36話--帰宅と遺跡--


 私は今、とても煮え切らない表情で歩いているのだろう。

 ダンジョンに入って手ぶらで帰されたのだ。ゲートが閉じたことによってゲートがあった場所には宝箱が申し訳なさそうに置かれていた。

 中身を確認すると試験管に入った血、青色の髪の束、金貨と魔石が入っていた。試験管と髪の束を持って呟く。


「なんなんだ、これ……」

『回答します。アイテム名:魔族の血。アイテム名:魔族の髪、です。どちらも装備作成する際に触媒とすることで非常に高い効果を発揮します』


 色的に先ほど対峙した魔族の少女――カレンの髪だろう。本当に魔族が何をしたいのかが分からなくなってきた。

 髪と血を送るって、嫌がらせ以外何物でもない。でも、触媒として有能なものである。という事が私の収集癖を擽っている。捨てるべきか、取っておくべきか……。

 

「ま、まあ……装備が作れるほどダンジョンが世界に浸透したら必要になってくるし……?」


 自身を言い聞かせるように2つをポーチに収納した。気味が悪いが素材として使えるのなら仕方ない。

 金貨と魔石を本部の人に渡して車に戻ると虚ろな目をした沙耶と七海が起き上がっていた。

 

「戻ったよ」

「あぁ……お姉ちゃん……おかえり」

「っす……」


 魔力増加法が余程堪えたのか、いつも元気な2人が肩を落としている。

 小森ちゃんの方を見ると黙って首を横に振った。起きてからずっとこの調子のようだ。

 今日中に攻略しないと溢れてしまうダンジョンは攻略が終わっているので今日はもう帰るとしよう。

 私も変な魔族のせいで疲れてしまった。

 

 家に帰って風呂を沸かして1番に入った。風呂から上がると3人は床に突っ伏していた。

 私が上がるまでに魔力増加法をやったのだろう。

 

「へへっ……最初よりは痛くないや……」

「分かるっす。コレで強くなれるなら何度でもできるっす……」


 うつ伏せで器用に会話をしている沙耶と七海。小森ちゃんは私と入れ違いで風呂に入りに行った。

 沙耶と七海の目の前にダンジョンで手に入った技能書を置いて取得するように言う。

 小森ちゃんの技能書は……着替えの上においておこう。

 脱衣所の扉を開けると生まれたままの姿の小森ちゃんが居た。

 

「えっ?」

「ごめんね。コレ、小森ちゃんの分だから取得しといて」

「あっ、はい」


 何も言わずに開けた私が悪いが、堂々としていれば大丈夫なはず……。

 小森ちゃんの着替えの服の上に技能書を置いて脱衣所から立ち去る。

 風呂に入ってから結構眠くなってしまったので飯を食う前に少し寝よう。沙耶に全員の風呂が終わったら起こすように言ってベッドにダイブした。

 あぁ、疲れているときの布団ほど優しく包んでくれるものは無い――。

 

 

「お姉ちゃん、お風呂上がったよ」

「んぅ……ありがと……」


 沙耶に揺らされて睡眠から抜け出した。

 寝ぼけ眼で時計を確認すると私が寝てから1時間半が経過しているのが分かった。

 ――夕飯作らないと。

 フラフラ、と覚束ない足取りでキッチンへ向かう。頭はまだ完全に起ききっていないため深く物を考えられない。

 冷蔵庫を開けて一番最初に目についたものを手にとって確認する。漬けておいた鶏肉だ。唐揚げにしよう。

 メニューが決まってしまえば後は惰性で作れる。

 

「あれ、大丈夫っすかね?」

「包丁は使ってないから大丈夫だと思う……」

「わたし何か手伝おうかな」


 ソファに座っている3人が私を見てなにか言っている。

 大丈夫だ、問題ない。の意味を込めて親指を立てておく。コレで伝わるだろう。

 次第に頭も働き始めて鶏肉を揚げた。

 冷蔵庫にアロエがあったから食べ終えたらヨーグルトに和えて出そう。

 ……アロエなんて買ったっけな?

 

 唐揚げは大盛況で、すぐになくなってしまった。

 レモンをかけるか否かの戦争が起きないように小皿を用意して各自そこで追加調味料をつける場合はするようにした。

 私はそのまま食べる派だ。

 食後のデザートととしてヨーグルトを出し、口に運んだ。


『防御力が永続的に1上昇しました。今後、同じものを食しても効果は得られません』

「うわっ!?」


 気を抜いていたところに【全知】の声が聞こえたため、声を出して驚いてしまった。

 当然のごとく沙耶たちには聞こえていないので急に驚いた人を見る目で3人が私を見ている。何事もなかったな、よし。

 驚いたことを何も弁明せずに黙々と食べ進めた。

 食器を片付けてソファに腰掛ける。リストを手に取って明日の攻略するダンジョンでも決めよう……。

 

 

 

 

 ダンジョンを皆で攻略し始めて10日が経った。

 全員が役割を理解してきているからか、私が指示をしなくてもちゃんと動けるようになってきている。

 3人は1日の終わりに反省会をしているらしく、その甲斐があってか同じミスはしなくなった。私も反省会に参加しようと思ったら除け者にされてしまい、その日は枕を濡らした。

 ダンジョンの中では命が掛かっているからか口調が強くなりがちなので厳しく言ってしまうことも多々あった。

 私の愚痴も兼ねて反省会をしているのだろう、と考えると私が参加できないのも納得がいった。職場の上司が同期だけの飲み会に居ても気を遣うだけだって事と同じなのだろう。

 

「今皆、レベルいくつ?」

「私は22!」

「ウチは19っす」

「17です……」


 渋谷でミノタウロスを倒したときの私のレベルが21だった。私の場合は回帰した時の能力値1割があるから実質はレベル100とかではあったけど……。

 今は37レベルだ。朝のランニングと称してダンジョンを一人で攻略しに行ったりしてたからね……。

 好きなようにダンジョンを攻略できるのは今だけだから今のうちにやれるだけやっておかないといけない。

 覚醒する方法が一般に知られて通貨が変わり、ハンターが職業として成り立つとダンジョンは応募か依頼者から依頼を受けるか、もしくは購入制になってしまう。

 少し前までは完全に未知の存在だったのに慣れてしまえばそれで商売をしようと考えるのだから人ってとても逞しい思う。


「お姉ちゃんはいくつなの?」

「私は37だよ」

「嘘っすよね!? 一緒に攻略してるのに……先輩、まさかウチらの見ていないところでコソ練してるっすか?」

「……してないよ。ほら、次のダンジョンに早く行くよ」


 分が悪くなりそうだったから駆け足で次のダンジョンに向かう。

 最近は10分圏内であれば走って向かう事にしている。

 解毒薬も貯まってきたから全員のレベルが20になったら下水道ダンジョンを攻略しないといけないなぁ。回帰前の記憶だと2回目に溢れ出すと同時にゴブリンが地上に出てきた。

 本部が下水道を調査しているみたいだけど、全員が覚醒済みなわけではないので魔力が感じ取れずダンジョンの場所の特定が難航しているようだった。

 

 許可証を見せてダンジョンに入る。

 ――遺跡だ。

 

「皆、今までのダンジョンとは違うから気を引き締めてね」

「分かったよ、お姉ちゃん」


 遺跡が見える丘に移動し様子を伺う。やっぱり、ゴブリンが大量に住み着いてる遺跡だ。

 見張り番と待機、見回りに農耕まで。そこはもう1つの社会があるかのようであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る