2章

44話--宣戦布告--


 それは、リビングでのんびりとテレビを見ているときに唐突に起きた。

 ダンジョンパーティー特集という番組がやっており、何やら『開拓者フロンティア』というパーティーに密着取材をした番組だそうだ。

 

「『開拓者』……聞いたことないなぁ」

「お姉ちゃんそういうの興味ないもんね……ネットじゃあ『銀の聖女』に次いで人気だよ」

「そうなんだ……タンク1の前衛3、後衛3の支援1か。人数が多いけどバランスはいいね」


 調べてみると隊列の詳細まで書かれていた。所持しているスキルやレベルまで。

 大丈夫か、これ。所持しているスキルは個人情報みたいなものなんだよ……?

 世の中は必ずしも良い人ばかりとは限らず、複数の隊列で攻略する大規模ダンジョンなどに入ったときに事故に見せかけて亡き者にしようと企む輩は居るはずだ。

 実際に回帰前には居たし、何度も狙われた。スキルを公表するってことは対策が立てられてしまうってことなんだ。

 

「なんか日常生活だけだったね。あっ、インタビューもやってるんだ」


 番組の終わりに1人1人へ生インタビューが行われていた。

 リーダーと思わしき人物である金髪の男にインタビューをしている時、ソレは起こった。

 

『巷では『開拓者』か『銀の聖女』か最強パーティーはどちらか、の議論がされておりますが……』

『あぁ、その件ですか。皆言うんですよ。最強は僕たち『開拓者』ですよ、あんな娘っ子しか居ない『銀の聖女』なんぞに僕たちが遅れをとる訳ないじゃないですか。最近はダンジョンの攻略もあまりしてないようですし、男でもできたんじゃないんですか?』

「――はぁ?」


 沙耶の声と共にリビングの空気が凍り付いた。

 七海も小森ちゃんも険しい顔をしており、迂闊に話しかけられない雰囲気だ。

 格闘技の世界大会とかでのマイクパフォーマンスみたいだなぁ。と思っていると相田さんから電話がかかってきた。

 

「はい、橘」

「お、嬢ちゃん。テレビ、見たか?」

「ちょうど見てたところ。最近の若い子は威勢がいいね」

「かっかっかっ! 良すぎる威勢も困ったものだがなぁ。嬢ちゃんはどうでも良さそうな感じだが、他の子はどうだ?」

「えっと……ちょっと待ってね」


 3人がテーブルに集まって何やらノートに書きこんでいる。

 見出しの部分を覗くと『開拓者抹消計画』と書かれていた。何やら恐ろしい計画を立てている。

 そのまま相田さんに伝えた。

 

「やっぱりそうなるよなぁ。儂でさえカチンと来たのによ、嬢ちゃんを大切に思ってる他の子達が憤らないわけがないんだ」


 どうしたものか、と相田さんが唸る。

 『開拓者』のリーダーが言っていた、最近はダンジョンの攻略をあまりしていない。という部分は本当だ。

 私たちがダンジョンの攻略をしすぎると後から覚醒した者が育たない、と思って相田さんと相談して攻略を控えめにしていた。

 ハンターの未来を見越してやっていたことなのだけれど、ソレを面白可笑しく乏しめるように言うなんて……喧嘩を売っているようにしか聞こえない。

 

「あれっ、もしかして喧嘩売られてる?」

「気づいてなかったのか……嬢ちゃん、今回の事で少しばかり世間が騒がしくなるけど他の子達が短気を起こさないように手綱をしっかりと握っておいてくれないか? 必ず何とかする機会を設けるからよ」

「わかったよ。いつもありがとうね、相田さん」


 そう言って別れの挨拶をして電話が切れた。

 3人が作っている物騒な計画書を没収して相田さんから言われたことを伝える。

 皆、それなりに相田さんとは話す間柄で仲はいい。

 

「でもさ……機会を設けるってどんな感じなんだろう?」

「試合みたいな感じで模擬戦するんじゃない? 最強決定戦! みたいな」

「それだ! お姉ちゃん、電話貸して?」


 沙耶が私から携帯を受け取って自室へと駆け込んだ。

 数分して戻ってきて返ってきた携帯の発信履歴を見ると相田さんに電話をしたのが分かった。


「どこのパーティーが最強か議論するんだったら明示的に決めちゃえばいいんだよ」

「なるほど、それで相田さんに提案した感じ?」

「そう! たまに会ったときに相談乗ってくれたりするし、何かあったら気軽に電話してくれって言ってたから提案してみた」


 何やら色々と面倒なことが起きそうな予感……。対人戦となると正直不安だ。

 私の剣術はモンスターと戦うのを想定しているため、人との戦いを考えていない。どんな仕組みになるか次第では不利かもしれないなぁ。

 

「とりあえずダンジョン攻略しに行こうか」

「そうだね~、モンスターに八つ当たりしよっと……」


 各々が武器を握りしめてニコリ、と笑った。目が笑っていないため少しばかりの狂気を感じる。

 小森ちゃんはスキルで武器に補正がかからないので前に倒したコボルトのククリナイフを使ってもらっている。

 存外、使いやすいようでゴブリンとかを普通に倒していた時はビックリした。護身用のつもりで持たせたんだけどね……。

 協会から支給された端末を使って、行けるダンジョンを予約する。

 走って20分のところの予約が取れた。

 

 

 ダンジョン内では何事もなく、普通に攻略が終わった。

 強いて言えば【竜体】と【竜骨】で上昇した防御力を試してなかった、と思いコボルトの嚙みつきを腕でガードしたらコボルトの歯が折れて変な空気になったことぐらいだろうか。防御力120は伊達じゃないって事が分かった。

 【竜体】とあるぐらいだから体に鱗でも生えたのかと思って前に3人に見てもらったけど普通に人の柔肌だった。

 体に竜の鱗があったらカッコイイと思ったんだけどね……、と考えながらダンジョンの外に出るとニュースとかでよく見る報道陣の群れが私たちを取り囲んだ。

 

「『銀の聖女』さん! 先ほどの番組で『開拓者』から言われていましたが、どうお考えですか!?」


 3人に視線を送る。嫌そうな顔をしているので誰かが呼んだわけではなさそうだ。

 沙耶が私の服の裾を引っ張って耳打ちした。

 

「お姉ちゃん、ネットに目撃情報の書き込みが上がってる」

「……そうなんだ。林さんに報告して後でお礼参りに行かないとね」


 報道陣に聞こえないぐらいの小さな声で沙耶と会話する。

 内緒話をしていると痺れを切らせたのか大きな声で聞いてきた。

 

「沈黙は肯定と受け取っていいんですか!? 『銀の聖女』さん、お答えください!!」

「貴女、少しばかり無礼が過ぎるよ?」


 詰め寄ってきた報道陣の1人に【竜の威圧】を浴びせる。

 ガタガタと震えてその場に座り込んでしまった。スキルを切らないでそのまま他の報道陣へ言おう。

 

「番組がー、って言ってるけどさ……私自体、『開拓者』って名前のパーティーを知ったのは今日のその番組なんだよね。人の事をどう言おうと私は気にしないけど、会ったことも話したこともない人を悪し様に言うのは良くないと思う」


 そう言って【竜の威圧】を強める。報道陣が騒めき立ち、自然と私たちの前の人が避けて道ができた。

 詰め寄ってきて至近距離でスキルを浴びせてしまったお姉さんにハンカチを渡すためにお姉さんの方を向いてポーチに手を伸ばす。

 

「ごめんね、怖かったよね」

「すみませんでした!! どうか命だけは……」


 スキルのせいで勘違いをしているようだ。ハンカチを渡して立ち去ろう。

 

「えっ、あの? ハンカチ?」

「うん。それで粗相しちゃったのを拭くといいよ……」


 座り込んでいるお姉さんの地面には水たまりにも似た何かが出来上がっていた。

 自覚したのか顔が真っ赤になった。無礼だったと言っても悪いことをしちゃったなぁ、と思いつつ私たちはその場を去った。

 

 翌日。沙耶が大急ぎで私を叩き起こした。

 

「お姉ちゃん! 起きて!!」

「なに……? ねむいんだけど……」

「昨日のがネットニュースになってる!!」


 渡された携帯の画面を見ると私の写真と一緒にネットニュースの見出しが載っていた。

 何々……? 『銀の聖女』「『開拓者』なんて眼中になかった」とか、『銀の聖女』が『開拓者』のモラルの無さを指摘。などの記事が沢山上がっていた。


「えぇ……? そんなに騒ぐ事なの……?」


 ぽつり、と疑問を零した。

 心底面倒くさいなぁ、と思いながら私は朝食を作るために体を起こした。

 

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