45話--青髪の少女--
皆で朝食を食べ終えると沙耶が検索していた結果を報告してきた。
「色々調べてみた感じ、『開拓者』の評価が凄い下がってるね」
「そうっすね。目を引くために記事の見出しには変な解釈で書かれてるっすけど、ウチらに批判的なコメントは特に見当たらないっす」
「正論で草、とか……聖女のリーダー、本当に聖女かよ。とか……ハンカチ渡したのとかも記事になってますね」
どうして、と言いたいが報道陣にコメントしたのは私だ。
私の発言がそう解釈できた。ってのが問題なのか。ハンカチの件はもう何も分からない。
「うわ、ハンカチの記事書いた人、漏らしてた人じゃん」
「すごい根性っすね、尊敬するっす」
「私には何が何だか分からないよ……」
「ネットの民は、わたしたちの味方みたいなので特に問題ないと思います」
昔ニュースでやっていた芸能人がSNSで炎上した、とかの気持ちが少し分かった気がした。
自身では検索する気はないので情報収集は3人に任せよう。
次のダンジョンに行く時からは車で移動することにしてメールで林さんに今回の事を色々と伝えておく。
3人は面白いコメントを見つけるために検索に集中しているようだ。
今日は自由にしていい休みの日なので私は1人でダンジョンに行こうと思う。
携帯で沙耶たちに一報入れて、私は端末で予約を取ったダンジョンへ向かっている。昨日のこともあったのでビルの上を飛び移っている。これなら目撃情報もないだろう……。
ゲートのある場所へ着地して端末のQRコードを見せる。協会の端末で読み取れば予約したという情報が分かるらしい。
特に問題もなくダンジョンの中に入った。ダンジョン特有の濃い魔力が私を出迎えてくれた。
「すぅーー、はぁーー。うん、やっぱり落ち着くなぁ」
遺跡のダンジョンで古代竜の魔石を食べてからは魔力が薄い地上だと少し息苦しさを感じている。魔力増加法で絶え間なく魔力を取り入れることで、どうにかなっている。
ダンジョン内では魔力増加法もしないで良いぐらいには魔力が濃いため気が楽だ。
襲い掛かってくるコボルトを斬り伏せながら考える。本当に、遺跡のダンジョンの後は色々とあった。
命の危機を乗り切った後は生きている実感が欲しくなるもので……回帰前の私は一人で慰めてはいたのだが、いくら思い返してもこの体で慰めている事がなかった。そう、あれは不可抗力で互いに生の実感が欲しかっただけで……。
沙耶とだけ、のつもりであったが七海と小森ちゃんも混ざり自分の体と3人の体が溶け合っているのではないかと思えるほどの快楽だった。
3人が私の体を――、とコボルトのボスだ。
「アレは私には刺激が強すぎたなぁ。毎日のようにやってたら中毒になるよ、アレは」
出現したコボルトのボスに言い聞かせるように私は呟いた。
回帰前のような瞬間的な快楽とは違い、徐々に波のように押し寄せて自身のモノとは思えない甘い声が漏れて……。
――いかんいかん。詳細に思い出したら変な気分になりそうだ。
幸いなことに体を許したのは、その1度のみだ。
煩悩を振り払うように力を込めて剣を振っ――力を、込めすぎた。剣が当たると同時に爆散したかのようにコボルトのボスの肉片が飛散した。
「うえ、服に付いた……力加減もまだまだだなぁ」
現代アートのように服に血しぶきの模様がついてしまった。返り血なんて浴びないと思っていたから白いシャツを着て来てしまった。
剣を収納してダンジョンの外へ出る。通報されないように【神速】で人の目に映らない速度で帰ろう……。
ビルの上を見えない速度で駆けていると私の足に何かがしがみついた。
――【神速】中の私を掴むだと!?
ダンジョンの中ではないから気を抜いていた。しがみついたモノを振り払って剣を出してビルの上に着地する。
「いたい……。あーちゃん、助けて……?」
青い髪で青い瞳の少女が涙目で座っていた。
涙目ではあるが無表情。声に抑揚が感じられない……というよりは無気力な声、だろうか。
どこかで聞いたことのあるような声なんだけど、思い出せない。
「ん、忘れた? 私、カレン」
「カレン……? は? どうして魔族がこっちに!?」
理解が追い付いた。臨戦態勢になって少女――カレンを見据える。彼女はダークエルフのダンジョンで会った魔族だ。
遺跡の一件があってから魔族と聞くと碌な思い出がない。【竜の威圧】を全力で放出するとカレンが大きく目を見開いた。
だが、私の記憶ではカレンの肌は浅黒かったはず。どうして白に近い肌色なんだ……?
「驚いた。すごい成長してる……ジルドが死んだのも頷ける」
「ジルド……? あの遺跡に居た魔族の事か?」
「そう、本体で死んだから死んでる。あのロクデナシを殺してくれてありがとう」
恨み言を言われると思っていたのだが、感謝の言葉が飛んできて面食らった。
前回と同様にカレンから敵意は感じられない……が、前回はそれで戦闘になったのを思い出した。
「大丈夫、戦うつもりはない。それより助けてほしい……」
胸の前で人差し指同士を合わせて言いづらそうに私を見ている。
カレンと話していると毒気を抜かれるというか、何というか……。とりあえず話だけは聞いてみよう。
「要件は?」
「簡単なダンジョン作って、ゲート通って、こっち来た。すぐ戻るつもりが、初めて見るものが多くて、目移りした」
話を聞いていると徐々に私から顔を逸らしているのが分かった。
魔族がこっちに来れるというのは本当なのか……? それがそうなら日常生活も警戒して過ごさないといけない。
カレンが話を続ける。
「帰ろうと思って、ゲートのところに戻った。誰かに攻略されてて、ゲートが閉じてた……つまり、私、帰れない」
「来た時と同じようにダンジョン作って帰ればいいんじゃないの……?」
「ムリ。こっち、権限ない。ダンジョン作れない……対価は払う、泊めさせて……?」
首を横に振るカレン。家に帰れないのは可哀そうに思えるが、相手は魔族だ。
どうするべきか頭を悩ませた。
そんな捨てられた子犬のような目で見ても私は屈しないからな!!
「あーちゃんたちに危害は加えない。両親と私の名に懸けて【宣言】する」
そう言うとカレンの体が光りだした。これは、スキルだ。力のあるモノに【宣言】して約束を絶対にする。回帰前に噂で聞いたことがあるぐらいなので詳しくは分からないが、間違いは無いはずだ。
7色の光が周囲をぐるぐると回って一段と輝き出した。
「ハイエルフと
光がカレンの胸元に入っていった。
錚々たるモンスターの名前が聞こえてきたような気がするんだけど。
「ちょっとまって、確認させて? お母さんが悠久の時を生きるって言われてるハイエルフと生物の精気を吸って生きる淫魔のハーフ?」
「うん。女王」
「お父さんが吸血鬼と悪魔のハーフ」
「うん、大王」
「その2人? の子供」
「うん、私。ザレンツァ大魔帝国、第二王女。王位継承権第一位、カレンちゃん。ぶいっ」
カレンが私に向かってピースした。無表情で。
もしかして、私はとんでもない者に【宣言】させてしまったのかもしれない。
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