40話--魔族--


 【神速】を使ってキングを倒していく。ロードは動くことなく遺跡の入り口で、じっと私を見ている。

 絡みつくような魔力と殺気……想像以上に精神が疲弊していくのが分かった。

 4匹のキングを倒すとロードが動き出した。

 

「人族、娘、予言通リ」


 私を指さしてロードが言った。ゴブリンたちが使う言葉ではなく、日本語で。

 剣を構えて動きを注視しているとロードは私の後ろに目線を送った。

 ――まさかっ!?

 

「人族、一人、違ウ。アッチ、弱イ」

「【八閃花】!! 咲けっっ!!」


 3人の方へ目線を送っていることに気がついた瞬間、無意識に体が動いていた。

 ロードに向かって放った【八閃花】はどこからか取り出した剣に全て防がれた。

 これは出し惜しみをしている場合じゃない――。

 剣での打ち合いになる。ロードがニヤリと笑った。

 

「人族、我。アッチ、主」


 他にも居るというのか!? 3人が危ない。

 早急にコイツを倒さないと――。

 

「リスクが分からないから使いたくなかったんだけど……」

「――ガァッ!?」


 ロードの腕が宙を舞う。

 一瞬しか使っていないけど私の魔力が底をつきかけるほど無くなった。

 虚脱感と全身に走る痛みで膝を着く。

 

「人族ッ!! 何ヲシタ!!」


 片腕が無くなったロードが私に向かって叫んだ。

 明らかに動揺しているのが見て取れたが、片膝を着いている私を見て平静を取り戻して醜く顔を歪ませた。


「自滅覚悟デ我ノ片腕ヲ……ダガ、ココマデダ」


 ロードが私の方へと歩いてくる。

 私は動けないでいた……いや、動く必要がなかった。

 だって――。

 

「もう、斬ってるからね」

「ゲギャ……?」


 ロードに全身に刃が通った跡が浮かび上がり、細かな肉片となってその場に崩れ落ちた。

 私がしたことは恐ろしい速さで斬った。それだけだった。ロードの魔石を口に運び魔力を回復させて【再生】で全身の肉離れを治す。

 少し前に沙耶に多重詠唱を説明していたときに疑問に思ったんだ。技能を多重で使えるのは【魔法】スキル持ちだけしか出来ないのだろうか? と。


 結論を言うと私でもできた。ただ、魔力の制御が尋常じゃないほど難しく……例えるなら左手で日本語の書類を書いて右手で全く別の書類を英語で書くようなものだ。

 膨大な魔力を消費して僅かな時間だけ【神速】を2重で発動することができた。試したときは発動しただけで動いてはおらず、動くのはぶっつけ本番だった。

 案の定、動きに体が追い付かず全身の筋肉が切れた。【再生】スキルがなかったら動けていないだろう。


「油断してくれてて助かった……」

『スキル名:【進化】とスキル名:【合成】、スキル名:【王の威圧】を取得しました』


 そうだ、ロードのスキル……。非常に気になるが今は確認なんてしてる場合じゃない。

 完全に治りきってはいないけど、走れはする。

 宝箱をそのままアイテム袋に入れて、急いで3人が居る方へ駆けだした。


 到着するとそこには無数の矢と燃えている木々が目に映った。

 浅黒い肌をしている者の足元に七海と小森ちゃんが倒れており、沙耶が首を掴まれて宙吊りになっていた。

 

「貴様ァ!!」


 沙耶を掴んでいる奴に斬りかかるが杖で防がれる。

 続けて連撃を加えるが全て防がれた。

 

「おヤ。貴女がここに来たという事は我が子は死んだという事ですネ」

「お前はっ……!」


 話し声と顔を見て思い出した。

 コイツは私が初めて会った魔族――。

 

「さっさとその手を離せっ!!!」

「おオ、怖い怖イ。ふム、この娘は貴女の血族カ。この娘も、貴女もココで殺しては勿体ないですネ……」


 魔族の男が手を離して沙耶を宙に浮かせている。

 治っていないが、今なら!

 【神速】を2重詠唱して斬りかかる。魔族の男の目が見開いたのが分かった。

 それと同時に何重にも重なった金属音が響き渡った。

 

「これを、防ぐのか……」

「今のハ、焦りましたネ。貴女の成長速度、やはり狂ってるんバグじゃないんですかネ?」

「ぐっ……は、何を言って……」


 体が耐え切れず吐血した。魔族の男は攻撃をしてこない。

 残りの魔力を【再生】スキルに使い、急いで治しているが……時間が足りない。

 軋む体に鞭をうって無理やり動かす。ぶち、ぶちと嫌な音が聞こえる。

 

「返せ……沙耶を、返せッッ!!」


 ありったけの力を込めた一撃は魔族の男の杖を切断し、腕を斬り飛ばした。

 狼狽える魔族。宙に浮いていた沙耶が地面に落ちた。

 あぁ、良かっ――。

 

「このクソ下等生物メ!! そんなに死にたいなら殺してやりますヨ!!」

「かはっ……」


 魔族の蹴りが倒れかけていた私の腹に突き刺さった。後ろに吹き飛び、木に叩きつけられ止まった。

 のたうち回りたくなる苦しみと痛みが止めどなく押し寄せる。

 私の首を掴んで魔族が持ち上げた。

 

「貴女ハ、楽に殺しませン。そウだ、貴女の隊列の下等生物ヲ調理しテ貴女に食わセまス。貴女ガ壊れていく様が楽しみですネ!!」


 そう言って魔族は私を地面に叩きつけて私から離れていった。

 ――もう、魔力も残ってない。腕は……辛うじて動くぐらいか……。

 どさっ、と私の顔の横に何かが落ちた。アイテム袋だ。あぁ、さっきの拍子でポーチから飛び出てしまったのか……。

 気を失っている沙耶へと歩みを進める魔族。どうしてか、アイテム袋から目が離せないでいた。

 刹那、私の頭に記憶が蘇った。

 

「古代竜の……魔石……」

『警告、その行動は推奨できません。魔石の魔力に対して器が耐えきれない可能性があります。魔力に耐えられずスキルが獲得できずに体が崩壊して死ぬ可能性が30%、魔力過多による暴走状態に陥り意識が戻らない可能性が60%。無事に成功する確率は10%です』


 何もしないで、死ぬよりマシだ。

 どうせ死ぬなら抗って死のう。私に迷いはなかった。

 拳ほどある古代竜の魔石を取り出して舌に当てて、液状化した魔石を――飲み込んだ。

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