37話--作戦会議--
沙耶たちに気が付かれないように心の中で舌打ちをした。
遺跡タイプのゴブリンのダンジョンで、ここまで発展していると面倒だ。ゴブリン全体に革鎧などの装備が行き届いている。
統率も取れているのが見て取れるので至るところに罠も仕掛けてあるだろう。洞窟タイプのダンジョンの罠とは違うしっかりとした罠が。
「コレはちょっと困ったなぁ」
「いつも通り突っ込んで殲滅じゃダメなんすか?」
「ダメだね。遺跡タイプは逃げ道を潰してからじゃないと殲滅したと思ってもボスが逃げてて、最悪だとメスと逃げたボスが子供増やして再度襲撃してくるなんてことがあるよ」
ゴブリンは生存を優先するが遺跡タイプだけは違って、ボスを殺させないように配下が動くようになる。
ボスさえ生きていればダンジョンは消えないから倒すまで私たちはダンジョン内に幽閉されることになる。回帰前はダンジョンに入って1週間音沙汰がなければ死んだとして次のハンターに入る権利が与えられていた。
死んだと思ってダンジョンに入ったらダンジョン内で生き延びていたなんてよくある話だ。
幸い、私のアイテム袋に大量の携帯食料と水が入っているので4人でも20日は耐えれる。
「ボスを倒さないとダンジョンは終わらないんですよね……?」
「そうだね、だから時間をかけて戦力を削ってボスが逃げれないようにして攻略するしかないよ。失敗したら最悪の場合……」
3人が息を吞んだ。勉強会と称してモンスターの特徴や弱点などを色々と教えているため、ゴブリンに捕まった女ハンターがどうなるか。は想像に難くない。
覚醒が現代に浸透していない今、捕まったら助けなんて来ず一生をココで終えるだろう。
「そうならないためにも作戦を練ろうか。初の長期戦だけど頑張ろう」
「入った以上、やるしかないっすね! まずは何からするべきっすか?」
「まずは――」
順を追って説明する。ゴブリンは人間より鼻が利くためそこら辺にある草を潰して匂いを消すこと。ダンジョンにも昼と夜はあるけれど月はないため夜になると真っ暗で何も見えなくなること。
見えないのはゴブリンも同じで、夜は七海に見張りを射ってもらう事。昼は沙耶に定期的に遺跡に向かって【土槍】を撃ってもらう事。
必ず2人以上で行動すること。
「この作戦は七海が肝だから頑張ってね」
「うっす! とりあえずウチは夜にゴブリンで的当てすればいいんすよね?」
「そうだね、寄ってきたゴブリンも全部やっちゃっていいから」
「でも、沢山殺したらゴブリンも気付くんじゃないの?」
沙耶が私に質問してきた。作戦に疑問を持ってちゃんと質問をするのはとてもいい傾向だ。
言われたことを妄信的にするだけでは意味がないからね。
「いい質問だね。ゴブリンが弓を使うのは知ってるよね?」
「うん。この前お姉ちゃんから聞いたよ」
「ゴブリンの知能は低い、と言っても損得勘定はできるんだ。七海が使う矢は私が全力で斬りつけても曲がりもしない超一級品なんだよ」
「えっ、ウチそんなの使ってたんすか!?」
七海が驚く。古代竜の弓と矢はセットで使ってこそ意味がある装備だ、と作ってくれたおっちゃんが言っていた。
古代竜の弓で古代竜の矢を射ることで矢にしなりが生まれるそうだ。セットで使わないと超硬い矢になり、全くしなりもしないそうだ。
私は剣しか触ってこなかったので非常に詳しく説明してくれていたが聞く耳を持ってなかった回帰前の私を殴りたい。誰かに使わせるならちゃんと聞いておくべきだった……曖昧なのもそのせいだ。
「じゃあ、貴重だから【回収】は都度使わないと駄目っすね……」
「逆だよ。【回収】は私がいいって言うまで絶対に使っちゃダメ」
首を傾げる3人に説明をする。
暗い中で【回収】を見たことない3人には分からないけれど、【回収】を使うと矢筒がほんのり発光する。一寸先も見えない暗闇の中で光を灯すことはやってはいけないことだ。
それと、ゴブリンは死んだハンターなどの装備品を奪って使う。高いものは本能的に分かるらしい。
「さて、ここで質問。本能的に矢が尋常じゃなくいいモノって分かっていて夜に見張りを出すとソレが手に入る。でも1本につきゴブリンは1匹死ぬ。どっちを優先するだろうね」
「まさか……矢1本のために味方を……?」
「そのまさかなんだよね。生まれてから2日で戦えるようになるゴブリンの命の価値は非常に低いんだ」
実際、回帰前に隊列を組んでいた時にやった作戦だ。夜に矢を射って【回収】は使わない。
ゴブリンに矢を拾わせて私たちが襲撃するときに使ってゴブリンが拾った矢を【回収】してゴブリンが射る矢を無くす。
単純な作戦だけど価値の高いものに目がないゴブリンには有効的な作戦だ。あとは夜に矢を射った時にゴブリンの反応を見るだけだ。
「そんな簡単に行くんすかね?」
「完璧に作戦通りとはいかないだろうけど、大切なのは私たちが乗り込むときに混乱させることだから絶対に作戦を成功させないといけないって事じゃないから……」
回帰前に一人で遺跡タイプを攻略したこともあったけど、あれは戦略というには程遠いからなぁ。
【神速】で突っ込んで動くものすべてを斬るだけ。そう考えると回帰前の私は無茶をしてたんだなぁ、と思う。今の私にはそれだけの力がないし、信頼できる仲間もいるんだ。
「昼の間は周囲にあるの中で息を潜めて行動して、不自然な場所があったら夕方に皆で共有。栄養補給してから少し寝て完全な夜になったら行動開始だね」
「つまり、野宿ってことですか……?」
「そうだね。今後することも増えてくるだろうから今のうちから慣れておこう?」
こんなことになるならアイテム袋にテント一式を入れておけばよかった。今回は木の上で寝るしかない、か。
私は回帰前でよくやっていたから大丈夫だとは思うけど3人は大丈夫かな……?
「私、野宿は初めてかも」
「ウチもっす。なんだか楽しそうっすね!」
明かりのない野宿は辛いぞ。という事だけ3人に伝えておくとしよう……。
見張り役は私がやるけれど音を立てずに耳だけを頼りに見張りをしないといけないからね。
「じゃあ、今日は皆で動いて何をするか説明しながら過ごそうか」
「はーい」
遺跡と言っても見た目は砦に近い。4方向に出入口があって4隅と出入口に見張りが居る。
森の中から出入口に【土槍】が届くか沙耶に聞いた。
「森の中から飛ばすの? 一応、この辺から出入口までの距離なら届くと思うけど……気づかれちゃわない?」
「出入口の真上に魔法陣を展開してそこから落とせればベストなんだけど、できそう?」
「200mぐらいあるよね……うん。やってみるよ!」
それでこそ私の自慢の妹だ。頭を撫でると沙耶が集中し始めた。
色々と私の見ていないところで練習をしているそうで上達が早い。沙耶が小さく息を吸って技能名を唱えた。
「【土槍】」
見えている出入口の真上に土で出来た槍――と言っても直径1mほどのひし形の土――が7本出現して、勢いよく落ちた。
事前に出入口は破壊せずに塞ぐように、と言ってある。
土煙が晴れるとそこには土で完全に塞がれた出入口があった。
肩で息をしている沙耶を抱きしめて褒め称える。
「流石だよ。完璧。ありがとうね」
「へっ、へへへ……」
これを明日と明後日もやって3方向を塞ぐ。残り1方向になったら戦いの開始だ。
小森ちゃんが不思議そうに塞がれた出入口を見て首を傾げた。
「橘さん、これって穴掘ったりして破壊されたりしないんですか?」
もっともな疑問だ。私も回帰前で隊列のメンバーに同じ質問をした。
「土系の魔法技能は使用者の攻撃力が土自体の防御力になるんだ。沙耶の攻撃力は杖のおかげで格段に上がってるからね、ゴブリンの攻撃じゃ傷もつかないよ」
「そうなんですね……ありがとうございます!」
信じがたいが本当の事だ。
ゴブリン達が襲撃された、という事実に気が付くのはまだ先だけれど今のうちにこの場から退散しよう。
魔力を大量に消費したからかフラフラと歩く沙耶。
休んでもらう意も込めて無理やり背負って私たちは森の奥へと歩みを進めた。
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