41話--終幕--


 魔石を飲み込んだ瞬間、私の内側から経験したことのない大量の魔力が噴き出した。その魔力を利用して……【再生】を――。

 

『警告。強すぎる魔力に器が耐えきれません。解決策を検索中…………スキル名:【進化】と【合成】を器に使うことを承認してください』


 内側から破裂するかのような痛みが全身を襲う。【再生】で治す以上にダメージを負っている、のか。

 視界が赤く滲み、何かが頬を伝った。【全知】が何か言っているが今の私に思案している時間などない。少しでも可能性があるなら……。

 

「……しょう、にんする」

『器からスキル行使権が付与されました。【全知】を【進化】します――【全知全能】へ進化……失敗しました。資源リソースが足りません。【決して小さくない加護】と【祝福】を【全知】へ【合成】します』

『成功しました。【全知全能】を獲得……該当スキルは神の権能のため制限時間があります。時間経過後【全知全能】は【全知】に戻ります。残り30秒です』

『【再生】を【進化】します。【高速再生】へ進化しました。残り28秒です』


 承認した後の出来事は意識が朦朧としていたため聞き取ることは出来なかった。

 急に体が軽くなる。噴き出していた血が消え、痛みが引いていく。


『古代竜の魔石を器の魔石に【合成】……成功しました。【竜の心臓ドラゴンハート】を取得しました。残り25秒です』

『【怪力】と【剛腕】と【高速再生】を器へ【合成】……失敗。古代竜の剣と鞘を追加、再合成します。残り20秒です』


 胸の中心に気を失いそうなほどの痛みが走った。左手を当てて耐えていると私の右手から剣が消えた。

 機械音声に近かった【全知】の声ではないことに今気が付いた。

 【全知】が言うに【合成】に使っているのか?

 

『大成功しました。【竜骨】と【竜体】を獲得。器に適用します。残り15秒です』


 矢継ぎ早に【全知】が告げる。全身が燃えるような痛みに包まれる。

 実際に燃えているのではないか、と錯覚するほどで腕を見ると発光していた。

 沙耶の方へ歩いていた魔族が歩みを止めて私を見ているのが分かった。

 

『【王の威圧】が竜の魔力によって【進化】しました。【竜の威圧】を獲得しました。残り5秒です』

「なっ、何なんですカッッッ!? その力ハ!!」

『【全知全能】を終了します。神は貴女を――』

「……ありがとう、【全知】」


 この絶望的な状況をどうにかしてくれた【全知】に礼を言って顔を上げる。

 ……見える。魔力の流れが、空気の流れが。今まで見ることが適わなかった些細なものまで目に映っていた。

 魔族に目を向けると魔族が一歩後退った。

 

「何故、何故ッッ!! 貴女から偉大なる竜の力を感じル!?」

「うるさいよ」


 一瞬で魔族の懐へ接近し、顔を掴んで遺跡の方に全力で投げる。

 腕を振って魔力を操作……できる。炎を集めて握って消す。

 後ろで物音がした。

 

「せっ、先輩……申し訳、ないっす……」

「大丈夫。後は任せて」


 七海の頭を撫でて人数分の回復薬を渡して踵を返す。

 遺跡の方へ戻ると魔族が瓦礫を飛ばしてきた。剣で――そうだ。消えたのか、と自身の手に目をやるとさっきまで使っていた剣が握られていた。

 疑問に思ったが、考えている暇ない。瓦礫を細切れにして霧散させる。

 

「そノ太刀筋……まさか、貴女ハ!」

「終わりにしようか」

「剣聖、と呼ばれた事があるでしょウ!? 今ではなク! 未来デ!!!」

「私が何て呼ばれていたか、どうでもいいんだ」


 魔族が展開しようとした魔法を全て斬り裂いて魔族へ歩みを進める。

 一歩、一歩と近づくと魔族も同じように後退する。いたちごっこのように思えたが終わりが来た。

 出入り口にあった土の壁が魔族の後退を遮った。

 

「何故ッ、ここに土ガ!? 待ちましょウ、剣聖。貴女も管理者共に煮え湯を飲まされてイるのでしょウ!?」

「そうだね。急に過去に戻ったと思ったら女になってたし……でもね、それとこれは話が別」


 動けないように魔族の足を斬り落とす。

 片腕で這って私から離れようとする魔族を足で抑えて剣を振りかぶる。

 

「お前は私の守る人を……大切な人を傷つけたんだ」


 剣を、振り下ろす。2つに斬り裂かれた魔族と共に音声が流れた。

 

『完全討伐報酬を挑戦者たちに送ります』


 魔族の魔石を回収して沙耶たちの方へ、駆けた。

 ダンジョンの攻略が終わって気が抜けたのか忘れてきた疲労が一気にやってきた。

 そこまで距離は無いのに息が上がり、汗が垂れる。

 3人が見えた。

 起き上がろうとしている沙耶の周りに座っている七海と小森ちゃん。

 走って近づいている私に気が付いたのか3人ともこっちを見た。

 

 息を整えて倒れている沙耶に手を伸ばして――。

 

 

「――ほら、帰るよ」


 

 

 泣いて声にならない声を上げ、返事をする沙耶を引っ張って起き上がらせて、そっと抱きしめた。

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