34話--クリアと連続--


 ダンジョンの攻略が終わり、ボスの死骸の足元に宝箱が出現した。

 手招きして七海を呼んで開けてもらおう。

 回帰前はクリアの宝箱はボスにとどめを刺した者が開ける、ということが隊列を組んでいる者たちの暗黙の了解となっていた。

 今回もその慣例に従おう。

 

「七海がトドメ刺したんだから開けてみな」

「承知っす!」


 七海が勢いよく開けると宝箱の蓋が取れた。案外脆いことを伝え忘れた……。

 中には技能書と金貨、小さな魔石が数個入っていた。


「先輩! これなんすか?」


 技能書を持って七海が私に見せてくる。技能書の中身を確認すると【解析アナライズ】の技能書であることが分かった。

 【解析】は【支援】スキルの技能だ。七海に返して分かったことを伝える。

 

「【支援】のスキル持ちの技能だね、残念ながら七海には使えないよ」

「そうっすか……あ、でも【支援】なら小森ちゃんが使えるっすよね? あげるっす!」

「えぇっ……いいんですか!?」


 あげる、とは名ばかりに七海は小森ちゃんの胸元に押し込んだ。使えない物の押しつけの間違いではないだろうか。

 攻略したダンジョンが一定時間経つと崩壊することを理解している沙耶は黙々とコボルトの死骸から魔石を抜き取っていた。

 体感的には後5分ぐらいで崩壊してしまう。

 私もやらないと全部回収するのは厳しいな……。時間がないから3人に教えた方法ではないやり方で回収しよう。

 ……と言っても【剣術】のスキル持ちの私はナイフでも自身の攻撃力が適用されるので死骸の胸骨を切って手を突っ込まずに回収するだけだ。

 

 全員で魔石を回収しているとダンジョンが揺れた。崩壊の時間だ。

 屋外のダンジョンだと空に亀裂が入り、剥がれ落ちて暗闇が見える。不安になったのか3人が私の方へと集まってきた。

 私は慣れてしまったの微動だにせず崩壊を待った。1分もしないうちに視界が暗転すると報酬のアナウンスが流れる。


『コボルトリーダーの魔石とコボルトのククリナイフを獲得しました。ゲートが閉じた際に確認してください』


 ダンジョンの外に出て最初に飛び込んできたものは複数人の歓声と拍手だった。

 対策本部の面々が私たちが出てきたのを見て……というよりゲートが閉じていくのを見て歓声を上げていた。

 ゲートが消失すると相田さんが近づいてきた。


「この目で見るまで信じられんかったが、本当に消えるんだな……」

「まあ、見ないと分からないよね。はい、これ」


 ポーチに入っていたコンビニの袋に半分くらいの魔石と金貨を入れて相田さんに渡す。

 魔石が突き刺さって袋に穴が開いているが別にいいだろう。


「じゃあ、次行っていい?」

「あぁ……血塗れだが怪我とかはしてないのか?」

「全部返り血だから……腕のは魔石を取り出す解体をしたときにできたから気にしないで」

「分かった」


 手を振って私の車を止めた方へ向かう。

 少しすると後ろから声がした。

 

「嬢ちゃん! 本当にありがとう!」


 相田さんの声と共にその場に居た自衛官が敬礼をして私たちを見送った。

 素直に感謝の感情をぶつけられるのは照れくさいのでそそくさと車に向かった。

 車の中にあるタオルを濡らして手に着いた血を拭く。3人にも渡した。

 袖に着いた血は乾いてしまっているので放置だ。

 

「次行くよー」


 車に乗り込んで時間を確認するとダンジョンに入ってから1時間も経っていなかった。このペースなら今日は移動時間も含めて7件はいけそうだ。

 次のダンジョンは車で10分もかからない場所にある。

 さあ、行こうか。

 

 

 

 それから2件ほどダンジョンを攻略し4件目のダンジョンがある近くの駐車場に車を止めて、遅めの昼ご飯を食べていた。

 隠してはいるが3人の疲労が見て取れる。次のダンジョンは私一人かな。

 初日からへとへとに疲れるまでやってしまうと攻略が嫌になってしまうかもしれない。

 サンドイッチを口に詰め込んで車から降りる。私に続こうと3人が急いで食べようとしている。

 

「今回はいいよ、休んでて」

「でもっ――」

「無理して怪我されるより休んでもらった方がいいからさ。疲れが抜けるまで隊列で行くのは見送るよ」


 そう言って後部座席の扉を閉める。散歩気分でダンジョンに行ける私とは違って3人は常に気を張っていないといけない。

 その辺も考えるべきだったなぁ。と自分を戒める。次は私基準の無理なスケジュールは組まずに隊列前提のスケジュールで動こう。

 許可証を見せてゲートに触れる。

 今回はゴブリンか。

 

「なんか私一人で行くとゴブリンだなぁ」


 今日3人で行った時は最初がコボルトでスライム、コボルトの順だった。

 逆に一人でよかったかもしれない。洞窟タイプのゴブリンのダンジョンは弓も魔法も使い辛いから結局私一人で戦わないといけなくなる。

 襲い掛かってくるゴブリンの首を撥ねて魔石を回収する。相変わらず臭い……。

 【神速】を使って最速でダンジョンを進んでいく。

 ボスの群れを発見し、突っ込んで斬り伏せる。

 

『完全討伐報酬を挑戦者に送ります』

 

 攻略のアナウンスが流れた。宝箱の中身は【強射】の技能書が入っていた。

 これは【弓術】の技能なので七海に渡そう。


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