんで? どれも魔力がない」


 首を傾げてカレンが私に聞いてきた。集中して目を凝らすと魔力の流れが見えるから私も見てみよう。


「本当だ。元々、魔力が存在しない世界だったからじゃないかな?」

「ん、困った……お腹膨れない……」

「食べるだけじゃダメなの?」

「うん。私たち魔族は食材に入っている魔力を吸収する。食材の栄養素も、吸収するけど、微々たるもの……」


 カレンがそう言って肩を落とした。どうすればいいのだろうか……。

 あ、そうだ。

 

「カレン。魔力があればいいんだったら食事に私の血混ぜたりしたら大丈夫?」

「ん、大丈夫だけど……そんな手間かけるなら直接――ぐぇっ」


 私の頬に手を添えようとしたカレンの頭に手刀を落とす。隙あらば人の血を狙うんだからたまったものじゃない。

 致し方ないがカレンも食事を楽しむことができるようなので買い物を続行する。

 高そうな肉とメモした野菜を数点。後はお酒……? いや、駄目だ。沙耶と七海は酒を飲んでいい年になっていない。また今度にしよう。

 必要なものは買えたので会計を済ませてスーパーを出る。

 ……明らかな敵意が籠った視線が、4つ。私何かしたかな?

 【竜体】を得てから感覚が鋭くなっており私に害をなそうと思って送った視線とか気配は察知できるようになってしまった。

 

「あーちゃん……狙われてるよ?」

「分かってるよ、カレン。後付けられるのも面倒だから撒こうか」

「殺さないの? 私の国じゃ、殺してる」

「ここじゃあ殺すと殺した方が悪くなるんだよ、そういうルールなんだ」

「むう、窮屈……」


 カレンと顔を見合わせて一瞬で速度を上げる。

 景色が後ろへすっ飛んでいく。【神速】を使って走ったけどカレンは涼しい顔で私の横を並走していた。

 見た感じ技能を使っている様子もない。何が違うのだろうか……。カレンの方を見ていると視線に気が付いたのか反応してくれた。

 

「大丈夫。ちゃんと教える」

「ほんと? ありがとね」

「ん、貸し1つ」


 ……こうして段々とカレンへの借りが増えていく。

 一体何を要求されるのだろうか、と怯えるが一段と強くなれるのなら目を瞑る他ない。

 借りの返済は未来の私が頑張ってくれるだろう。

 

 家に帰って歓迎会も終えてリビングでのんびりとしていたらカレンが立ち上がって玄関の方へと歩いて行った。

 夜風に当たりに行ったのだろうか? と思ったが昼間の事を思い出した。

 ……まさか!?

 

「沙耶、ちょっと出てくる」

「はーい。あれ? カレンさんも居ないね」

「そうっすね。トイレっすかね?」


 急いで玄関へ向かった。外に出ると何人かで家を取り囲んでいるのが分かった。

 いずれも気配を消しているが……敵意は隠せていない。

 一つ、一つと敵意が消えていく。何者かが時計回りに倒しているようだ。次に倒されるだろう敵意の元へ向かう。

 ちょうどその者に向かって短剣が振り下ろされる直前だった。


「ダメだ! カレン!!」


 カレンの短剣を剣で受け止める。私の家の方に敵意を向けていた奴には【竜の威圧】を浴びせて動きを止めた。

 短剣を降ろしてカレンが言った。

 

「大丈夫。殺してはない」

「……本当?」

「ん。あーちゃんが殺しはダメって言った。だから足と手の健を切って再生できないように繋げた。声帯も傷つけて声が出ないように治した」


 頭を抱えてため息を吐いた。

 カレンの世界は弱肉強食で、その世界で生きてきたカレンがそういう考えなのは分かっていた。分かっていたのだが、止められなかった……。カレンが斬りかかろうとしていた男に質問する。

 

「誰の差し金?」

「しっ、知らねぇ……俺たちはただ、金を貰って依頼を受けただけだ!!」

「そう……今日はもう帰りな。死にたくないでしょ? どっかに転がってる仲間も回収してね」

「分かった……。くそっ、聞いてねぇぞ、こんなに強いなんて……」


 【竜の威圧】を解いて男を解放する。

 さて、後は怒られる。と肩を落としているカレンに少しばかりのお説教だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る