43話--神に物申す--


 遺跡のダンジョンで魔族と戦ってから3ヶ月が過ぎた。

 1ヶ月前、世界に覚醒する方法が公開されてダンジョンに関する情報も公開され、そこから色々と仕組みが出来上がった。対策本部は名前を変えてハンター協会と名乗るようになりハンターとなった者に金貨――ゴールドで物が買えるように専用の端末が支給された。先払いの電子決済のような感じだ。

 次に、ハンター専用のネット通販ができた。単価はゴールドで売られているものはダンジョンから出てきた物……つまり、回復薬やモンスターの素材。武器や防具、魔石などが売られている。

 珍しい武器や技能書は高いようだ。

 ……高いと言っても数百ゴールドぐらいだ。4000万ゴールド以上ある私からすれば痒くもない。珍しい素材や回復薬などを買い漁っていたら沙耶に「使いもしないのに溜め込むな」と叱られた。

 

 これから小森ちゃん、七海、沙耶と私の4人で隊列を組んでやっていくことを考えるとアパートでは少々狭いため郊外に大きめの家を買った。

 何の相談もなしに買ったので全員に怒られたが数万ゴールドで払えたので私の懐は傷んでいない。

 庭もあり、個人個人の部屋もあり、寛げる大きなリビングに部屋一つがベッドとなっている寝室。これから皆でやっていくつもりだと告げると渋々納得してくれた。

 小森ちゃんの両親にも承諾を取っており、七海は実家が嫌で一人暮らしをしている身だから、と言って挨拶をさせてくれなかった。

 

 もう少しダンジョンの攻略が進むと大人数で徒党を組む『クラン』などが出てくる。

 俗に言う派閥争いのようなものだ。

 回帰前ではどこにも属していなかったから今回もクランに所属するつもりはない。

 他には隊列単位でダンジョンに入るために隊列名を協会に登録するのだが……沙耶が私の名前を使って勝手に登録用紙を相田さんに渡していたようで名前が既に決まっている。

 

「沙耶、隊列名の『銀の聖女』ってさ、もっといい名前無かったの……?」


 ちっ、ちっ、ちっ、と言いながら人差し指を横に振る沙耶。

 七海と小森ちゃんも首を横に振っている。

 

「分かってないなぁ、お姉ちゃん。いいダンジョンに入るにはこれからは知名度が必要なんだよ?」

「そうっすよ、先輩。知名度が必要なら新しく得る必要はないっす。ミノタウロスを倒したときの名声を利用すればいいっす」


 沙耶と七海がそう言った。

 私としては普通にダンジョンの攻略をしていれば……と思ったが回帰前の私は報酬を気にしないで行けるダンジョン全てを休みなしで攻略して気が付いたら名声が付いていたんだった。

 あの時ほどダンジョンの攻略をすることはできないから2人の言っていることが正しいのだろうか……?

 

「でも協会に行くたびに中に居る人に変な視線向けられるのは勘弁してほしいなぁ……」

「それは、有名税ってやつですね……」


 最初から対策本部……協会を手伝っていたからか、私たちのレベルはダントツに高い。

 私以外の3人はレベルを公表していて、リーダーである私のレベルが世間で推察されているそうだ。

 3人が45レベル前後であるところから一番の有力説は55レベルほど、だと言っていた。本当は71だ。沙耶たちとレベルが離れてしまっているのには訳がある。

 急に魔力が増えたことで制御が甘くなってしまっていて【竜の威圧】のスキルが常時発動してしまっていたのだ。

 そうすると何が起きるか、ゴブリンやスライムなどのモンスターが私を見て一目散に逃げるんだ。そのせいで3人のレベル上げにならず、私一人でダンジョンを回っていたのだ。

 今は鍛錬して魔力の制御と力加減を完璧にしたので普通に3人とダンジョンに行っている。

 

「本来ならもう一人前衛とタンクで6人で組むのが好ましいんだけどね」

「これ以上増やすの……!? え、もしかして2部屋空いているのってもしかしてソレを想定して……??」

「そうだよ。フルで組めれば隊列は本当に楽だしね」


 私がそう言うと3人が秘密会議を始めた。こうなると長いので私は庭で素振りでもしてこよう。

 最近は素振りをしながら【八閃花】を展開して自在に動かそうと企んでいる。技能名を唱えたときに魔力を放出しきるのではなく、少し残して私と繋げておくことで操作できることが分かった。

 難易度は非常に高く、満足に動かすことすらできていない。

 

「まぁ、手に握っている1本の剣すら完璧に操れないんだから難しいよなぁ」

『戦の神が貴女を応援しています』


 急に出てくる青い画面にも慣れてきた。何かメッセージを送ってくる神々はいつも通りの面々だ。

 暇なのだろうか……。

 剣を振るのを止めて芝生に寝転がる。このまま皆でダンジョンを攻略して、のんびり暮らすのも悪くない……悪くないのだが私が勇者たちに嵌められたことがどうしても心に引っかかる。

 世情に疎かったのが悔やまれる……。

 

『魔族を討った褒美を神々が決め終えました。魔族の魔石と引き換えに3つまで質問する権利が貴女に付与されました。有効期限は今から1時間以内です』

「――は?」


 確かに出現した青い画面。この画面に魔石を押し当てると回収されて神々に質問できるそうだ。そのように書いてある。

 急いでポーチに入っているアイテム袋から魔族の魔石を取り出して押し当てた。

 すると、魔石が消えて青い画面が出てきた。

 

『答えられる範囲で回答します』

「……1つ目だ。勇者たちは、本心から――私を殺したのか?」

『全能の神である私が回答しましょう。本心であり本心でない状態でした』


 【全知】と同じ声をした全能の神の声が頭に直接響いて私の質問に答えた。

 本心であって本心でない状態……? それは、一体……。

 

『分かりやすく言えば高度な洗脳状態にありました。とある魔族の手によって、勇者パーティーは自分たちより強い人族を排除することが正しい勇者の在り方だ。と、刷り込まれていた……と、言えば分かるでしょうか』


 全能の神から告げられた事実に頭の処理が追い付かない。

 勇者パーティーは洗脳されていて、その犯人が魔族で……。

 

「魔族とは、一体、なんなのだ……?」

『その質問には叡智の神である僕が回答しますよ。魔族とは我々が設計した世界改変システムの運営者によって選定された下請けです。運営者とは魔族を統べしm――』

 

 叡智の神からの声にノイズが入って聞き取れなくなった。

 しばらくしてノイズが収まると青い画面が出てきた。

 

『運営者より音声接続が制御されました。残る質問可能数は1つです』

 

 早速、運営者とやらが介入してきたようだ。

 完全に理解することは敵わなかったが聞きたいことは聞けた。

 全ての元凶は魔族の上に居る存在、という事だ。私のやるべきことができた。もっと強くなって回帰前の私が死んだ元凶を叩きのめす。

 そうと決まれば鍛錬あるのみだ。

 

『残る質問可能数は1つです』


 執拗に青い画面が私の前に出てくる。気になる質問はできたし、深く考えすぎるのは私らしくないから余計なことは知りたくない。

 あぁ、そうだ。1つだけ私が回帰してからずっと疑問だったことがあったんだ。

 

「私を、女にして回帰させたことについて物申させてほs――」

『全能の神が両手を肩まで上げて首を横に振ります』

『戦の神が諦めを促します』

『愛の神がそのままの貴女で良いと首を縦に振ります』

『叡智の神と賭博の神が指をさして笑っています』


 食い気味に青い画面が出現する。

 取り付く島もなしかっ! くそったれ!

 ――あぁ、いいさ。もう諦めてこのまま生きてやる!!

 

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