42話--ダンジョン攻略後--
ダンジョンが崩壊して外に出ると大勢の自衛官が私たちを囲むようにして立っていた。
自衛官の人混みを割って相田さんが出てきた。
「嬢ちゃん! 無事だったのか!」
「無事だけど元気ではないよ……」
「生きていて本当に良かった。嬢ちゃんたちが入った後、ゲートの大きさが変わったと聞いたときは老いぼれの先短い儂の心臓が止まるかと思ったぞ」
ゲートの大きさは難易度を示す。私が相田さんに言ったことだ。
相田さん曰く私たちがダンジョンに入ってからゲートの大きさが10mほどまで大きくなったそうだ。気を利かせてくれて状況の確認は後日でいい、と言ってくれた。
遠慮せずに今日は家に帰ろう。
相田さんが用意してくれた車に乗って家まで送ってもらった。家に帰るや否や全員が脱衣所に駆け込んだ。
すし詰め状態になる脱衣所。小森ちゃんがじゃんけんで入る順番を決めようと言って皆がそれを承諾した。
じゃんけんで敗北を喫した私は一番最後になってしまった。まあ、後の人に気を遣わなくていい。と考えれば最後でも良かったのかもしれない。
「スキルの確認をしておく、か……?」
能力値を思い浮かべるがレベルが52になっている。後はスキルの数が減って、【全知】と【剣術】、【竜の威圧】だけになっている。
『回答します。先ほど獲得した【竜骨】と【竜体】は器に適用されており常時発動状態です。【竜の心臓】も同様になります』
それぞれの確認はできないのか、と思っていると詳細が頭に浮かんだ。
スキル名:【竜骨】
効果:古代竜の骨を基にしている。人骨と比べて強度の次元が違う
スキル名:【竜体】
効果:古代竜の魔力に耐えるために体が細胞単位で変化した。高い防御力を誇り強靭に。超高出力の魔力にも耐えうる。
スキル名:【竜の心臓】
効果:古代竜の魔石を取り入れたことで本来あった魔石が変質した。人族の魔石とは違い限界が存在せず際限なく魔力を取り込むことができる。
スキル名:【竜の威圧】
効果:全てのモンスターの頂点に君臨する竜の存在感を放出できる。下位のモンスターはあまりの恐怖に意識を手放す。影響を与える範囲は消費した魔力に比例する。
思っていた以上の効果だ。驚きのあまり口が開いてしまった。
【竜の威圧】は実際に古代竜と戦ったときに肌で感じたことがある。体の芯が凍り付くような恐怖に襲われ、その場から逃げ出したくなるほどだった。
興奮薬で一種の覚醒状態になって恐怖を感じなくして立ち向かったいい思い出だ。
……そういえば魔族との戦闘中になかったはずの剣が手に握られていたのはスキルではないのか?
『【竜骨】を構成するときに剣を持っている貴女が対象となりました。つまり、貴女が剣であり鞘です』
「私の足りない頭では理解に乏しいのだが……魔力を流せばいつでも剣を取り出せるという事か?」
『その認識で問題ありません。右手に魔力を流せば剣が生成され、消そうと思えば剣を構築していた魔力は魔石へ戻ります』
それは非常に便利だな。剣を持ち歩かなくて済めばアイテム袋にも余裕ができる。
しばらく考え込んでいると風呂の順番がやってきた。考え事は一旦置いて湯に浸かってのんびりするとしよう。
風呂から上がった後、寝るための身支度をした私たちはベッドに飛び込んで泥のように眠った。
私が完全に目覚めたのは2日後だった。ずっと寝ていたわけでもなく、起きては寝てを繰り返し2日も惰眠を貪っていた。
3人も同様で終始寝ていた。起こすのも忍びないため、身支度を整えて音を立てずに家を出た。対策本部へ電話をして迎えに来てもらうように伝える。
しばらく待つと車がやってきて中から黒服が出てきた。
促されるまま、車に乗って対策本部へ。前回通された部屋に案内されて中に入ると相田さんと林さんが居た。
「よう、嬢ちゃん。この前ぶりだな」
「おはよう、相田さんと林さん」
挨拶を交わして席に座る。相田さんが早速、と今回の本題を話し始めた。
ダンジョンの中で何があったのか。対策本部の人間だけでもダンジョンが攻略できたこと。そして、覚醒の方法を一般人へと公開するための原案を見せてもらった。
内容が間違いないかの確認だ。
「大丈夫だと思う」
「ありがとう。嬢ちゃんは疲れてると思うから、後5日は儂ら本部でダンジョンはどうにかしよう」
「助かったよ。色々あって体の感覚が変わっちゃったから調整が必要でさ……」
起きてから気が付いたが遺跡のダンジョンから出てから、力加減と繊細な動きに問題が出ている。
今まで通りに物を触ると壊してしまうぐらいには日常生活にも支障が出ていた。常に気を張っていないと破壊してしまう。
体を慣らさないといけないようだ。
ダンジョンに行って慣らしてもいいが、皆を連れて実家でのんびりしながら療養しようと思っている。
3人の表面上の傷は治ってもボロボロになるまで痛めつけられた心の傷はそう簡単に治らないからね。
それに、母さんも話し相手が増えてうれしいだろう。
原案を詰め終えて黒服の人に送ってもらった。
家に帰ると全身筋肉痛でくたばっている3人がソファに座っていた。
錆びついた機械のように私の方へ歩いてくる。
「おかえり」
「おかえりっす」
「おかえりなさい……」
「うん、ただいま」
ダンジョン以降、うまく話せてなかったが心のしこりが取れたかのように皆で談笑をした。
私が遺跡に突っ込んだ後に起きたこと、全員で奮戦したけど駄目だったこと。死線を超えて皆が成長したこと。
非常に辛いことだったが笑い話にできるぐらいには整理がついたようだ。
話している途中で賑やかしに来たのかベランダの網戸に張り付いて鳴き始めた蝉に笑いを零して本当の意味で私たちの遺跡ダンジョンの攻略は終わったんだ、と実感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます