33話--皆とダンジョン--
ゲートに入ると中は草原だった。
見晴らしのいい小さな丘の上に私たちは立っており、周囲を確認したが見える範囲にはモンスターはいない。
七海と小森ちゃんのスキルの確認をしてしまおう。
前回沙耶に説明したことを同じく説明して能力値を確認してもらう。
「【弓術】っす! 高校でアーチェリーやってたからっすかね?」
「わたしは【支援】です。戦えるものじゃないのかなぁ……?」
「二人とも、最高だね」
七海のスキルである【弓術】は文字通り弓を使うと攻撃力が上昇するスキルだ。1つだけ技能が最初から使える。技能の名前は【回収】で自身が撃った矢を文字通り回収することができる。
私のアイテム袋に入っている古代竜骨の弓と矢を渡して使ってもらうとしよう。
「七海はこれ使って」
「承知っす!」
「小森ちゃんは……使える技能って何かある?」
「えっと、【
なるほど。小森ちゃんの【支援】は
【支援】には3つ型があり、他は
自己強化型は滅多におらず自分にしか上昇効果を使えないがその分、上昇効果型より上昇量が多いらしい。
回帰前に自己強化型の奴から聞いた話だから少しだけ曖昧だ。
【支援】の技能は使えば使うほど効果量と効果時間が増えていく。
早速、小森ちゃんに使ってもらおうかな。
「小森ちゃん、私に【速度上昇】をかけてもらえる?」
「はい! 手を貸してください」
手を小森ちゃんに向けると指先を少しだけ握って小さく【速度上昇】と呟いた。
体が軽くなった感じがする。体感的に私の【神速】の1割程度ではあるが、今はこれで十分だ。いずれ、触れなくても技能を使うことができるようになるはずだけどそれはまだまだ先の話だろう。
「ありがとう。そうだ、私のスキルで【統率】ってのがあって
3人に隊列の提案をする。
隊列は複数人でダンジョンに行くときや一緒に攻略する者に【支援】持ちが居る場合は組んだほうがいい。
ダンジョンをクリアするときに個人が倒したモンスターの数によってその者のレベルアップとかが決まるのだが、【支援】スキルは攻撃系の技能がないためモンスターを倒せない場合が多い。
隊列を組んでいると報酬をもらうときに個人ではなく、隊列単位での数になり報酬が均等割りされるので【支援】スキル持ちもレベルが上がる。
そのことを3人に説明すると快く承諾してくれた。
隊列が全員に承認されて少しするとこぶし大の石が飛んできた。
剣で叩き落して飛んできた方向を見る。
――コボルトだ。10匹の群れが私たちを見据えている。
「沙耶は前のスライムの時のように私ごとコボルトに【炎球】を。七海は周囲の確認をしつつ新手が来たら報告して射って。方向は私が突っ込んだ方角が12時。小森ちゃんは全員に技能を使って」
全員に指示を出す。
小森ちゃんの技能を使用する声と共にコボルトたちに向かって駆ける。
一太刀で2匹を斬り裂くとコボルトが私を避けるように左右に展開した。
それを見越して沙耶が逃げ道を塞ぐように【炎球】を放ち、展開を阻止した。
炎の壁に行く手を阻まれたコボルトは私の方へ向かうしかなく、残り全匹が私に飛びかかってきた。【神速】を使って8匹の首を撥ね、剣の血を切った。
「先輩っっ! 2時と10時に新手っす!」
「了解! 沙耶と七海は10時を牽制、攻撃して! 小森ちゃんは二人に再度技能を!」
元気な返事が聞こえてくる。沙耶の【炎球】が私の左の方へ飛んでいくのを確認して2時方向のコボルトを処理する。
2時方向の13匹全て倒し終わって10時方向のコボルトを見ると残りは2匹だった。9匹居たらしく、7匹が倒れている。
これは手を出さずに見守ろう。沙耶が七海の視界を奪わないように【炎球】を小さくして火柱が上がらないようにしているのが見て取れた。
七海も渡した弓の使い方に慣れてきたのか速射でコボルトの足に当てた後、頭に命中させている。
全匹倒れた。ちゃんと死んでいるか剣を刺して確かめていく。
コボルトは闘争心が高いから死ぬまで戦うんだけど、ゴブリンとかだと死んだふりをしている時があるから確実に倒した自信が無い場合は死体蹴りをした方がいい。
「うん、全部死んでるね」
そう言うと3人が抱き合って喜んだ。
水を差すようで悪いけど……まだ大切なことが残っている。
ポーチからサバイバルナイフを3人に渡す。
「ナイフ? 何に使うんすか?」
「胸の中心辺りにある魔石を剝ぎ取るんだよ」
実際に目の前でやって手本を見せる。腹の上の方に縦の切れ目を入れて手を突っ込んで胸の中心まで中から手を伸ばすんだ。
魔石を掴んだらそのまま勢いよく引き抜く……。3人が唖然としている。
「え、本当にやらないとダメ?」
「うん。早く慣れて? この石がこれからの重要な収入源になるから」
モンスターが再度出現し終えるまでにこの作業を終わらせないといけない。
3人の後ろに立って監督する。
「七海と沙耶は3匹で小森ちゃんは2匹ね」
そう言って周囲を見回した。私が倒した分は既に魔石は回収してある。
スキルを獲得するために魔石を口に入れる。
……相変わらず飲み込み辛いなぁ。
『【統率】は既に取得済みです。魔力保有量が増加しました』
『【統率】は既に取得済みです。魔力保有量が増加しました。以降はスキル取得時のみ
3つ目を口に入れて飲み込んでも何もなくなった。魔力が増えているのは感じ取れている。
渋谷の時のコボルトより二回りぐらい小さいので、スキルが1つしかないのだろうか……。4つ目を口に運ぼうとすると小森ちゃんが私に声をかけた。
「あの、橘さん……終わりました」
「……早くない?」
苦虫を嚙み潰したような渋い表情をしている沙耶と七海はまだ1匹目。しかし、小森ちゃんの手には2つの魔石がちゃんとあった。
小森ちゃんの頬に血がついていたので指で拭う。
「あっ、ありがとうございます。実家が田舎で……子供のころ鹿とか猪とかの解体を手伝ってたので、あまり抵抗がありませんでした」
「そうなんだ……。じゃあ、七海と沙耶のを1匹ずつお願いしていい?」
「はいっ!」
小慣れた手つきでコボルトの腹にナイフを入れて手を突っ込む小森ちゃん。
心なしか生き生きとしているようにも見えた。
――ダンジョン内の魔力に微細な変化が生じた。
「来るよ。解体は一旦中断、準備して」
3人にタオルを渡して血を拭かせる。
少しすると私たちを中心に囲むようにコボルトの群れが5つ出現した。
12時の方角に出現した群れには渋谷で見たサイズのコボルトが1匹居る。手に大型のククリナイフを持っているからアレがボスだろう。
他のコボルトは2時、5時、7時、10時の方角だ。
「沙耶。私が5時に突っ込んだら2時と7時に高めの火力で【炎球】を。七海は10時に速射……当てなくていいから数をバラまいて」
言わずとも小森ちゃんが技能を使っている。
沙耶と七海が頷いた。このままだと袋叩きにされてしまうので一旦、ボスから距離を取る。
「いくよ!」
私が5時方向へ駆け出すと沙耶の【炎球】の火柱が2時と7時で上がった。
七海も指示通り矢をバラまいているため10時の動きが止まっている。
【神速】で接近して5時方向の20匹を斬って、残った1匹をボスに向かって投げた。
「こっちに走って!!」
肉弾と化した1匹のコボルトとすれ違うように3人がこっちに走ってくる。
囲まれないように位置取りをしつつボスの群れの動きを伺う。
私たちが下がったことでコボルトの群れは横一線となり群れは1つになっていた。
ボスが一声鳴くと3つに分かれて1つを残して左右に展開した。
「全員で右に行くよ。前進しながら攻撃!」
その場に留まると囲まれてしまうので全員で右に展開した群れに突っ込む。
七海の矢と沙耶の【炎球】、そして私が右の群れを蹂躙する。
右の群れを全て倒し終える寸前でボスと左の群れが私の方へ合流した。
「3人は後退、安全な距離から全力で攻撃して!」
残りの全部がこっちに来たので3人を下がらせる。何匹かのコボルトが3人を追おうとしたが全て斬り捨てた。
「さあ、あの子たちを追いたければ私を倒してから行くんだね」
――なんて、言ってみる。
3人には聞こえないぐらいの声で言ったので聞こえてないでくれ、頼む。
【炎球】と矢が飛んできた。うん、そのぐらい離れてれば大丈夫だろう。
順番に目に付いたコボルトから斬ってゆく。
10分もしないうちに残すはボスのみとなった。
「グルルルルルルル……」
ボスが私に威嚇をする。二足歩行でも威嚇は犬と同じなんだ……。
大きく吠えて私にボスが斬りかかった。襲い掛かるククリを剣で往なして足に軽く傷をつける。
それを繰り返しているうちに、だんだん大振りになってきた。
横薙ぎを剣の腹で流して力を加えて態勢を崩させた――今だ。
「七海!!」
「はいっす!」
七海の放った矢がボスの脳天に突き刺さる。
そのままボスは音を立てて倒れた。
『完全討伐報酬を挑戦者たちに送ります』
無機質な音声がダンジョン攻略完了を告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます